映画『フレンチ・ディスパッチ』でビル・マーレイが履いた、ジェイエムウエストンのローファー

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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モデル名は「シグニチャーローファー #180」。フランスのリモージュの工場でグッドイヤーウエルト製法を用いてつくられる。アッパーにはボックスカーフ、ベジタブルタンニン鞣しされたソールが使われている。ちなみにジェイエムウエストンはソール用に自社のタナリーを持つ唯一のシューズメーカーである。これは編集長が履いたと思われる「ダークブラウン」という深い色合いの茶。¥121,000(税込)/ジェイエムウエストン

「大人の名品図鑑」ウェス・アンダーソン編 #1

カリスマ的な人気を誇る映画監督、ウェス・アンダーソンの待望の新作『フレンチ・ディスパッチ』がついに日本でも公開された。雑誌づくりをテーマにした今回の映画を彩る数々の名品と、ファッション好きとしても知られる監督自身の愛用品を紹介する。

『グランド・ブタペスト・ホテル』(14年)や『犬ケ島』(18年)などでカルト的な人気を誇るウェス・アンダーソン監督の長編10作目となる映画が公開された。タイトルは『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(以下『フレンチ・ディスパッチ』)。フランスの架空の街アンニュイ=シュール=ブラゼに編集部を構える、米国新聞社の支社が発行する『フレンチ・ディスパッチ』誌。国際問題からアート、ファッション、美食までを扱い、50カ国で50万人に読まれる人気雑誌だった。ところが名物編集長が心臓麻痺によって急死、彼の遺言によって、この雑誌は廃刊を迎えることになる。編集長の追悼号にして最終号に掲載される、編集長同様、いやそれ以上に“クセ強すぎ”のジャーナリストたちが書いた「自転車レポーター」「確固たる名作」「宣言書の改訂」「警察署長の食事室」の記事ができる過程をオムニバス形式で見せる。巴里のアメリカ人、いやフランスのアメリカ人、ウェス・アンダーソンのフレンチカルチャーと活字文化に対するラブレターとも言える作品に仕上がっている。

「NO CRYING(泣くな!)」──『フレンチ・ディスパッチ』誌の創刊者にして編集長アーサー・ハウイッツァー・Jrがいつも口にする言葉。アーサーを演じるのがウェス作品に欠かせない俳優のひとり、あのビル・マーレイだ。

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ウェス・アンダーソンが偏愛する雑誌『ニューヨーカー』

実は『フレンチ・ディスパッチ』誌は、モデルになった雑誌がある。ウェス・アンダーソンがテキサス時代から愛読している『ニューヨーカー』というアメリカの雑誌だ。1925年に創刊され、カポーティ、サリンジャー、アーウィン・ショーなどを多くの作家を輩出した。ウェス・アンダーソンは70年代からの『ニューヨーカー』を自宅にストックし、専用のバインダーをオーダーで製作し、整然と並べているという話だ。そしてビル・マーレイが演じたアーサー編集長のモデルになったのが、『ニューヨーカー』の創刊メンバーで初代編集長ハロルド・ロスと、ロスの後継者で二代目編集長のウィリアム・ショーンだ。

常盤新平が書いた『「ニューヨーカー」の時代』(白水社)によれば「この二人が『ニューヨーカー』という不思議な雑誌をつくりあげた。性格がおよそ正反対の二人であるが、ただ一つ、二人に共通していたのは、編集者らしくないということだった。しかし、だからこそ優れた編集者だったともいえるのである」とある。また同書にはロスが亡くなったとき、ラジオでその一報が流れ、全米の新聞の第一面で報道されたとある。「ロスがあまりに『ニューヨーカー』そのものだったので、雑誌内部の人たちも外部の人たちもロスがいなくなって『ニューヨーカー』を発行できるのかと危ぶんだ」とも書く。そんな話も映画のストーリーに生かされているのではないだろうか。

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劇中に登場する、ジェイエムウエストンのローファー

ビル・マーレイ演じるアーサー編集長が履いていたのが、茶色のローファーだ。映画の終盤で足元が大きく画面に映し出される。その意匠、佇まいからこれはフランスの名靴ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)のローファーと見て間違いないだろう。

1891年創業、シャンゼリゼ通りに旗艦店を構え、日本でも多くのファンを持つフランスを代表する名シューズ。編集長が履いた「シグニチャーローファー #180」は、200以上の試作を重ねて1946年に誕生したモデルで、フランス中部リモージュの自社工場で、職人によって手づくりされる。1足のローファーを仕立てるのにおよそ2ヶ月。完成まで150以上の工程を経て完成する。『都市探検家の雑記帳』(文藝春秋)で、松山猛は「パリ帰りの知人が履いているのを見た日は、少々オーヴァーだけど、食欲がなくなるくらいのショックを受けた」と書く。その靴を見たさに“ウエストン巡礼”のようにパリを行きたいと思ったと松山は綴る。

実は1960年代に、シャンゼリゼ通りのドラッグストアにたむろする若者たちがこぞってジェイエムウエストンのローファーを履いた時期がある。ジーンズに合わせてローファーを素足に履くスタイルが既存の秩序に対するある種の反抗の表現になったのだ。そんな60年代に本当にあった話が、(パリの5月革命を連想させる)学生運動のリーダー、ゼフィレッリ・Bをティモシー・シャラメが演じたこの映画のストーリー2「改訂書の改訂」につながっていると思うのは、ちょっと深読みすぎるだろうか。

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インソールに入ったブランドロゴ。創業者エドワール・ブランシャールが靴の製法を学んだアメリカのマサチューセッツ州ウエストンがブランド名の由来とも言われる。

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かもめのシルエットのようにカットされたストラップのデザインと、ストラップに入った独特のステッチがジェイエムウエストンのローファーのデザインの特徴だ。

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定番のボックスカーフを使ったモデル(写真右)に加えて、エレガントなスエードを使ったもの(写真中)や、最近ではソールがトリプルソールになったボリュームあるモデル(写真左)まで「シグニチャーローファー #180」から派生した多彩なモデルもラインナップ。左:¥152,900(税込)、中:¥121,000(税込)、右:¥121,000(税込)/すべてジェイエムウエストン

問い合わせ先/ジェイエムウエストン 青山店︎ TEL.03-6805-1691
https://jmweston.jp/

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