地中に生まれた、洞窟のようなレストラン 「House & Restaurant(メゾン・アウル)」【今月の建築 ARCHITECTURE FILE #01】

  • 文:佐藤季代

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レストランのホールに置かれたテーブルや椅子も、この建築のために石上がデザインした。店舗と住居ではその大きさを変えている。 photo:YASHIRO PHOTO OFFICE

パリのカルティエ現代美術財団で計画を発表し、構想から竣工までに約9年を要した話題作「House & Restaurant(メゾン・アウル)」が完成した。洞窟のようなこの建築は、アプローチのある北側にオーナーシェフの平田基憲が主宰するレストラン、南側に住居があり、3つの中庭を介して双方が緩やかにつながる。

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レストランのオープンキッチン。隠れ家のような空間では、オーナーシェフの平田基憲が手がける素材を生かしたフレンチが楽しめる。 photo: Ⓒ junya.ishigami+associates

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設計を手がけたのは気鋭の建築家、石上純也。「時間と共に重みを増していく粗々しい建築」というオーナーからの要望を受けて、これまでの軽やかで透明感のある作風とは異なる、土の中に埋まった有機的な建築を提案した。

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敷地の南側にはオーナー住居を配置。点在する3つの中庭のひとつを介して行き来でき、レストランを住居の一部として日常使いができる設計に。 photo: YASHIRO PHOTO OFFICE

この斬新なアイデアを具現化するため、前例のない施工法が採用された。設計図は模型を3Dスキャンして図面化。地面を少しずつ掘り下げて凹凸のある深さ3mほどの穴をつくり、コンクリートを流し込む。硬化後にコンクリートの周囲の土をすべて掘り起こすと、赤茶色の土を纏った、洞窟のような不思議な空間が生まれた。

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RC造の建物は地面を3mほど掘り起こしてつくられた。前面道路と高低差があり、周囲からはその姿をうかがい知ることができない。 photo: Ⓒ junya.ishigami+associate

建築と一体化した家具、キッチンや浴槽などの設備、合計で35枚にもなる開口部のガラスなどは出来上がった躯体に合わせて設計されている。新築したそばから、リノベーションのように手を加えて更新していく。石上ならではの独創的なプロセスを経て、昔からここにあるかのような唯一無二の建築が完成した。

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住居の寝室。当初はコンクリートの躯体を現す予定だったが、掘り起こした際に付着した土をそのまま残して屋内外の仕上げにしている。 photo: Ⓒ junya.ishigami+associates

House & Restaurant(メゾン・アウル)

山口県宇部市(以下住所非公開)
※レストラン(メゾン・アウル)は当面の間、招待ゲストのみ予約可
https://maison-owl.com

【設計者】石上純也建築設計事務所
代表の石上純也は1974年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。妹島和世建築設計事務所を経て、2004年に現事務所を設立。ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞など多数受賞。

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※この記事はPen 2022年11月号より再編集した記事です。