非当事者の内面をもゆさぶる、2人の作家による圧倒的なダイナミズムとは

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)

Share:

非当事者の内面をもゆさぶる、圧倒的なダイナミズム

 

SL_04.jpg
志賀理江子『あの夜のつながるところ』(2022年)、インスタレーション 撮影:髙橋健治 画像提供:トーキョーアーツアンドスペース

中堅作家を対象に複数年にわたる支援を行う本アワード第3回の受賞者、志賀理江子と竹内公太の受賞記念展が開催中だ。

宮城県へ移住後に東日本大震災で被災した志賀は、12年にわたる復興計画の下、国家や巨大資本の力に圧倒されながらも制作を続けてきた。この2年間は、本アワードの支援をもとに自身のスタジオを開放し、トークやワークショップなどの活動から多角的な発想を得てきた。

展示室冒頭では約30mにおよぶ映像が、夜の防潮堤の上を歩く女性たちの姿を映し出す。その奥では圧巻のインスタレーションが展開される。福島山中の私有地に、津波にのみ込まれた重機が積み上げられ、撤去されることを拒む真っ赤な×が付けられた光景。沿岸地域のマッピングとともに、延々と連なる『人間の道』と題された映像のカットアップ。現在進行形の復興の渦中で、中央集権政策と人の営みの関係性がいびつに浮き彫りになり、震撼させられる。

一方竹内は、第二次大戦中に日本がアメリカに放った「風船爆弾」の着地点を、グーグルマップと米軍の文書記録、さらに現地での膨大な調査から追跡し特定した。過去の事実に注がれる視点が、当事者から作家、鑑賞者へと「憑依の連鎖」を重ねながら語られていく。原寸大の風船爆弾のオブジェが横たわり、ゆっくりと呼吸するさまが戦時下の空気を連想させる。

震災の爪痕が深く残る宮城と福島を各々の拠点とするふたりの作家は、受賞を機に対話を開始し、本展は共同作品といえるものになった。「人の手で裁きようのない暴力性」という共通のテーマを追い続けてきた彼らの執念にも似た熱意が、非当事者である私たちをもゆさぶる成果展示である。その圧倒的なダイナミズムに自分自身の足元を確かめずにはいられない。

TK_02.jpg
竹内公太『さばかれえぬ私へ Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023受賞記念展』展示風景、東京都美術館、2023年

『さばかれえぬ私(わたくし)へ Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展』

開催期間:~6/18
会場:東京都現代美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(5/13、14、20、21、27、28は20時まで)
休館日:月曜日
料金:入場無料
www.tokyocontemporaryartaward.jp

関連記事

※この記事はPen 2023年6月号より再編集した記事です。