瀬戸内の風景を映し出す、建築全体がアートな美術館【今月の建築ARCHITECTURE FILE #10】

  • 文:佐藤季代
  • 写真:SIMOSE
Share:
水盤に浮かぶ可動展示室は日本と西洋の近代美術をテーマに沿って展示。ブリッジで連結された10m四方の8つの箱が移動・拡張できる。

山口県との県境に位置する広島県大竹市。対岸に宮島をはじめとする瀬戸内海の島々を望むエリアに、広島市に本社を構える建築金物の総合メーカー・丸井産業の創業60周年を機に構想された「下瀬美術館」が開館した。4.6ヘクタールの広大な敷地内に立つ10棟のヴィラやレストラン、庭園などが一体となったアート複合施設「シモセ」。その中核をなす美術館は、創業家の下瀬家がコレクションしてきた日本の工芸品からエミール・ガレやアンリ・マティスなどの西洋美術までが展示されている。

02_230306_下瀬美術館_0199.jpg
カフェとショップを併設したエントランス棟。外壁には、瀬戸内の豊かな景色を映り込ませるミラーガラスを採用している。

設計を手がけたのは、建築界のノーベル賞として知られるプリツカー賞を受賞した坂茂(ばんしげる)。海岸線に沿って「エントランス棟」展望テラスのある「企画展示棟」「管理棟」が並び、それらが長さ190mにおよぶミラーガラスの外壁でつながる。海辺の景色が映り込んだ通路を行き来するなかで、自然とアートを同時に体感できる。

03_230328__0009_0405.jpg
庭園に面した5棟のヴィラ「キールステックの家」。さらにこの他、坂が過去に手がけた別荘建築をベースに再設計されたヴィラがある。

なかでも目を引くのが、建物前の水盤に浮かぶ8つのガラスキューブでできた「可動展示室」。ガレの作品に描かれる草花の色から着想を得たカラフルな箱が、夜になると照明によって浮かび上がり、展示室そのものがアートのような佇まいを見せている。

敷地内に点在する建築を愛でながら自然とアートを体感できる同施設は、広島の新たな魅力を伝える名所となりそうだ。

04_230328__0028_0405.jpg
「エミール・ガレの庭」では館内で多数展示されているガレの作品に描かれた草花を中心に、四季折々の植栽を見ることができる。

 

A_DSF9347.jpg
エントランス棟の内部は、放射状に延びるヒノキの梁と2本の巨大な柱が木造の大空間を支える。各建物の構造も見どころのひとつ。 photo: Hiroyuki Hirai

下瀬美術館

住所:広島県大竹市晴海2-10-50  
TEL:0827-94-4000
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始、展示替え期間
料金:一般¥1800
https://simose-museum.jp
【設計者】坂茂建築設計
1957年、東京都生まれ。85年、坂茂建築設計を設立。「ポンピドゥ・センター・メス」をはじめ世界各国の建築を手がける。被災地で紙の住宅をつくるなどの支援活動が評価され、2014年にプリツカー建築賞受賞。

関連記事

※この記事はPen 2023年8月号より再編集した記事です。