【小山薫堂の湯道百選】第八二回“湯は、縁をつなぐ。”

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂
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〈大阪府大阪市〉
寿楽温泉

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いい風呂との出あいは、偶然の連鎖から生まれる。今回の湯に浸かることができたのは、まさに偶然の賜物と言っていいだろう。

いまから2年ほど前、大阪の下町で一軒の銭湯が廃業した。その名は「寿楽(じゅらく)温泉」。1963(昭和38)年に創業し、夫婦で営んできたが、体力的に継続困難となり廃業を決めた。跡を継ぐ若者を探したものの、誰も手を挙げなかった。昭和の匂いが残る素敵な建物だが、もはや解体するしかない……。そう決断し工事の打ち合わせを業者と行っていた時、犬の散歩をしていたひとりの男性が偶然通りかかった。「取り壊して駐車場にする」という話を耳にした男性は、その場で「私に引き継がせてくれませんか?」と手を挙げた。店主はふたつ返事で快諾。かくして寿楽温泉は開業60年目となる2023年の春、復活を遂げた。

引き継いだのは近所で社会医療法人を運営する医師の三木康彰さん夫妻。地域活性を目的に銭湯経営に挑戦したという。大きなリノベーションは行わず、番台をフロント形式に変更し、庭の景観をよくする工夫をした程度。地元の廃材を焚く べて湯を沸かす技術も先代から引き継いだ。二階の休憩スペースでは定期的にイベントを開催し、地域交流の拠点となっている。

今回「大阪に心まで温まる、とっておきの湯屋がある」という投稿によってこの銭湯を知った。投稿してくれた久保山拓哉さんは、別の湯屋で知り合った風呂友達から寿楽温泉を教えてもらったという。湯は縁をつなぎ、そこから物語が生まれるのである。

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昔の面影を残したリフォームによって蘇ったレトロな雰囲気が漂う番台には、オーナーの奥さまである三木順子さんも立つ。希望する人は、湯を沸かすボイラーに薪を焚べる体験もできる。
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Osaka Metro四つ橋線北加賀屋駅から徒歩5分の場所にある銭湯。暖簾の前に立っているのはオーナーの三木さんご夫妻。

寿楽温泉

住所:大阪府大阪市住之江区北加賀屋1-10-1
TEL:080-4788-9586
営業時間:15時~23時
料金:¥490
休業日:水曜日
https://jurakuonsen.com

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※この記事はPen 2023年8月号より再編集した記事です。