絶対に終電を逃さない女による、ドラマ『おいしい給食 season2』全話レビュー連載。今回は第9話「コッペパンと僕の友達」を振り返る。
脇役ながら独特の存在感を放っていた坂田が転校することになった9話。自身も転校を経験している神野は、「この学校に悔いが残らないようにしてください」とアドバイスする。
その日の給食当番は偶然にも坂田と神野。神妙な面持ちでコッペパンの入った箱を持って廊下に立ち尽くしたかと思えば、突然「神野くん、ごめん!」と謝り全力で廊下を走り出す坂田。すかさず追いかける神野と甘利田。クラス全員分のコッペパンを抱えているのにもかかわらず一番足の速い坂田。そんなにコッペパンが食べたかったのか、坂田。
空は快晴。校庭を走り抜け、校門を飛び出し、給食にすべてを懸ける男たちが全力の走りを魅せる。辿り着いたのは、学校近くの川の堤防。そこにいたのは、陸橋の下の犬小屋にロープを繋がれたシンゲンと、シンゲンを餌付けする坂田。てっきりシンゲンは駄菓子屋で飼われている看板犬かと思っていたが、そうではないようだ。
「今日でお別れだから、何日か分だけでもって思って」と説明する坂田に対し、甘利田は「お前は馬鹿か。こんなところに入れておいたら、犬は好きなだけ食う。あっという間になくなるだけだ」と厳しく叱る。
「お前がやったことは窃盗だ。理由が何であれ、自分の欲のために他人を犠牲にしたら罪になる」
「僕の欲ではありません。あくまでもシンゲンのために」
「シンゲンに良くしてあげたいというお前の欲だということになぜ気づけない」
まるで刑事ドラマで犯人を問い詰める敏腕デカである。
「犬だって給食が好きなんです! 神野くんや先生と同じじゃないですか! 一度でいいからシンゲンと一緒に給食が食べたかった!」
甘利田を見つめ、物欲しげにクゥ〜ンと鳴くシンゲン。甘利田本人の中では生徒たちに必死で隠してきたはずの給食好きがバレているが、そこは何気にスルー。「だったら一緒に食えばいい」と校舎裏で食べることを提案し、「独断で、シンゲンの分のコッペパンも追加してやる」と温情を見せる。普段は生徒に対し必要以上に厳しい甘利田だが、生徒が給食を愛する気持ちゆえの言動なら、学校のルールや教師としての立場を多少無視してでも尊重するようだ。劇場版でも給食廃止反対を主張した神野を擁護したように、同じ給食好きの生徒を見ると放っておけないのだろう。
「神野、確保だ」
「はい」
甘利田の指示で瞬時に坂田からコッペパンを真顔で取り返す神野。給食警察、任務完了。いつもはライバルの二人も、給食を前にして阿吽の呼吸である。
坂田コッペパン持ち逃げ事件が無事解決し、シンゲンと給食を一緒に食べる夢を叶えた坂田。ちなみにペットには人間の食べ物は塩分が多すぎるので与えてはいけない。
---fadeinPager---
ライバルから同志へ
教室では、「よく戻ってきたなお前」とまるで赤ちゃんや子犬を愛でるかのように奪還したコッペパンに頬擦りする甘利田を、宗方先生が扉の窓越しに生暖かい目で見守っている。神野はハムとチーズのはさみ揚げをコッペパンでサンドしてかぶりつく。もはや神野の給食アレンジの中では定番となりつつある揚げ物サンドを見て、「我々はただ、コッペパンを取り戻したかったにすぎない。そういった意味で、私と神野は今日、クラスの給食を救った、いわば同志だったんじゃないのか」と気付いた甘利田は、はさみ揚げをコッペパンにはさむ。
これまでは神野の給食アレンジを真似するなどプライドが許さなかった甘利田が、素直に美味しそうだと思った食べ方を取り入れるのは、大きな前進だ。ちっぽけなプライドや勝ち負けにとらわれず、より美味しく給食を食べることだけを追求する。そうして甘利田はようやく神野に並ぶことができるのだ。
「同じ給食道を歩むものとして、同じ目的のために、同じ歩幅で進んでいる。そうか、さっき坂田を追ったあの道は、我々が歩んでいる給食道そのものだったんだ」
シリーズ始まって以来、初のドロー。甘利田が完食するのを見届けてから立ち去る宗方先生。何気に最初から最後まで見ている宗方先生にも、それはそれで狂気を感じる。一体いつ給食を食べているのだろう。
毎回恒例の、平和な給食のシーンがしばし流れる。女子から「あ〜ん」のフェイントをくらい、「だよねわかってる、笑ってんじゃねーよ」とリアクションをする柔道部っぽい男子生徒の、あまりにも自然な演技に見入ってしまった。『おいしい給食』の子役は相変わらずみんな演技が上手い。
放課後、甘利田は校舎裏でシンゲンを連れて行く坂田と別れる。
「私は給食が好きだ。そのために学校に来ていると言っていい。それは、孤独な戦いで、それでいいと思っていた。だが、いつの間にか、同じ道を歩む同志ができていた。そして今日、一匹の同志との別れを自覚した」
同じ給食好きの他人や犬は、ライバル視するのではなく、ともに高め合う同志として付き合っていく方が、より充実した給食を楽しめる。ライバルから同志に変化した二人の「給食道」を、最後まで見届けたい。

絶対に終電を逃さない女
1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
Twitter: @YPFiGtH
note: https://note.mu/syudengirl
第1話:知るぞ人ぞ知る名作ドラマ、『おいしい給食 season2』がスタート! その魅力について
第2話:筑前煮の魅力は「ごった煮のダイナミズム」。『おいしい給食 season2』第2話レビュー
第3話:アメリカンな献立を、あのヒット商品の如くアレンジ! 『おいしい給食 season2』3話レビュー
第4話:教師・甘利田が、神野に勝てない理由。『おいしい給食 season2』4話レビュー
第5話:冷やし中華を通じて、食文化の本質に迫る。『おいしい給食 season2』5話レビュー
第6話:謎の料理「インド煮」とは? 『おいしい給食 season2』6話レビュー
第7話:甘利田の奇行に生徒たちは気づいている? 『おいしい給食 season2』7話レビュー
第8話:「フルーツ牛乳ナメてるだろ」。『おいしい給食 season2』8話レビュー
---fadeinPager---