いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「オールブラックセラミック」。高級時計の素材としてセラミックが脚光を浴びて久しいが、そのトレンドの最前線にいる“オールブラック”に注目!
高級時計の素材としてセラミックが脚光を浴びて久しい。そのトレンドの最前線にいるひとつが“オールブラック”だ。ケースもブレスレットもブラックセラミックで、文字盤も同色。モードで、洗練された、そして禁欲的な黒一色のセットアップは、スポーティとフォーマルの両面を併せ持ち、無彩色ゆえの没個性どころか、唯一無二の魅力を存分に纏う。
腕時計に用いられるセラミックは、21世紀初頭に一気にブームが開花した。硬く、傷つきにくく、腕時計の理想に近い。アレルギーフリーで軽量であることも、肌に直接触れるプロダクトとして望ましかった。セラミックが出始めた初期には、原材料を焼成して整形する段階で不可避的に起こる縮みや、硬さからくる表面仕上げの難しさが浮き彫りになったが、それらの問題は次々に解決され、現在では鏡面と筋目の磨き分けもなされ、美しい奥行きを演出できるようになった。また貴金属価格の高騰もあり、世界がプレシャスな新素材を求めていた事情にセラミックは合致し、高級時計のラインアップに居場所を占めたのである。
オールブラックという外見は、本来はセラミックだけの特権ではない。スポーツウォッチの分野であれば、黒い樹脂製ケースに黒のラバーストラップは珍しくないし、比較的低価格なカジュアルウォッチでも同様だ。しかし腕時におけるファッション性やブレスレットの重要性が増す中で、オールブラックセラミックという選択肢は、時代の先端を走る確かな一手になりうるだろう。
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1.IWC SCHAFFHAUSEN(アイ・ダブリュー・シー シャフハウゼン)
インヂュニア・オートマティック 42

巨匠ジェラルド・ジェンタが生み出したケース一体型ブレスレットのデザインに、IWC初のフルセラミック構造を採用した「インヂュニア」。オリジナルを忠実に再現しつつも、スリムなプロポーションを目指して細部まで再設計された。全体をブラックで統一しながら、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げ、サンドブラスト加工を巧みに組み合わせ、奥行きのある美しさを実現。
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2.RADO(ラドー)
アナトム オートマティック

ケースから流れるような一体感のあるブレスレットは、ポリッシュ仕上げのブラックハイテクセラミック製リンクをステンレス・スチール製の中央リンクで連結。メタライゼーション処理されたサファイアクリスタルがケースやブレスレットとシームレスにつながり、文字盤の水平ストライプパターンとも調和する。耐磁性を備えたニヴァクロン製ヒゲゼンマイを採用。
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3.BELL & ROSS(ベル&ロス)
BR-05 ブラック セラミック

飛行機のコックピットのダッシュボード計器から着想を得た、スクエアの中にラウンドを組み合わせたベル&ロスの特徴的なデザインを維持しながらも、ケースとブレスレットを一体化させて都会的な装いに昇華した「BR-05」。そこに強めのヘアライン仕上げとポリッシュ仕上げを施したブラックセラミックを採用し、力強さとエレガントな洗練さを表現した。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。近著に『ロレックスが買えない。』。※この記事はPen 2025年10月号より再編集した記事です