ジョニー・デップのファッションをひも解く愛用品6選

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一 イラスト:東海林巨樹

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ジョニー・デップ──端正な顔立ちと、憂いを帯びた瞳。役柄に“成り切る”演技はまさに一級品で、ハリウッドの頂点にあっても“異端児と”呼ばれる唯一無二の存在だ。ファッション好きとしても知られ、身に着けるものにも映画同様に熱い視線が注がれる。そんな彼が、プライベートや映画の中で身に着けた名品を追う。

ジョニー・デップの愛用品① ベレー帽

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ブランドを代表するモデルである「CAMPAN(カンパン)。極上のメリノウールを使用したモデルで、自社ファクトリーで編み上げ、町を流れるオロロン川の水を使い、8〜11時間かけて「縮絨」加工が施される。全体の8割の工程を特別な技術を持ったフランスの職人たちの手によってベレー帽は完成するが、フランスが継承する優れた技能と先端技術の価値を認定した「EPVラベル」も獲得している。これはブラックだが、ほかにもネイビーなどもある。¥13,200(税込)/ロレール

ジョニー・デップの最新作は、2021年9月に日本でも公開された『MINAMATA─ミナマタ─』だ。この映画の舞台になっているのは1970年代の日本。題材は、日本における4大公害病のひとつである水俣病だ。本作でジョニーが演じるのは、報道写真家として知られるユージン・スミス。功績を評価されながらも心に傷を抱えたユージンが、後に私生活でもパートナーとなるアイリーン・美緒子・スミス(演:美波)とともに熊本県の水俣を訪れる。そして1971年から74年の3年間、現地で暮らしながら、公害で苦しむ人々の惨状や暮らし、あるいは抗議活動や補償を求める人々の姿を写真に収めるユージンたちのドラマティックな日々を描いている。

公開に際してのインタビューで、20代前半でユージンの写真に偶然出会って以来、ユージンは憧れの存在だったと語るジョニー。本作でジョニーは出演だけでなく、製作でクレジットされている。

ジョニーが演じたウィアリム・ユージン・スミスは、アメリカ・カンザス州のウィチタで1918年に生まれる。高校時代から地元の新聞で写真を発表、プロの写真家として『ニューズウィーク』誌と『LIFE』誌で活躍し、世界を代表する写真家グループ「マグナム・フォト」にも名を連ねた。太平洋戦争中は戦地での取材を重ね、沖縄戦で砲弾を受けて重傷を負ってしまう。その後『LIFE』誌でフォトエッセイを発表し、75年にアイリーンとの連名による写真集『MINAMATA』がアメリカで出版され、同年ロバート・キャパ賞を受賞する。

そんなユージンを演じたジョニーだが、本作ではいい意味でジョニーに見えない演技を披露する。「ジョニーが役に消えた」と報道するメディアがあるほどだ。長年の友人でありビジネスパートナーでもあるサム・サルカールは「私は人生のほとんどで、彼が素晴らしいキャラクターを生み出すのを見てきた。だが、本作での彼は、そんな私まですっかり驚かせてくれた。彼のユージンは、ユージン本人を一言一句正確に再現したものではないかもしれないが、間違いなくユージンの魂を表現している」と彼の役づくりを絶賛する。

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映画『MINAMATA』でジョニー・デップが被ったベレー帽


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ジョニー・デップの愛用品② メガネ

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ジョニー・デップが愛用していたと言われている1950年代のモデルを再現した「JD-04」。カラーも『シークレット ウィンドウ』でジョニーが愛用したモデルと同色の「004(BROWN CLEAR)。フロントとテンプルを繋ぐヒンジには当時の堅牢な7枚駒蝶番を再現、フレームのカシメ飾りにはブランドのアイデンティであるダイヤモンド型を採用。日本製。¥41,800(税込)/ジュリアス タート オプティカル

俳優ジョニー・デップの洒落た着こなしを集めた書籍が、2013年に日本でも出版されている。『ジョニー・デップ ファッション コンプリート ブック』(マイナビ)だ。この本に掲載されている写真はジョニーのプライベートなスタイルを収めたものだが、ほとんどの場面で眼鏡かサングラスをかけている。本の中でもこれらのアイウェアは「ジョニーのアイコン」と断言している。

写真をチェックすると、さまざまな種類の眼鏡、サングラスをジョニーは愛用しているが、いちばん有名なのが、アメリカの「タート オプティカル」のクラシックな眼鏡だろう。この眼鏡はジョニーが映画『シークレット ウインドウ』に出演したときにかけて以来、愛用することになったと言われている眼鏡だ。

