光が当たらなかった側面に光を当て、見えなかった社会構造を映像があぶり出す

  • 文:青野尚子(アートライター)

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見えなかった社会構造を、映像があぶり出す

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『ふたつの石』2019 年、映像スチル

これまで光が当たらなかった側面に光を当てる。当たり前だとされる価値観に疑問符を投げかける。アートにはそんな役割もある。オランダ出身のウェンデリン・ファン・オルデンボルフは丹念なリサーチを経た映像でもうひとつの物語を紡ぎ出す。

たとえば、初期作品の『マウリッツ・スクリプト』は17世紀オランダ領ブラジルの総督だったヨハン・マウリッツの手紙などを読み上げながら当時の統治について議論するもの。『偽りなき響き』はオランダによる植民地政策にラジオが及ぼした影響についての対話と、オランダの支配下にあったインドネシアで独立運動に関わったスワルディ・スルヤニングラットの手記を読み上げる声とが交錯する。

音楽や詩、映画、建築、絵画はときに人々を結びつけ、分断する。『ふたつの石』は戦後オランダで活躍した建築家ロッテ・スタム=ベーゼと、ロッテルダムの差別的な住宅政策に異を唱えた活動家、ヘルミナ・ハウスヴァウトの軌跡を追う。スタム=ベーゼが関わった工場の集合住宅とロッテルダムで撮影された本作では、それぞれの地で活動する建築家や住民たちが、二人の理想とその間にある不協和音について語り合う。『obsada/オブサダ』はポーランドで映画産業に関わる女性たちと制作。日本でもアートや映画の現場でのジェンダー不平等について声を上げる人が増えている。見えなかった社会構造があぶり出される。

国内で制作される新作はおもに1920~40年代に活躍した女性文筆家たちが女性の社会的地位や戦争といった問題を取り上げたテキストをモチーフにしたもの。いまからおよそ100年前の女性たちが考えていたことは現在にどうつながっているのか。私たちが知らず知らずのうちにとらわれている規範について考えさせられることになるだろう。

『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』

開催期間:~23年2/19
会場東京都現代美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入室は閉室の30分前まで
休館日:月曜日(1/2、9は開館)、12/28~1/1、10
料金:一般¥1,300
www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Wendelien_van_Oldenborgh

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※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。