瀬戸内の風景を見渡せる、 地形と呼応した建築「屋島山上交流拠点施設 /やしまーる」【今月の建築ARCHITECTURE FILE #03】

  • 写真:SUO
  • 文:佐藤季代

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周辺は切妻屋根の「れいがん茶屋」や、写真下側の旅館、建物後方の水族館などに囲まれた立地。建物の内側と外側それぞれに3つの広場がある。

香川県・高松市内にある屋島(やしま)。メサ地形と呼ばれる希少な台地状の地形をもつこの場所は、史跡・天然記念物に指定され、瀬戸内海国立公園の一部として森全体が保護されている。かつて、豊かな自然や瀬戸内海を見下ろす絶景を求めて多くの人で賑わっていたその山頂に、人々を呼び戻す施設として完成したのが、「屋島山上交流拠点施設(通称:やしまーる)」だ。

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波打つ切妻屋根の仕上げ材は地元の庵治石(あじいし)を使用。3万4000枚におよぶ板材を30社以上の石材加工店が分担して製作した。

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子ども広場とエントランス広場に隣接した入り口。麓から山頂に至る山道で体験する風景を、建築の中においても連続させる意図がある。

設計を手がけたのは、著名建築家を輩出しているSANAA(サナア)出身の周防貴之。最優秀者に選出されたプロポーザルコンペで提案したのは、周辺環境との関係を重視し、場所の魅力を最大化する“地形のような建築”だ。全長200mにおよぶガラス張りのスロープが大小6つの屋外広場を縫うように配置され、それらが展望スペースや展示室、多目的ホール、カフェなどの用途に合わせて大きく膨らんだり狭まったりしながら、高低差のある地形に沿うように立体的につながっている。ガラス張りの遊歩道のような空間をたどれば、周囲の自然や瀬戸内に浮かぶ島々などの風景と出合い、建築を通してこの地域の魅力を再発見することができる。

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地形に沿って立体的にうねる3次元形状の躯体は、3Dデータをもとにつくられた。複雑な形状のため現場での施工は困難を要した。

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この建築は『瀬戸内国際芸術祭2022』の作品のひとつでもあり、オープン後には多くの人々が来場した。地形と呼応するユニークな建築が、この地域の新しい顔となりつつある。

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展望スペースの下をくぐり各広場を往来すれば、建物の多彩な表情が垣間見える。左奥の建物は周防が手がけたカフェ「れいがん茶屋」。

屋島山上交流拠点施設/やしまーる

住所:香川県高松市屋島東町1784-6
TEL:087-802-8466
開園時間:9時~17時 ※金・土・祝前日は21時まで
休園日:火曜日(祝日の場合は開館、翌平日休)
料金:無料 
www.yashima-navi.jp/jp/yashimaru

【設計者】SUO+Style-A
SUO代表の周防貴之は1980年滋賀県生まれ 。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、妹島和世建築設計事務所、SANAA勤務を経て、2015年に現事務所を設立。今回は建築事務所Style-Aとともに設計を進めた。

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※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。