<犬が好きの人々が引き受けていた雑用ビジネスが、パンデミックを機に急成長。人気のドッグ・ウォーカーたちは、1時間あたり1万円を超える収入を得ている>
犬の散歩はありふれた行為にも思えるが、立派な専門職として成立しているようだ。飼い主たちが忙しいときに散歩を代わる「ドッグ・ウォーカー」たちが、ニューヨークで高額の収入を得ている。
ニューヨーク・タイムズ紙は、NY中心街・マンハッタンでの犬の散歩事情を報じている。富裕層が集まるこの地区では、多忙時に頼れるドッグ・ウォーカーへの需要が殺到している。
NY市内に住む女性のベサニー・レーンさんは、人気のドッグ・ウォーカーのひとりだ。彼女がこの仕事を始めたのは11年前、苦学生時代だったという。家賃と学生ローンの支払いが迫っていたレーンさんは、個人間で依頼や売買を行う人気サイト「クレイグリスト」を訪れ、犬の散歩の依頼を見つけた。
犬好きの彼女にとって、この仕事は完璧だった。オーナーに代わって犬に幸せな時間を与えることを自らのミッションと考え、楽しみながらそれを実現したようだ。
ビジネスは軌道に乗り、2年後にはペットケア・サービス「ホイッスル&ワグ」を正式に立ち上げることになる。人気のウォーカーとなったレーンさんに、30分の散歩を35ドル(約4600円)で依頼する顧客もいるという。
必至に働いた結果、オーナーたちの信頼を獲得し、事業は人を雇うまでに大きくなった。レーンさんは具体的な年収の開示を避けたが、昨年の収入は6桁に達しているだろうと語っている。日本円で1300万円を超える。
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パンデミックで需要急伸 時給換算で1万円超えの散歩も
ニューヨーク・タイムズ紙は、パンデミックがドッグ・ウォーカーへの需要の引き金になったとみる。
同紙によると、アメリカではパンデミック中に、5世帯に1世帯に相当する2300万世帯以上が新たにペットを飼い始めたとのデータがあるという。ロックダウンやリモートワークで知人や同僚と会えない代わりに、ペットとのコミュニケーションに癒やしを求める人々が相次いだ。
ところが現在ではオフィスが続々と再開し、多くの人々が日中は家を離れなければならない。そこで彼らが頼るのが、ドッグ・ウォーカーたちだ。マンハッタンでは需要が殺到し、初心者のドッグ・ウォーカーでも30分で14ドル(1800円)ほどを稼いでいる。
人気のウォーカーになると、複数の犬をケアするグループウォークなどとうまく組み合わせ、その3倍を稼ぐようだ。時給換算で1万円を超える。散歩だけでなく、訓練やドッグスパなど、新たなサービスも開発されている。
レーンさんはニューヨーク・タイムズ紙に対し、人々がオフィスに戻るにしたがって、対応しきれないほどの依頼が寄せられていると語っている。犬が好きでこの仕事を始めた彼女にとって、ここまでの成功は予想外だったようだ。
「もしも若い頃の自分に、犬の相手をして暮らせるようになるんだと言っても、たぶん信じなかったでしょう」と語る。
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サイドビジネスが思わぬ大成功
副業としてこのビジネスを始め、ついには本業をやめて乗り換えた人物もいる。ニューヨーク・ポスト紙は、教師から犬の散歩の専門職に転向した男性のケースを取り上げている。
ブルックリンに住む34歳のマイケル・ジョセフスさんは、私立の特別支援学校で教師をしていた。教師時代の年収は4万ドル(現在のレートで約520万円)以下だったという。物価の高いニューヨークで家族を養うジョセフスさんにとっては、やや心許ない数字だ。
大の犬好きでもあったジョセフスさんは、すこしでも収入の足しになればと思い、犬の散歩を副業としてスタートした。パンデミックが始まる1年ばかり前、2019年初めのことだった。
事業は瞬く間に拡大した。わずか30分の散歩に対し、喜んで20ドル(約2600円)を払う顧客が多いことに、ジョセフスさんは驚いた。新たなサイドビジネスを始めたばかりの同年、犬の散歩だけで3万5000ドル(約450万円)を稼いだという。本職の給料に迫る数字だ。
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趣味が高じてビジネスオーナーに
本格的なビジネスとしての可能性を見抜いたジョセフスさんは断腸の思いで生徒たちに別れを告げ、犬の散歩ビジネスに専念する道を選んだ。自身の散歩会社「パークサイド・パプス」を正式に立ち上げ、昨年は12万ドル(約1600万円)を稼いだという。
ジョセフスさんはニューヨーク・ポスト紙に対し、「ありがたいことでした」「ビジネスオーナーとして暮らしている自分に驚いています」と述べ、突如訪れた人生の転機を噛みしめている。
パンデミック中は人々の在宅時間が伸び、事業は一時的に落ち込んだという。現在では人々がオフィスに戻りつつあり、散歩の需要は再び高まっているようだ。フルタイムの従業員を5人雇い、1日に最大30匹の犬を引き受けている。
顧客との関係も良好だ。仕事柄、裕福な依頼主と接することが多く、ある顧客はぜひ別荘を使ってくれと定期的に申し出てくれるという。なにより、大好きな犬と過ごせるのはかけがえのない喜びだ。生徒たちと会えなくなったことを寂しく思う日もあるが、子犬と過ごす日々はジョセフスさんの新たな生きがいとなっている。
動物好きというのは、それだけでひとつの才能なのかもしれない。言葉の通じないペットを一日中相手にする仕事には苦労も多いだろうが、ドッグ・ウォーカーたちは急増した依頼に戸惑いながらも、楽しんで仕事をこなしているようだ。
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青葉やまと
フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。
※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。
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