帽子マニアのジョニー・デップが愛用するステットソンのフェドーラハット

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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ジョニー・デップが愛用した帽子と同じデザイン。モデル名は「ウィペット リプロ」。1939年に発売された「ウィペット」を、配色から裏地の刻印まで忠実に再現した限定モデルで、専用の箱も往年のデザインを復活させている。素材は毛100%でラビットとビーバーが使われている。これはグレー。サイズは58cmと60cmの2種類。アメリカ製。¥70,400(税込)/ステットソン

「大人の名品図鑑」ジョニー・デップ編#6

ジョニー・デップ──端正な顔立ちと、憂いを帯びた瞳。役柄に“成り切る”演技はまさに一級品で、ハリウッドの頂点にあっても“異端児”と呼とばれる唯一無二の存在だ。ファッション好きとしても知られ、身に着けるものにも映画同様に熱い視線が注がれる。そんな彼が、プライベートや映画の中で身に着けた名品を追う。

ウェブサイト『シネマトゥデイ』に2011年に掲載された記事によると、帽子好きで知られるジョニー・デップは、当時の恋人であるヴァネッサ・パラディと暮らしていたパリのアパートで、二部屋を占領するほどのコレクションを持っていたという。あまりの多さにヴァネッサから「帽子を処分しなければ、あなたが留守の間に捨てるわよ」と言われてしまう。それでも捨てるどころか帽子を買い足すジョニー。ホームレスから買い取った帽子を持って帰ってきたジョニーに激怒したヴァネッサは、期限を切って帽子の処分を迫ったという。

ジョニーは1987年にスタートしたテレビシリーズ『21ジャンプストリート』に出演しているが、そのときのプロデューサーのジョアン・カーソンは「彼はフェルトの帽子の下から深い茶色の瞳をのぞかせ、床にひきずるようなロングコートを着ていたの。とてもキュートで、それでいてさすらいの旅人みたいだった。あれも彼の魅力なのよね──宿なしみたいな雰囲気なんだけど、カリスマ性を漂わせていたわ」(『デップ』クリストファー・ハード著 二見書房)と語る。ジョニーの帽子好き、また帽子を被ったときの雰囲気は当時から筋金入りとみていいだろう。

アパート二部屋分も帽子を持っているジョニー。それでもホームレスからも譲り受けるくらいだから、さまざまな帽子を被っているだろうが、彼が頻繁に被っているハットブランドがある。帽子好きならば誰もが知るアメリカの老舗、ステットソンだ。1865年、ジョン・B・ステッドソンがフィラデルフィアで始めたブランドで、近郊に帽子製造の工場を設立、やがてアメリカ最大の帽子工場へと成長を遂げる。リンドン・ジョンソンやジョージ・ブッシュ元アメリカ大統領をはじめ、英国のチャーチル元首相や日本の吉田茂元首相も愛用したと言われる名門だ。『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』(81年)などのシリーズで、ハリソン・フォードが被ったのも同ブランドのものだ。

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ステットソンの代名詞「ウィペット」

数あるステットソンの中でもジョニーがよく被っているのが、ステットソンの代名詞とも言える「ウィペット」というフェドーラハット。「ウィペット」とは英国の競走犬のことで、その背中のカーブをイメージしたクラウン(帽子のひさしを除いた山になっている部分)のラインが美しいことで知られる帽子だ。

話が少し横道にそれるが、フェドーラハットの由来について触れておこう。『帽子の文化史』(出石尚三著 ジョルダンブックス)によれば、この帽子は19世紀に書かれたヴィクトリアン・サルドゥーが書いた『フェドーラ』という芝居に出自をもつ帽子だ。女性の主人公フェドーラが被っていた帽子が当時大ヒットし、英国だけでなくアメリカまでその影響は広がり、シアーズなどのカタログに掲載されるほどの人気を集めたと書かれている。つまりフェドーラは、もともとは女性用の帽子。エレガントの雰囲気をもっているのはそのためだろう。

昨年、ベルリン国際映画祭で『MINAMATA─ミナマタ─』のワールドプレミアが開催された際にも、ジョニーはこの「ウィペット」と呼ばれるフェドーラハットを被って登場している。まさに彼のアイコン的なハットだと断言できる。

前回の大判のストールと違い出演作でもジョニーは帽子を被っているが、クラシックな帽子がよく似合っていたのが『パブリック・エネミーズ』(2009年)という映画だ。1930年代のアメリカの大恐慌時代を描いた作品で、ジョニーが演じたのは実在の人物である銀行強盗のジョン・デリンジャー。警察を嘲笑うかのような鮮やかな手口で銀行を襲い大金をせしめるが、弱者からは何も奪わないという義賊のような存在だ。しかし司法省は、「Public Enemy No.1(公共の敵筆頭)」としてデリンジャーを指名手配し、彼を徐々に追い詰めていく。舞台が30年代ということもあって、ジョニーはダークカラーのコートに同系色のソフト帽を被り、クールな犯罪者を演じる。ポップなキャラクターを演じるときのジョニーと違い、男の美学を追求するようなジョニーが本当に粋に見える。ジョニー好き、帽子好きならば必見の作品だ。

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内側のクラシックなデザインは「ウィペット」が発売された当時のデザインを再現したもの。「ウィペット(whippet)」のモデル名もプリントされている。

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帽子の内側のスベリ素材には革が使われている。そこに「Made in USA」の文字が刻印されている。正真正銘のアメリカ製だ。

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「ウィペット」のプリム(ツバ)にはクラシックなトリミングが施されている。

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グレーの「ウィペット リプロ」の色違いで、ブラウン。太めのリボンとプリム(ツバ)に施されたトリミングがこのモデルをエレガントに見せる。素材は毛100%。サイズは58cmと60cmがある。¥70,400(税込)/ステットソン

問い合わせ先/ステットソン ジャパン TEL:03-5652-5890
https://www.stetsonhats.jp

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