『シークレット ウィンドウ』は2004年に公開された映画だ。スティーブン・キングの中編小説『秘密の窓、秘密の庭』を原作とする、サスペンス仕立ての作品。この映画でジョニーが演じるのは、妻との離婚もあってスランプに陥っている人気作家のモート・レイニー。そんな彼の元に、「オレの小説を盗んだ」と訴える謎の男、ジョン・シューター(ジョン・タトゥーロ)が現れる。レイニーが盗作したという小説のタイトルは『シークレット ウィンドウ』で、出版されている小説の結末を変えろと迫る。身に覚えのがない言いがかりに困惑するレイニーだが……。

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ジョニー・デップが愛用する名門ブランドのメガネは、独特のカラーリングに注目

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ジョニー・デップの愛用品③ ウエスタンジャケット

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ジョニー・デップがプライベートで着用していたモデルと同様のウエスタンジャケット。同ブランドが50年代に製作していたモデルがベース。素材はコットンギャバジン。ボディの表側と背中や袖にまで手刺繍が施されている。両脇に付いたポケットもウエスタン調の飾りが付き、フロントや袖のボタンもすべてスナップボタン。¥22,800(税込)/ロックマウント

ジョニー・デップの本名はジョン・クリストファー・デップ2世。技師として働く父ジョンと、コーヒーショップでウェイトレスをしていた母ベティ・スーの末っ子として、ケンタッキー州のオーウェンズバラで生まれた。ジョニーの家系にはアイルランド人とドイツ人の血、それにチェロキー族の血が流れていた。エキゾチックな表情を持つのはそのためかもしれない。『デップ』(クリストファー・ハード著 二見書房)には、「子どもの頃、友だちと遊ぶときも、デップはいつも『インディアン』の役をやりたがった」と書かれている。また同書には「体に刻まれたタトゥーの一つは、立派な頭飾りをつけたインディアンの姿」だとも書かれている。

そんな彼の出自もあるのだろうが、ジョニーはプライベートでウエスタンアイテムをよく身に着けている。中でも印象に残ったのが黒をベースに全体に刺繍が入ったウエスタン調のジャケットだ。日本でも人気があるロックマウントのものだという説がある。東京・アメ横にある「石原商店 ワンアンドハーフ」というショップでジョニーが着用したものと同じように見えるジャケットを発見した。ジョニーが着たものはヴィンテージのジャケットらしいが、ロックマウントでは現在でも同じデザインのものを製作している。

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ジョニー・デップが映画でもプライベートでも着用するウエスタンジャケット

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ジョニー・デップの愛用品④

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アウトドアブランドのクラシックなパッチワークを連想させる色や生地の配置が特徴。いわゆるコーチジャケットのデザインだが、従来のスポーティな生地ではなく、天然素材の生地を選んでいるところもポイントだ。前身頃はコットン、ポケットや後身頃にウールを使っているところがデザイナー斉藤久夫のこだわりだろう。¥52,800(税込)/ビームス プラス×チューブ

ジョニー・デップの人生や私生活が初めて綴られた『デップ』(二見書房)で、著者クリストファー・ハードは「デップは自分の心の声にしたがって仕事を選ぶ。金や名声のためじゃない。映画を観た人の記憶に残る、確かな仕事をするためだ」とジョニーを評する。また「役者歴にアカデミー賞に輝く作品など一つもない。─ 中略─では、なぜこの男は世界中の雑誌の表紙を飾るのか? ケンタッキー州からやってきた、このはみだし者の青年は、人生のある時点で90年代を代表する『クール』な男になった」とも書く。

子供が喜ぶ映画に出演したい一念でジャック・スパロウ船長を演じたパイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003年)とその続編以外は、いわゆる大作はない。むしろその逆のような小さな作品をあえて選んでいるようにさえ見える。それでもオリバー・ストーン、ジョン・ウォーターズ、ティム・バートンやラッセ・ハルストロムなどの有名監督とも仕事をこなしている。「昔むかし、一人の美しい若者がいた。それはもう、だれもがうっとりするくらい。そこで男は自分の顔を縛りあげて、人びとから身代金をせしめたとさ」とジョニーのことを謳ったのは、多くの作品を一緒に撮ったティム・バートン。名監督を魅了する何かをジョニーは持っているのだろう。

『ラスベガスをやっつけろ』(98年)は、名監督? いや異色の監督テリー・ギリアムとジョニーがタッグを組んだ作品だ。原作はジャーナリストのハンター・S・トンプソンが実話に基づいて書いた小説で、71年に『ローリング・ストーン』誌に掲載されると、当時の若者の必読書になった。この作品で、ジョニーが演じたのはラウル・デュークというジャーナリストだが、もちろんデュークは著者のハンター・S・トンプソンのこと。そのデュークと弁護士のドクター・ゴンゾー(ベニチオ・デル・トロ)は、1971年にオフロードレースの取材のためにラスベガスに出掛ける。レンタカーで借りた真っ赤なオープンカーのトランクにアルコールとドラッグを大量に詰め込んで取材先に向かう。ラスベガスの高級ホテルのスイートルームに宿を取るが、ドラッグで幻覚を見ている二人は歯止めがきかなくなり、やりたい放題。ホテルの部屋もぐちゃぐちゃに荒らし、ついには仕事も投げ出してしまう。その後ゴンゾーが去って、仕事を放棄したことで無一文になってしまったデュークは、支払いをしないままホテルから逃走する。

