【小山薫堂の湯道百選】第七十回“湯は、六感を回復させる。”

  • 写真:杉本 圭
  • 文:小山薫堂

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〈鳥取県東伯郡〉
木屋旅館

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湯に浸かり、三たび朝を迎えれば元気になる……それが三朝(みささ)温泉の由来である。この湯は高濃度のラドンを含む世界屈指の放射能泉。ラドンとはラジウムが分解されて生じる微量の放射線のことで、これにより細胞が刺激され、新陳代謝が促進されたり、免疫力や自然治癒力が高まるといわれている。しかもラドンは気化して空気中にも含まれているため、三朝の町を歩くだけでも健康につながるらしい。

三朝温泉の魅力は、そうした医学的な理由だけにとどまらない。山岳信仰の聖地・三徳山(みとくさん)への参拝と温泉への入浴によって心と身体を清める……これが一連の作法として三朝に根付いているのだ。三徳山が修験道の行場として開かれたのは706年といわれている。その山麓に「三佛寺(さんぶつじ)」が、そして山頂に近い断崖絶壁の窪みには奥院の「投入堂(なげいれどう)」が建てられた。

江戸から続く「木屋旅館」の風呂で身を清め、投入堂を目指す。足を踏み外せば命を落としかねない壮絶な山道の連続。「日本一危険な国宝」という異名に納得である。息を切らしながらたどり着き、投入堂に手を合わせると、心の中が洗われていくのが分かった。そして下山し、再び木屋旅館の湯に浸かって疲れを癒やす。こうした三朝の流儀は、「観・聴・香・味・触・心」という六感を治癒する効果があり、日本遺産第一号にも認定された。

厳しい自然の中を歩いて、いい湯に浸かり、旨いものを食う。安息の地を見つけた感動は、いまも続いている。

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主人の御舩秀さん(左)と息子の御舩利洋さん。明治時代から増築を重ねた建物は、有形文化財でもある。館内に56~80℃の源泉が点在。飲んでも、その蒸気を吸っても効能があるという。

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「投入堂」は、標高約500mの場所ながら、その参拝道は過酷なもの。入山時には輪袈裟を渡され、それを身に着け、投入堂を目指す。

木屋旅館

住所:鳥取県東伯郡三朝町三朝895
TEL:0858-43-0521
料金:¥18,700~(1泊2食付き、1室2名利用料金)
www.misasa.co.jp

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※この記事はPen 2022年7月号より再編集した記事です。