【小山薫堂の湯道百選】第六六回“湯は、茶とともに幸を編む。”

  • 写真:松永朋広
  • 文:小山薫堂
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〈岐阜県中津川市〉

ランプの宿 渡合温泉

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ただ抹茶を むのではなく、そこに見せるための点前を加え、美意識に基づいた道具で客をもてなす……それが「茶の湯」であり、さらに洗練されたのが「茶道」である。その礎を築いた僧の珠光が、湯道発祥の地である大徳寺・真珠庵に眠っていることは歴史の必然……とは言い過ぎだろうか。

茶の湯ならぬ「茶と湯」という遊びを考えた。 舞台は裏木曽にひっそりと佇む「ランプの宿 渡合温泉」。携帯の電波は届かず、電気すら通っていない点は江戸の終わりと変わりない。木を知り尽くした6代目の主人は、最も水に強い高野槙で浴槽を設えた。底のみが五右衛門風呂式になっており、弱アルカリの冷鉱泉を薪で沸かしている。外はマイナス15℃。湯煙が立ち込める中、南木曽の仲間たちとともに極上の湯に浸かった。そこに歌舞伎役者の顔も併せもつ茶師が現れ、湯に合わせて茶を淹れる。一杯目は、木曽を舞台にした島崎藤村の『夜明け前』にも登場する、ねぶ茶と呼ばれる健康茶。熱い湯に浸かっていると嗅覚はさらに鋭敏になるのか、その香りにやられた。汗が額を伝い始めたところで二杯目が供された。外の深雪をイメージしたかき氷に、熱々のほうじ茶を注ぐ。氷はたちまち溶けて、瞬時に冷茶に変わる。このお茶の美味いこと!紛れもなく人生一の冷茶である。溶けきれずに器の底に残ったわずかな氷を見て、私はこの茶に「春雪」という銘をつけた。

茶のおいしさと風呂の心地よさで幸を編んだ一夜は、生涯忘れえぬ気憶となるだろう。

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中津川の茶師、市川尚樹さんにより、湯に浸かりながら飲む茶として考えられた二杯目。熱々でも綺麗な香りが出るほうじ茶は、雪を瞬時に溶かし冷茶が完成する。

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今回の茶会を会催してくれたのは「Zen Resorts」のメンバー。南木曽で古民家ラグジュアリーホテル「Zenagi」を運営しながら、土地の魅力を発信している。

ランプの宿 渡合温泉

住所:岐阜県中津川市加子母渡合

料金:¥500(日帰り入浴、要予約)、¥13,460~(1泊2名利用時)

TEL:090-1092-8588

※営業期間は4/1~11/30。冬季は休業。茶会は特別開催で通常は提供していません。

www.doaionsen.jp

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