こんな破天荒はストーリーが続いていく。筋はあってなきがごとし、ドラッグ・カルチャーの記録としてカルト視されている原作を再現した、“トンデモ”映画と呼んでいい強烈な作品だ。

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ジョニー・デップがすばらしき"トンデモ映画"で着用したパッチワークジャケット

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ジョニー・デップの愛用品⑤ ストール

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ファリエロ・サルティのコレクションの中でも長く人気を誇る、無地の大判ストール「アズーラ」。大判でも美しいドレープをつくり、コンパクトにも巻ける“落ち感”があるのは、メインの素材に採用した「モダール」の特徴。超極細のモダールファイバーにカシミアを加えることで独特の光沢と、優しい肌触りを実現させている。モダール90%、カシミア10%。全長約190cm、幅約140cm。¥37,400(税込)/ファリエロ・サルティ

ニューバランスといえば数字を使ったモデル名が象徴的。「1000番台が私は好き」「いやいや僕は990シリーズをずっと買い続けている」と、まるで外車のモデル名を並べるようにスニーカー好きは品番で “ニューバランス愛”を力説する。まさにシューズそれぞれに付けられた品番はニューバランスでは大きな意味をもつ。

多くの有名人がニューバランスを愛用していて、ブラッド・ピットも映画『スナッチ』(00年)で「ML574」を履いている。「574」シリーズはニューバランスのアイコニックなモデルで、高い機能を備えながらも価格が1万円前後とコストパフォーマンスが高い。しかもDと2Eの2種類のウィズ(足囲)が用意され、履く人の最良のフィッティングが得られる。多くの人に愛用される理由も、そこにあるのではないだろうか。

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ジョニー・デップが愛用する大判ストールは、イタリア屈指のブランドがつくる名品

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ジョニー・デップの愛用品⑥ フェドーラハット

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ジョニー・デップが愛用した帽子と同じデザイン。モデル名は「ウィペット リプロ」。1939年に発売された「ウィペット」を、配色から裏地の刻印まで忠実に再現した限定モデルで、専用の箱も往年のデザインを復活させている。素材は毛100%でラビットとビーバーが使われている。これはグレー。サイズは58cmと60cmの2種類。アメリカ製。¥70,400(税込)/ステットソン

ウェブサイト『シネマトゥデイ』に2011年に掲載された記事によると、帽子好きで知られるジョニー・デップは、当時の恋人であるヴァネッサ・パラディと暮らしていたパリのアパートで、二部屋を占領するほどのコレクションを持っていたという。あまりの多さにヴァネッサから「帽子を処分しなければ、あなたが留守の間に捨てるわよ」と言われてしまう。それでも捨てるどころか帽子を買い足すジョニー。ホームレスから買い取った帽子を持って帰ってきたジョニーに激怒したヴァネッサは、期限を切って帽子の処分を迫ったという。

ジョニーは1987年にスタートしたテレビシリーズ『21ジャンプストリート』に出演しているが、そのときのプロデューサーのジョアン・カーソンは「彼はフェルトの帽子の下から深い茶色の瞳をのぞかせ、床にひきずるようなロングコートを着ていたの。とてもキュートで、それでいてさすらいの旅人みたいだった。あれも彼の魅力なのよね──宿なしみたいな雰囲気なんだけど、カリスマ性を漂わせていたわ」(『デップ』クリストファー・ハード著 二見書房)と語る。ジョニーの帽子好き、また帽子を被ったときの雰囲気は当時から筋金入りとみていいだろう。

アパート二部屋分も帽子を持っているジョニー。それでもホームレスからも譲り受けるくらいだから、さまざまな帽子を被っているだろうが、彼が頻繁に被っているハットブランドがある。帽子好きならば誰もが知るアメリカの老舗、ステットソンだ。1865年、ジョン・B・ステッドソンがフィラデルフィアで始めたブランドで、近郊に帽子製造の工場を設立、やがてアメリカ最大の帽子工場へと成長を遂げる。リンドン・ジョンソンやジョージ・ブッシュ元アメリカ大統領をはじめ、英国のチャーチル元首相や日本の吉田茂元首相も愛用したと言われる名門だ。『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』(81年)などのシリーズで、ハリソン・フォードが被ったのも同ブランドのものだ。

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帽子マニアのジョニー・デップが愛用するステットソンのフェドーラハット

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