ウェス・アンダーソンのスーツの足元は、いつもクラークスのワラビーブーツ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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2枚の革を使ったアッパーと厚めの天然クレープソール。独特のモカシン構造で縫われたスクエアなつま先のデザインが特徴。「メイプルスエード」と呼ばれるベージュはウェス・アンダーソンがいちばん履いているカラー。¥26,400(税込)/クラークス オリジナルス

「大人の名品図鑑」ウェス・アンダーソン編 #4

カリスマ的な人気を誇る映画監督、ウェス・アンダーソンの待望の新作『フレンチ・ディスパッチ』がついに日本でも公開された。雑誌づくりをテーマにした今回の映画を彩る数々の名品と、ファッション好きとしても知られる監督自身の愛用品を紹介する。

映画監督ウェス・アンダーソンのファッション好きは有名だ。最新作の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(以下『フレンチ・ディスパッチ』)と同じくミレーナ・カノネロが衣裳デザインを担当した『グランド・ブタペスト・ホテル』(14年)では、出演者のほとんどの衣裳フィッティングに彼も立ち会ったと言われている。その映画の事前のフィッティングに立ち会えなかった出演者のひとりが、マルチクリエーターの野村訓市だ。その際、PANTONE社の色見本が送られてきて、その色のスーツを用意するように言われたと『ユリイカ』(青土社)の2014年6月号に書かれている。なんという細かさだろう。

そんなウェスがこよなく愛している服が、ベージュ系のコーデュロイのスーツだ。これはニューヨークのマンハッタンにある行きつけのテーラー、Mr Nedであつらえたもので、彼は年間200日もこのスーツを着ているという。彼のポートレイト写真を集めてみると、ほとんどこの色のスーツを着ている。余談になるが、Mr Nedの2代目オーナーであるVahram Mateosianは、ウェスが監督した『ザ・ロイヤル・テネンバウムス』(01年)の衣裳にも協力していると言われる。また09年に公開されたアニメーション映画の『ファンタスティック Mr.FOX』では主人公のMr.フォックスが、彼と同じコーデュロイのスーツを着る。ウェスはアニメで同じ素材を再現するために、自分のスーツを切ってクリエーターに渡したと聞く。その後でもう一着同じスーツを仕立てたらしいが、どれだけこのスーツ、この素材、この色をウェスは好きだったのだろう。

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英国の名品、ワラビーとはどのような靴か

このお気に入りのスーツにウェスがいつも合わせている靴が、英国クラークスの「ワラビー」だ。クラークスは、1825年にイギリス南西部のストリートという街で創業されたシューズブランド。創業者のサイラスとジェームスがつくったシープスキンのスリッパが、クラークスが最初に製作した靴。その後、履きやすさと快適さを求めて靴づくりに取り組んでいったが、現在でも同ブランドのアイコンとなっているのが1950年に発表された「デザートブーツ」。当初は「こんな風変わりなものが売れるはずがない」と言われたが、発売後は人気が爆発。現在でもその人気は続いている。そして、1966年に発表されたのがウェス愛用の「ワラビー」。71年に日本に始めて輸入されたときには、わずか40足だったが、「デザートブーツ」と「ワラビー」はクラークスを代表する2枚看板として多くのファンを掴んでいる。

モデル名の由来は、カンガルー科の小型有袋類のワラビーで、お腹の子どもを守るように一枚革が足を優しく包み込んでくれる独特のデザイン。「デザートブーツ」と同じく、天然クレープを使ったソールが「ワラビー」の特徴だ。ゴム本来の弾力性で衝撃を吸収するローテクな設計だが、それでも高いクッション性と柔軟性を備え、長時間履いても疲れない快適な履き心地をもつ。ちなみに「ワラビー」のソールは「デザートブーツ」に比べ厚めにデザインされている。

アッパーはU字型のステッチワークをもつモカシン縫いが特徴で、つま先が角張った独特なシルエット。アッパーの素材はいろいろなバリエーションが用意されているが、ウェスが愛用するのは最初に発表された「ワラビー」と同じくスエードを使ったもの。それもベージュかブラウンの茶系を選ぶことが多い。しかも、くるぶしが隠れるくらいのアンクールブーツ丈のモデルがほとんどだ。

ウェスが愛用するクラークス オリジナルスは、彼の映画にも登場している。『ザ・ロイヤル・テネンバウムス』(01年)では、プロのテニス選手のリッチー(ルーク・ウィルソン)がお墓のシーンで履いている。最新作の『フレンチ・ディスパッチ』の製作時の写真もすでに公開されているが、天才画家モーゼス(ベニチオ・デル・トロ)に話しかけているときに、カナダグースのダウンジャケットを着たウェスの足元はやはり「ワラビー」だった。スーツでタイドアップしたときも、ややカジュアルなスタイルのときも、足元はいつも「ワラビー」。そのこだわりは徹底している。それは彼の映画づくりにも通じるものがあるだろう。

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「ワラビー」の特徴とも言える天然クレープを用いたソール。ハイテクな仕掛けはないが、厚めにつくられているので抜群のクッション性と柔軟性を備え、快適な履き心地だ。

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アッパーのスエードは1904年創業の英国の老舗タンナー、チャールズ・F・ステッド社製。毛足がきめ細かく、上質な風合いを備えている名素材だ。

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同じスエード素材の「ワラビー」でも、色がブラックになると違った印象を与えてくれる。クレープソールもサイドがブラックになっているので、精悍さが増す。カジュアルからモード的なスタイルにもマッチするカラーではないか。¥26,400(税込)/クラークス オリジナルス

問い合わせ先/クラークス ジャパン TEL:03-5410-2009

https://www.clarks.co.jp

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