【小山薫堂の湯道百選】第六七回“湯は、四季を愛でる種となる。”

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂

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〈三重県志摩市〉

AMANEMU

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伊勢志摩国立公園内に位置する「アマネム」は、アマン初の温泉を有するリゾートとして2016年に開業した。英虞湾(あごわん)の美しい海岸線を望む丘に、温泉を備えたスイートやヴィラが点在する。提供する料理の内容も素晴らしく、日本で最も贅沢な温泉オーベルジュのひとつであることは間違いない。そんなアマネムに、湯の道を極めるには最適の特別な部屋が存在する。20年の春に増築された「ツキヴィラ」である。

ヴィラの総面積は381㎡。シェフを呼んでの贅沢なディナーができるダイニングとふた家族がのんびりくつろげるリビング、それぞれに温泉を備えたふたつのベッドルーム、そして最大564㎡の広さを誇る開放的なプライベートガーデンを有する。だが、それだけではない。心ゆくまで湯を堪能できる「Onsen HANARE」と名付けられた別棟が付いているのだ。上質なデイベッドを備えたリビングエリアの前庭にナトリウム塩化物泉の露天風呂がある。少し温めに調整した湯に身体を沈めると、空の眩しさと木々の匂いに刺激され、五感が磨かれるような感覚になる。湯の流れる音に時折重なるウグイスの鳴き声が心地いい。身体が温まったら、リビングのベッドに横たわり、次は風を味わう。この至福のひと時を私は「風酔(かぜよ)い」と呼んでいる。

ウグイスの鳴き声に促され、再び、露天の湯に浸かる。心に沁みる季節の移ろい。そう言えば、ウグイスには春はる告つげ鳥どりという別名がある。アマネムの湯は、春の季語にふさわしい。

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日本における2番目のアマンとして開業。伊勢志摩の豊かな自然の中、日本旅館の伝統的な美学を採り入れたリゾートでもある。

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温泉だけでなくウェルネス体験に特に力を入れており、セラピストによる施術や地元の僧侶の協力による坐禅体験や説法など、心身ともに癒やされるプログラムを滞在客に用意している。

AMANEMU

住所:三重県志摩市浜島町迫子2165
TEL:0599-52-5000
料金:125,000~(スイート1泊1室2名、朝食付き、税・サービス料別)
www.aman.com/ja-jp/resorts/amanemu

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※この記事はPen 2022年5月号より再編集した記事です。