ソニーの小型衛星、水蒸気による初の推進システムを搭載

  • 文:青葉やまと
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水蒸気による初の推進システムを搭載 (Image credit: Sony)

<安全かつ安価な水を使い推進力を得る、初のシステムが宇宙へ飛び立った>

ソニーの小型衛星「アイ(EYE)」が、スペースXのファルコン9ロケットによって1月に打ち上げられた。アイは水蒸気による初の推進システムを搭載している。このシステムが衛星の高高度への移行に用いられるとアナウンスされており、成否の発表が待たれる。

推進システムは水レジストエンジンと呼ばれ、噴射剤として一般に用いられるガスなどに代わり、水を噴射することで軌道を維持する。機体に搭載した液体の水を水蒸気にし、高速で噴射した反動で推力を得るしくみだ。

米技術解説誌のインタレスティング・エンジニアリングは、「水を用いた初の推進テクノロジー」だと報じている。

宇宙ポータルサイトのSpace.comはペールブルーによる情報をもとに、水レジストエンジンによって小型衛星のアイが軌道を適切に維持することが可能となり、衛星の寿命を2年半ほど引き延ばす結果につながると報じている。

キューブサット(小型衛星)の需要がますます高まるなか、有毒な燃料を含む噴射剤よりも安全性が高く、低価格かつ環境負荷が少ない手法として注目されている。

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日本のベンチャーが開発、「業界一安価」な推進剤コストを実現

水レジストエンジンを開発したのは、東大発のベンチャー企業「ペールブルー」だ。同社は小型衛星での使用を前提に、水による推進システムを中心とした開発を手がける。同社は2020年4月に設立された。

アイに搭載されたのは水蒸気式ミニと呼ばれるタイプのもので、9センチ x 9.5センチ x 5センチというコンパクトなサイズが特徴だ。このほか、体積を約2倍にしてより推進力を高めた通常の水蒸気式、より燃費を抑えた水プラズマ式、そしてこれらを併用する水統合式が開発されている。

同社のウェブサイトによると、複数のエンジンを組み合わせるクラスタリングの手法により、最大16mN(ミリニュートン)の推力を得ることが可能となる。参考として、「はやぶさ2」に搭載のイオンエンジンは1基あたり10mNを生じる。

同社によると、30秒の加熱で使用できる即応性は「業界平均の10倍高速」であり、1kgあたり1ドルという推進剤の調達コストは「業界一」安価だとしている。推進剤のキセノンと比較した場合、1000分の1のコストだという。

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ファルコン9で打ち上げ後、軌道投入に成功

アイは1月3日、スペースXが実施した衛星ライドシェア・ミッション「トランスポーター6」によって打ち上げられた。このミッションでは同社の2段式商用ロケット「ファルコン9」を用い、114基の衛星を一度に打ち上げている。

アイはキューブサットと呼ばれる小型衛星で、6単位分の体積を持つ「6U」と呼ばれるサイズに相当する。ソニーグループはプレスリリースを通じ、打ち上げと同日に高度524キロの軌道へ投入されたと発表している。

その後、Sバンドを用い、すでに地上局とのあいだで通信が確立。太陽電池パドルの展開に成功したこと、および電力が正常に確保されていることが確認された。

衛星は港区のソニーグループ本社ビル内に設けられた管制室から運用される。1月時点での計画として、搭載のカメラによる静止画および動画を送波するためのXバンド通信を確立後、水レジストエンジンを用いてより高い高度へ移行する予定となっていた。

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運用計画の変更で予定順延か

ペールブルーは1月末に噴射を実施するとアナウンスしていたが、現時点で実施有無および成否に関するリリースは出ておらず、続報が待たれる。

ソニーによるプロジェクトのTwitterによると、アイは1月末ごろ、一時的にセーフモードに入っていたという。ほかのプロジェクトと共同利用する地上局を予定通りに使用できず、アイは一定期間信号を受信できなかったことから自動的にセーフモードへ移行していた。モードは現在解除されたが、これにより一部の初期設定を実施し直す必要が生じたため、工程表に変更が出ているようだ。

アイはソニーが東京大学および宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同して進めるプロジェクト「STAR SPHERE(スター・スフィア)」の中核をなす。

スター・スフィアでは、アイに装備されたフルサイズセンサー搭載のカメラを通じ、地上からの遠隔操作によって宇宙空間での撮影を体験できる。ソニーは今年春ごろから一般の人々を対象に、撮影体験サービスを展開する予定だ。

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ペールブルーによる公式動画

 

Product Introduction - Pale Blue

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打ち上げのライブ配信

 

STAR SPHERE 人工衛星「EYE 」打ち上げライブ配信イベント

青葉やまと

フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。

※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。

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