1.AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)
ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
長い不在から復活した縦3つ目のスターは、コレクションで初のブラックセラミックを素材に選択した。ダイヤルにはプチタペストリー模様を施し、蓄光仕様のホワイトゴールド製アワーマーカーと時分針を添えた。ベゼルの上面をヘアライン、側面をポリッシュに仕上げたつくり込みの妙も見逃せない、自社製ムーブメント搭載のスペシャルピースだ。
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2.IWC(アイ・ダブリュー・シー)
パイロット・ウォッチ・クロノグラフ
縦3つ目クロノグラフといえば選択肢から外せないのがIWCだ。特にブランドの顔のひとつであるパイロット・ウォッチは、ステンレス・スチールだけでなくチタン、セラミック、ブロンズケースなど素材の選択肢も多く、ダイヤルカラーも豊富。デイ・デイト表示を3時位置に備えた端正なレイアウトは永遠のベストセラーだ。ストラップは簡単に交換可能な「EasX-CHANGE」システムを採用。
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3.BREITLING(ブライトリング)
アベンジャー クロノグラフ 43
ブライトリングは往年の傑作「オールドナビタイマー」をはじめ、縦3つ目のデザインに抜群の冴えを見せてきた。現「アベンジャー」コレクションの縦3つ目は、名機ヴァルジューの系譜に連なるベースムーブメントに徹底的なチューンアップを施し、COSC認定のクロノメーター精度を誇る傑作に仕上げた“キャリバー13”を搭載。自社製“キャリバー01”の横3つ目と並ぶ、ブライトリングの自信作だ。
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縦3つ目の機械式クロノグラフは、少数派といってもいいかもしれない。横3つ目が幅を利かし、クラシカルな横2つ目もブーム。だからこそ、6・9・12時位置のスリーレジスターは斬新に映る。
これがひと昔前だとまったく事情が異なり、縦3つ目が高級機械式クロノグラフの主流だった。そこにはふたつの理由があり、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」の初代がこのレイアウトで大ヒットしたこと、もうひとつは「ヴァルジュー」の旧称で呼ばれ続けたベストセラームーブメント“ETA7750”の存在だ。高パフォーマンスの汎用ムーブメントとして多くの高級腕時計メーカーに供給され、各ブランドはそのベースムーブメントにアレンジを加えて個性化したが、レイアウトの変更までは難しい。結果として縦3つ目クロノグラフが覇を競ったのが21世紀初頭の事情だ。
しかし2010年頃から、ETA社のムーブメント供給が絞り込こまれ、様相が変わる。ヴァルジュー依存からの脱却を促したこの時期以降、各社から誕生した自社製作のムーブメントは、好んで横3つ目を選択したのである。
そこから10数年を経て、いま縦3つ目のスタイルが見直されている。オーデマ ピゲは自社製ムーブメントのひとつを縦3つ目で開発し、「ロイヤル オーク オフショア」に再び搭載して喝采を浴びた。IWCなど縦3つ目を継承したモデルも高評価だ。クロノグラフの、選択の自由。蘇った縦3つ目の人気は、機械式腕時計の多様な嗜好を物語るのである。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。
※この記事はPen 2023年6月号より再編集した記事です。