ジョニー・デップが映画でもプライベートでも着用するウエスタンジャケット

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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ジョニー・デップがプライベートで着用していたモデルと同様のウエスタンジャケット。同ブランドが50年代に製作していたモデルがベース。素材はコットンギャバジン。ボディの表側と背中や袖にまで手刺繍が施されている。両脇に付いたポケットもウエスタン調の飾りが付き、フロントや袖のボタンもすべてスナップボタン。¥22,800(税込)/ロックマウント

「大人の名品図鑑」ジョニー・デップ編#3

ジョニー・デップ──端正な顔立ちと、憂いを帯びた瞳。役柄に“成り切る”演技はまさに一級品で、ハリウッドの頂点にあっても“異端児”と呼ばれる唯一無二の存在だ。ファッション好きとしても知られ、身に着けるものにも映画同様に熱い視線が注がれる。そんな彼が、プライベートや映画の中で身に着けた名品を追う。

ジョニー・デップの本名はジョン・クリストファー・デップ2世。技師として働く父ジョンと、コーヒーショップでウェイトレスをしていた母ベティ・スーの末っ子として、ケンタッキー州のオーウェンズバラで生まれた。ジョニーの家系にはアイルランド人とドイツ人の血、それにチェロキー族の血が流れていた。エキゾチックな表情を持つのはそのためかもしれない。『デップ』(クリストファー・ハード著 二見書房)には、「子どもの頃、友だちと遊ぶときも、デップはいつも『インディアン』の役をやりたがった」と書かれている。また同書には「体に刻まれたタトゥーの一つは、立派な頭飾りをつけたインディアンの姿」だとも書かれている。

そんな彼の出自もあるのだろうが、ジョニーはプライベートでウエスタンアイテムをよく身に着けている。中でも印象に残ったのが黒をベースに全体に刺繍が入ったウエスタン調のジャケットだ。日本でも人気があるロックマウントのものだという説がある。東京・アメ横にある「石原商店 ワンアンドハーフ」というショップでジョニーが着用したものと同じように見えるジャケットを発見した。ジョニーが着たものはヴィンテージのジャケットらしいが、ロックマウントでは現在でも同じデザインのものを製作している。

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本格的なウエスタンシャツの老舗・ロックマウント

ロックマウントの正式なブランド名は「ロックマウント・ランチウエア」。1946年、アメリカのコロラドで創業した老舗で、半世紀以上に渡って本格的なウエスタンシャツをつくり続けてきたブランドだ。2004年にアメリカで発行された『WESTERN SHIRT』(Steven E. Weil & G. Daniel DeWeese著 Gibbs Smith, publishers)によれば、創業者ジャック・A・ウェイルはウエスタンシャツ界のヘンリー・フォードと評され、ウエスタンシャツに付いたスナップボタンはこのブランドが初めて採用したものだという。ちなみにこのボタンを採用したのは、シャツが鞍や牛の角にあたっても引っ掛かることがないようにという実用性を考えてのことだが、いまやウエスタンアイテムに欠かせないディテールのひとつになっている。

同書にはデニス・クエイド、メグ・ライアン、ウディ・ハレルソン・エイダン・クインなどのハリウッドスターが映画で同ブランドのシャツを着用したと書かれているが、その中にニコラス・ケイジの名前があがっている。彼は『レッドロック/裏切りの銃弾』(1993年)でこのブランドのウエスタンシャツを着ているが、実はニコラス・ケイジは、ジョニーに俳優になることを勧めた人物。両親が離婚し、高校を中退してしまったジョニーが目指したのはミュージシャンだった。南フロリダでバンド活動の後、ロサンゼルスに行ったジョニーが出会ったのが、ニコラス・コッポラ。当時、彼は名監督フランシス・フォード・コッポラの甥で、名監督との縁戚であることを知られるのを嫌がり、ニコラス・ケイジという芸名に変えたばかり。若きパンクロッカーであったジョニーが食い扶持を稼ぐための腰掛けのような仕事にうんざりしていたのをニコラスは知って、彼に俳優のオーディションを受けることを薦めたのだ。ジョニーは『エルム街の悪夢』(84年)に合格、演技経験もないままデビューを果たした。彼の薦めがなかったら、いまのジョニーはいなかったかもしれない。2人が同じブランドのウエスタンアイテムを着たのも何かの縁だろう。

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ウエスタンシャツが印象的な出演作

そんなジョニーが作品中のほとんどでウエスタンシャツを着用している作品がある。『ブレイブ』(97年)という作品だ。これはジョニーが初めて監督・脚本・主演の3役に挑戦した作品で、97年のカンヌ映画祭に出品され、パルムドールにもノミネートされた作品。共演しているのが、あのマーロン・ブランドだ。『クライ・ベイビー』(90年)でも二人は共演しているが、マーロンはジョニーを気に入って、この作品には無償で出演したと聞いている。

ジョニーが演じているのは、アメリカの片田舎のトレイラーハウスで家族と貧しい生活を送る、ネイティブアメリカンのラファエル。仕事を求めてとあるビルを訪れると、そこには車椅子に乗った不気味な男、マッカーシー(マーロン・ブランド)いた。彼から、実際に拷問を受けて殺される姿を写す「スナッフ・フィルム」に出演することを条件に、5万ドルを支払う話を持ちかけられる。ラフェエルは愛のために命を投げ出せるのだろうか? そんな重厚なストーリーだ。この映画でジョニーがずっと着用しているのが、ウエスタンシャツ。はき込んだジーンズとともに、まるで彼が普段着のまま出演したかのように見えるほど、ウエスタンスタイルが自然に見える。

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コロラドのデンバーで創業されたウエスタンシャツの老舗。ウエスタンシャツは日本でもよく販売されているが、ジャケットタイプは珍しい。

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フロントボタンはすべてスナップ式。これはロックマウントが、初めてウエスタンシャツに採用したものだ。また、身頃などに入った手刺繍は50年代のロカビリー風で、独特の味わいがある。

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ジャケットと同じくブラックのコットン素材を使ったウエスタンシャツ。もちろんボタンはスナップ式で、胸のスマイルポケットもいかにもウエスタン風だが、カラーが黒なので、モード的にも着こなせるかもしれない。¥14,800(税込)/ロックマウント

問い合わせ先/石原商店 ワンアンドハーフ TEL:03-3831-1619
https://www.rakuten.co.jp/oneandhalf/

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