毎年スイスで開催される世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」。2025年も各ブランドから、技術とデザインの粋を集めた新作が多数発表された。その中から、時計ジャーナリスト・篠田哲生が独自の視点で注目する必見モデルを5本紹介する。
ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー キングゴールド セラミック」

恐らくだが、仕事のキャリアを通じて最も多く見て・書いてきた時計が、ウブロの「ビッグ・バン」だろう。以前のウブロCEOだったビバー氏にロングインタビューし本も執筆したし、広告関連の記事もずいぶん手掛けた。自分自身のフリーランスとしてのキャリアの始まりも、この時計が誕生した2005年頃なので、一緒に成長してきた“同志”という気持ちで、いつもその動向を追いかけている。
そんな傑作が20周年を迎え、心惹かれるアップデートが加えられた。衝撃的なデビューを果たした初代モデルのムードを残しつつ、「ウニコ 2」ムーブメントを搭載することでインダイヤルは2つ目となり、43㎜のケースとの組み合わせも新鮮なバランスとなっている。
「ビッグ・バン」は20年を経ても、まだまだ素晴らしい進化を続けている。この時計との付き合いは、まだ当分続きそうだ。
ロレックス「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 36」

どのコレクションも、機構やデザインが成熟しているロレックスは、「動かざること、山のごとし」な印象がある。しかし今年は電光石火ともいえる動きで新コレクションを投入してきた。陸海空を制覇するドゥエラー3部作の最後を飾る「オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー」は、1969年のクオーツモデルからインスピレーションを得たデザインが特徴で、シャープな造形のケースからシームレスにブレスレットへと繋がるスタイルは、現代のラグスポにも繋がる力強さと美しさがある。
しかもトランスパラントケースバックなので、ムーブメント「Cal.7135」を鑑賞できるのもメリットだ。さらにムーブメントの脱進機まわりにも新技術を取り入れており、語るべきポイントも多い。今年の話題作になるのは間違いないだろう。
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カルティエ「タンク ア ギシェ」

個人的に憧れている時計がいくつかある。しかしその多くは販売が終了しており、ほぼ入手不可能。ヴィンテージ市場で探すしかないのが現状だった。そのひとつがカルティエの「タンク ア ギシェ」。ジャンピングアワーと回転ディスクの分表示を、小さな窓(ギシェ)で表示する時計は、1928年に誕生した時計界の伝説的モデルで、愛好家からは“鉄仮面”と呼ばれている。これまでに何度か復刻したが、限定生産だったので購入は絶望的だった。
しかし今年、なんとレギュラーモデルとして復活。年間の生産本数は多くはないだろうが、それでもいままで以上に手に入れるチャンスは増している。
マスターピース「タンク」の派生版でありながら、誰もが目を奪われるアバンギャルドさを楽しめる時計。そんな「タンク ア ギシェ」を腕に迎え入れる日を夢見ている。
IWC「インヂュニア・オートマティック 35」

最近気になっているのが、フルゴールドの時計。ケースだけでなくブレスレットもゴールドで、可能ならダイヤルも同系色で揃えたい。時計というよりも、ブレスレット感覚で楽しめる時計を探している。
今年の新作の中なら、IWCの「インヂュニア・オートマティック 35」を選びたい。素材や色使いは理想的である上に、ケース径が35㎜になったことで、フルゴールドの時計を使う際に懸念される“これ見よがし感”がかなり薄れている。ジェラルド・ジェンタの傑作を進化させるかたちで生まれたデザインとケースサイズの相性もよく、スポーティでありながら、ゴールド素材ならではのエレガントな魅力も備わっている。
既に40㎜モデルは所有しているが、この35㎜のフルゴールドモデルなら、妻とのシェアウォッチとしても活躍してくれそうだ。
グランドセイコー「SLGB003」

ウォッチズ&ワンダーズに、非欧州ブランドとして唯一参加するグランドセイコー。その存在は同胞として頼もしく、そして誇らしい存在でもある。
しかも発表する時計もまた見事だ。独自機構であるスプリングドライブをブラッシュアップした「Cal. 9RB2」は、ゼンマイ駆動の時計としては驚異的な年差±20秒を実現した。この精度を実現させるために水晶振動子の加工方法を見直し、スプリングドライブ史上初めて精度調整のための緩急スイッチを採用。3ヶ月間、エイジングした水晶振動子を高性能IC回路と一緒に真空パッケージすることで、温度や湿度の影響も少なくしている。
このムーブメントを搭載する「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. SLGB003」は美的表現でも秀逸で、ダイヤルには厳冬期に現れる霧氷の情景を繊細に描き出されている。
スイス時計とは異なるアプローチで高級時計の価値を追求するグランドセイコー。いまやスイス時計産業の中心地においても、確固たる地位を築いている。

篠田哲生(時計ジャーナリスト)
1975年、千葉県生まれ。時計専門誌やビジネス誌、ファッション誌、ウェブ、新聞など40を超える媒体で時計記事を執筆。そのほか、時計イベントの企画や登壇も行う。近著の『教養としての腕時計選び』(光文社新書)は、韓国と台湾で翻訳版が発売されている。