俳優・柳楽優弥「映像業界の転換期にいる、この状況を楽しみたい」【創造の挑戦者たち#73】

是枝裕和監督に抜擢された『誰も知らない』の演技によって、カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したのが14歳の時。史上最年少で栄冠に輝いた少年は、俳優の世界に距離をとる時期を経ながらも、一作ずつ着実に作品を積み重ねて、多彩なクリエイターたちに求められる俳優として唯一無二の居場所をつくってきた。

竭｡202211230011_4.jpg

そして、柳楽優弥にとって新たな挑戦ともいえるディズニープラス「スター」オリジナルドラマ『ガンニバル』の配信が、ついにスタートする。舞台となるのは、人を喰っているらしいという噂のある、都会から隔絶された村。監督はポン・ジュノの『TOKYO!』などで助監督を務め、『岬の兄妹』『さがす』で日本映画界に衝撃を与えた片山慎三、脚本は第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允と、彼にとって願ってもない布陣だったという。

「お話をいただいた時には、おそらく視聴者のみなさんと同じように、ディズニーでこの題材を描くのか、という衝撃がありました。そして片山さん、大江さんが参加していると聞き、おふたりのような心強いクリエイターの方たちとご一緒したいという興味がどんどん湧いてきて、ぜひ参加させてもらいたいと思ったんです」

生々しい描写に果敢に取り組みながら、世界の視聴者のリアクションをチームでイメージしていく作業は、心躍るものだったと撮影を振り返る。

「未知なものだからこそ面白いし、団結力も生まれたのではないかと思います。世界配信される作品だからといって、自分がやるべきことをやるという意味では、他の作品と変わりはないんです。でも、時間に追われずに準備ができたことは大きかったですね。吉岡里帆さん演じる妻との出会いや告白するシーンなど、脚本には描かれていない部分をエチュードととしてやったり、数日かけてリハーサルをしたり。照明部の方ともディスカッションをしながら、余裕のあるもの作りをすることができたと思います」

世界配信と言われても「まだピンとこないところがある」と言うが、エンターテインメント業界を冷静に俯瞰する眼差しももつ。

---fadeinPager---

自信をもてない自分と、うまく向き合っていく

竭｢202211230166_2.jpg

「映像業界の転換期にいる状況を楽しみたいと思っているんです。映画や地上波のドラマだけでなく、配信サービス発のクオリティの高い作品がたくさん生まれている。韓国が先陣を切って『イカゲーム』がエミー賞を受賞した時には、いままでには考えられなかった感動がありました。1〜2年後の映像業界がどうなっているのか予想もできないですし、自分自身もその渦の中にいるような感覚があります。もちろん怖さも感じますが、挑む価値のあることだと思っています」

同じく配信発の作品として話題になった『浅草キッド』は、これまでのキャリアで最もチャレンジングだったという。

「とてもプレッシャーのある役だったので、面白かった！という声が届いた時には本当にうれしかった。でも僕はどれだけ褒められても調子に乗ることがないくらい、自信が過少な人間なんです。怖さがあるほうがいいのか、演じることがすごく楽しいですと言える方がいいのか……。こういう自分とうまく向き合っていきたいです」

留学経験もあり英語を学び続けている柳楽にとって、世界進出への意識は「当然、みながもっていなければいけないもの」だと語る。

「それが特別なことだとは思っていなくて、自分のステージやスキルを上げることを考えないと数年後が怖いな、という感覚なんです。でももっとシンプルに言うと、英語を話せたら外国人の友達もいっぱいできて、楽しいじゃないですか（笑）。映画祭のために行く海外がいちばん好きなので、またそこを目指したいという思いはもちろんあります。日本でキャリアを重ねることも大事だけど、海外に向けて勝負をかけたい気持ちもある。30代のうちにもう一発、と思っています」

---fadeinPager---