美術館では初となる立花文穂の展覧会が開催 空間全体に広がるつくり手の“奥行き”と“深さ”とは

  • 文:川上典李子(ジャーナリスト)

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紙で表現された有象無象、印と象の手ざわりと奥行き

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『球体 1』2007年

筆やペンで書いた図や活版印刷の文字を組み合わせたコラージュ、輪転機を自ら操作してつくる本など、紙や文字の作品に取り組むアーティスト、立花文穂。美術館では初となる大規模個展の開催にあたり、本人に話を聞いた。

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立花文穂●1968年広島市生まれ。文字・紙・本にまつわる作品を制作。95年に佐賀町エキジビット・スペースでの個展『MADE IN U.S.A.』でデビューを飾り、以降、国内外で作品を発表。 主な個展に『機会 OPPORTUNITIES』『書体|shape of my shadow』『PLASTIC』『デザイン 立花文穂』など。2007年より責任編集とデザインを自らが担当し発信する媒体として「球体」を刊行。著書に『立花文穂作品集 Leaves』『かたちのみかた』など。

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『書体』より「云云」2018年

書や印刷、写真、彫刻などを通して、文字へのアプローチを続ける立花文穂。会場の最初に展示されているのは、勢いのある『た』の文字だ。

「幼稚園の時、筆を手に、全身で記しました。僕が文字について考えてきたことの根っこにあるものだと思います」

書体と名づけた展示室で立花は語る。「文字以前の現象的なものだったり、文字のような風景を見つけられないだろうかという思いと、紙に書いたものはいつまで残るのかとの疑問から最近、書に回帰しました。文字を書くように、イメージを線で表現しています」

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『傘下』2020 年

続く展示室にも、母体、図体、変体などの名がそれぞれつけられている。

「9つの部屋の構成は印刷物づくりに似ています。過程をどう重ねるのかに僕は興味があるのですが、開幕前の20日間、会場で展示作業を続けました」ある部屋には文字と活字の関係を探るなかで生まれた石膏やブロンズの作品が。オフセット印刷や活版の魅力に気づかされる作品もある。長い廊下では海外での展覧会が再現された。

広島生まれの立花が、慰霊碑に奉納される死没者名簿を取材し制作した本『風下』と『傘下』を展示する部屋も。「その体験を通して、それまでタイポグラフィのようにとらえていた文字が、ちょっとだけ奥行きのあるところに行けたように感じました。書を始めたきっかけにもなったできごとでした」

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球体9『機会 OPPORTUNITIES』2021年

製本の仕事を営んでいた父から譲り受けた機械でつくる出版物『球体』も立花の代表作だ。昨年には活版印刷機を「楽機」としてピアノやギターとセッションし、その音をレコードにした『球体9』が完成したばかり。楽機は本展にも登場し、ライブも不定期で行われる。「媒体は違っても、すべて文字と紙と本に関することです。展覧会タイトルの『印象』は、印(しるし)と象(かたち)をあわせました」

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『木のなかに森がみえる』2007年

最新作が紹介されている展示室は「月(にくづき)」と名づけられた。展覧会のサブタイトルであるペーパームーン」にもつながる「月」である。

「たかだか紙されど紙、作りものにリアルが浮かび上がってきたらと考えました。月は漢字の部首ではにくづき、体です。新作では細い線を重ねて太くし、描き続けて細くなった筆で線を描きました。腰をかがめて月面に筆を下ろす。幼稚園の頃からしていることは変わっていないように感じています」

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『へのへのもじへ』2014年

また、繰り返し語られる“体”という言葉について、こう語る。

「僕が最も楽しいのは手で触ること。子どもの頃から紙に触れてきた感覚が身体に残っています。会場を、さまざまな情報を含む雑誌の頁をめくるように見ていただけると嬉しいですね」

作品が自由にちりばめられているかのようで、そこに秩序が潜んでいるのも立花作品の醍醐味だ。「つくったら、次の準備となる整理と片づけまでが作品として重要」というのも彼らしい。

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『クララ洋裁研究所』2000年 撮影:久家靖秀

自らの感覚を頼りに手を動かし、ことばを抽出し、描き続ける。本をつくる。会場そのものがそうした本人の身体動き、そのもののようだ。立花文穂というつくり手の奥行きと深さが、独自の手ざわりや匂いとともに、空間全体から伝わってくる。

『立花文穂展 印象 IT’S ONLY A PAPER MOON』

開催期間:~10/10
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
TEL:029-227-8111
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月曜日、9/20 ※ 9/19、10/10は開館
料金:一般¥900 
www.arttowermito.or.jp

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※この記事はPen 2022年10月号より再編集した記事です。