【小山薫堂の湯道百選】第七九回“湯は、新しい自分をつくる。”

  • 写真:杉本 圭
  • 文:小山薫堂

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〈愛媛県松山市〉
道後温泉 別館 飛鳥乃湯泉「特別浴室」

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聖徳太子がご来浴した言い伝えがある道後温泉。本館の保存改修工事に伴い、2017年に別館として建てられたのが「飛鳥乃湯泉」。

日本最古の温泉のひとつとされる道後温泉。その象徴である1894(明治27)年竣工の道後温泉本館は、日本の公衆浴場として初めて、国の重要文化財に登録された。移築や増改築を繰り返し、非常に複雑なこの建物の東側に、「又新殿(ゆうしんでん)」と名付けられた日本で唯一の皇室専用の浴室が存在する。これまでにこの場所が使用された回数はわずか11回。1952(昭和27)年のご来浴が最後となっている。現在は一般入浴者に開放されることはなく、見学のみが許されている。

しかしその設えを再現し、一般客も入浴できる浴室が、別館として建てられた「飛鳥乃湯泉」にある。その入浴作法は独特だ。まず、数寄屋造りの絢爛な八畳間で、一定以上の身分の方が入浴のときに着用していた「湯帳(ゆちょう)」と呼ばれる浴衣(よくい)に着替える。襖を開ければ、板の間の先に重厚な石づくりの浴室が! 壁面には道後温泉発祥の伝説にちなむ白鷺のレリーフが刻まれ、天井には天皇ゆかりの文様が描かれている。石段を下り、湯に浸かる。注がれる湯の音だけが茶室のごとく響き、湯帳のゆらぎすら心地よく感じる。

又新殿とは、中国最古の王・湯王(とうおう)が好んだ言葉に由来する。

「新しい一日を迎えるたびに、自分自身を向上させる」

湯王はこの言葉を洗面器に刻み、毎朝顔を洗うたびに自分に言い聞かせていたという。又新殿を模したこの特別浴室で得た感覚を、自宅の風呂に持ち帰る……これこそが、道後温泉最高の土産なのである。

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本館に残る絵。白鷺が傷を癒やしていた言い伝えから、シンボルに。

 

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本館「又新殿」の御居間(おいま)。皇室の方々のご休憩場所。「玉座の間(奥)」には天皇陛下だけが座ることができる。

道後温泉 別館 飛鳥乃湯泉「特別浴室」

住所:愛媛県松山市道後湯之町19番22号
TEL:089-932-1126
営業時間:6時~22時
料金:¥2,040(1組使用料)+大人¥1,690
https://dogo.jp/onsen

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※この記事はPen 2023年5月号より再編集した記事です。