「衛星からマルサする......」富裕層の隠しプール2万ヶ所、AIで一斉摘発 フランス

  • 文:青葉やまと
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フランス税務当局は衛星写真をAIで解析し、無申告の隠しプール2万面を発見した...... Paul Bradbury-iStock

<フランス税務当局が実験プロジェクトを展開。衛星写真を解析し、私有地内の隠しプールを見抜いた>

不正をした人々がAIに見抜かれる時代がやってきたのかもしれない。フランス税務当局は、AIを使った実験プロジェクトにおいて、無申告の隠しプール2万面を発見したと発表した。

プロジェクトは不動産の税務申告を適正化する目的で、税務当局がGoogleおよび仏コンサルのキャップジェミニ社と共同して推進している。衛星写真をAIで解析し、私有地内のプールを検出するものだ。システムはさらに、検出結果を税務当局の台帳と付き合わせ、無申告のブールをリストアップする。

昨年から国内9地域を対象とした試験導入が始まっており、合計で2万面の無申告のプールが発見された。仏ニュース専門チャンネルのフランス24は、テスト導入した9つの管区の税務署の合計で、およそ1000万ユーロ(約14億円)の追徴課税が発生したと報じている。

プールは資産価値を生じるため、フランスでは固定資産税の課税対象となる。英ガーディアンは、建築の完了から90日以内に税務署に届け出る必要があるとしている。

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年間3万円弱の課税額

プライベートプールの平均的なサイズは30平方メートルほどだ。競技用プールよりははるかに小さいが、住宅の居住部分とは別に、1DKのマンションの一室に相当する広さのプールがある計算となる。このサイズのプール1面への課税額は、年間200ユーロ(約2万8000円)ほどだ。プールを設置するほどの富裕層にとってはさほどの負担ではなさそうなものだが、それでも無申告が絶えないようだ。

フランスではプライベートプールの設置が盛んだ。英BBCは、統計サイト「スタティスタ」によるデータをもとに、その数はフランス全土で約320万面にのぼると報じている。同地では数年前からプールブームが訪れ、自宅に設置する人が増えていた。コロナ以降は在宅時間が多くなり、自宅でのひとときをより快適に過ごそうとプールを導入する家庭がさらに増加している。

財務局は今後プログラムをフランス全土に展開したい計画だ。2023年にはプールへの課税だけで、およそ4000万ユーロ(約56億円)の税収増を見込んでいる。

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検出精度に課題

ただし、現状はまだ精度に課題があるようだ。今年4月の時点で、ソフトウェアには30%ほどの認識誤差があることがわかっている。ソーラーパネルをプールと誤認識したり、反対に、一部が木々に覆われたプールをうまく検出できないこともあるという。

当局は今後、精度向上とあわせて、プール以外の無申告の不動産も検出できるようにしたい意向だ。既存の家屋の増築部分や、新たに建て増した別館、そしてバルコニーに設けた常設のパーゴラ(大きく張り出した庇)などを対象とできるよう機能を強化する。

ガーディアン紙が報じたところによると、財務局のアントワール・マニャール次長はパリジャン紙に対し、「ベランダなど家の増築を主に念頭においています」と説明している。次長は「建築面積の大きな建物だけを検出し、犬小屋や子供の遊び場用の家などをソフトウェアが認識しないよう留意しなくてはなりません」と難しさを語る。

さらには、一定の面積があるものでも課税対象とは限らない。例えば地面に防水シートが置かれていると、衛星写真に長方形の区画となって写り込む。これが建物の増築部分として認識されてしまうことがあるようだ。

加えて、フランスでは利用されなくなった空き家は住居税の対象外となるため、こうした物件については除外する必要がある。当局は将来的に空き家を自動で識別できるようにしたいと考えているが、技術的な難度は高そうだ。

フランス24は本件について、フランス国税庁が「隠しプールをみつけるAIスパイ」を展開したと表現している。課税逃れに走る富裕層への監視強化という意味では心強い。

だが、将来の拡張計画が実現すれば、全市民の私有地を上空から自動監視するシステムが完成する。後ろめたいことは何もなくとも、薄気味の悪さを感じずにはいられないかもしれない。

France uses artificial intelligence to detect more than 20,000 undeclared swimming pools

青葉やまと

フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。

※この記事はニューズウィーク日本版からの転載記事です。

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