「自分とはなにか」ということをカメラを通して問い続けた写真家、深瀬昌久の軌跡

  • 文:河内タカ(アートライター)

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「自分とはなにか」ということを、カメラを通して問い続けた写真家

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ともに『無題(窓から)』〈洋子〉より 1973年

1960年代から日本写真界の第一線で活躍していた深瀬昌久。しかし、92年に新宿ゴールデン街の行きつけの店の階段で転落し、脳挫傷のため重度の障害を負い、その後写真家としての活動は完全に止まってしまう。以後療養を続けていたが、カメラを手にすることは二度となく、2012年に78歳で、特別養護老人ホームで息を引き取った。

そのような不運な経緯もあり、これまで謎多き写真家として語られてきたわけだが、60年代から事故直前までの約40年におよぶ深瀬の軌跡をたどる今回の回顧展は、この写真家の知られざる全貌を浮き彫りにするようなものとなる。

「遊戯」「洋子」「家族」「烏(鴉)」「サスケ」「歩く眼」「私景」「ブクブク」の8章からなる本展は、自分自身へと向き合うためにシャッターを切り続け、生涯をかけカメラを通して洞察を続けたこの写真家の独自の世界が垣間見えるようだ。

深瀬の代表作としてよく取り上げられるのが『烏(鴉)』で、これが国内外に多くのファンを生んだ背景には、限定数で出版された写真集の存在があった。どこか不穏な感じがする写真群なのだが、深瀬は自身の手記に「カメラを持った烏になって、黒い友達を追って遊んでいた」と記していた。この言葉からも、烏の姿は当時の深瀬の心情を反映させたものだったとされている。

このほかに、妻、家族、そして愛猫(そのうちの一匹がサスケである)や、「私景」と「ブクブク」においては自らを被写体としたが、深瀬は身近な人々や動物にカメラを通してとことん向き合う強い姿勢があった。

一方でそれらは愛するものたちであったがゆえに、周囲を巻き込んで迷走し苦しんだこともあった。約40年におよんだこの波瀾万丈の写真家の軌跡をたどる回顧展をお見逃しなく。

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© 深瀬昌久アーカイブス

『深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ』

開催期間:~6/4
会場:東京都写真美術館
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 ※木、金は20時まで。入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※ 5/1は開館
料金:一般¥700
www.topmuseum.jp

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※この記事はPen 2023年5月号より再編集した記事です。