土地の自然と向き合う、 静謐な祈りの空間「上野東照宮 神符授与所/静心所」【今月の建築ARCHITECTURE FILE #02】

  • 写真:藤井浩司(TOREAL)
  • 文:佐藤季代

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ヴォールト屋根によって、ご神木 の葉擦れや鳥のさえずりの音に包まれる。社殿を敬うように軒先がこうべを垂れている。

1627年に徳川家康をまつる神社として創建された、東京・上野恩賜公園内にある「上野東照宮」。51年に造営された、国の指定重要文化財である社殿に隣接して、御朱印や御守を扱う「神符授与所(しんぷじゅよしょ)」と拝観前に心を落ち着けるための「静心所」が新設された。

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社殿南東に新設された神符授与所は、奥参道と静心所へ続く入り口を兼ねている。外壁は“神道の清浄さ”を表す白漆喰で仕上げられた。

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ふたつの建築と社殿まで続く奥参道を手がけたのは、「狭山の森礼拝堂」など祈りの空間の設計で評価を得ている中村拓志。今回のプロジェクトでは、創建以前からある樹齢約600年の大楠の御神木やかつて防火樹として社殿を守っていた大イチョウといった、この場所特有の自然に対し、畏敬の念を抱きながら設計を進めた。

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二重菱格子構造の屋根の垂木は、一方の軸を社殿と日光東照宮を結ぶ真北方向に、もうひとつの軸を久能山東照宮のある駿府に向いている。

それらが特に表れているのが屋根の形状だ。静心所では祈りを導くかたちとして、イチョウの葉が頭上を大きく包み込むような面屋根をデザイン。倒木の恐れからやむなく伐採されたイチョウを構造材として活用しながら、柱のない軒下空間を実現した。板間に座ると御神木や社殿、授与所越しに五重塔までが望め、静寂の中で祈りを捧げることができる。

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また授与所には、社殿に対してこうべを垂れるような片流れの屋根を架け、屋根のデザインは同じく社殿を囲う二重菱格子の“透塀(すきべい)”をモチーフにした。上野の自然に寄り添うかたちで生まれたふたつの建築が、社殿の歴史とともに新たな時を刻んでいく。

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御神木の根への負荷を考慮し、迂回するように静心所と回廊式の参道が新設された。曲面状のコノイドシェル構造による屋根が特徴的。

上野東照宮 神符授与所/静心所

住所:東京都台東区上野公園 9-88
TEL:03-3822-3455(社務所)
開園時間:9時30分~16時 
※3月~9月は17時まで
休園日:無休
料金:一般¥500(神符授与所は無料)
www.uenotoshogu.com

【設計者】中村拓志&NAP建築設計事務所
代表の中村拓志は1974年、東京都生まれ。99年に隈研吾建築都市設計事務所に入所。2002年にNAP建築設計事務所を設立。日本建築学会賞(作品)、日本建築家協会賞のほか、国内外での受賞歴は多数。

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※この記事はPen 2022年12月号より再編集した記事です。