名作には、揺るがぬコンセプトがある。一方で時代の空気もデザインに反映してきた。今回は、タグ・ホイヤー「モナコ」の足跡を通じ、愛される理由を検証しよう。
世界初の称号は、たゆまぬ技術革新の象徴であり、歴史に名を刻む偉業の証しでもある。時計史において、角型防水ケースと自動巻きクロノグラフという、ふたつの世界初を同時に搭載したことで名を馳せた腕時計がホイヤー(現タグ・ホイヤー)の「モナコ」だ。1971年公開の映画『栄光のル・マン』で名優スティーブ・マックイーンが着用していたことは有名で、レーシングスーツの右腕につけた姿は、モナコを語る上で欠かすことのできないひとコマだ。
その印象的なシーンから左リューズのレフトハンド仕様が初代の特徴として語られるが、実は意図したつくりではない。搭載したモジュールの機能性と効率性を重んじた結果、逆向きの設計にせざるを得なかったという。さらには自動巻きクロノグラフはどうしてもコストが割高だったことから、後発モデルは手巻き式の標準的なエボーシュに改めることに。そのため、72年以降は一般的な右リューズタイプが展開された。
ささいな違いに感じるリューズの位置ひとつとっても、世界初に挑戦する製造現場の苦労や時代背景を感じられる。象徴的な角形ケースと、地中海の美しい水面を表現したブルーの文字盤。変わらずに受け継がれるデザインだけでなく、時計づくりの歴史が詰まった細部にも注目したくなる。それがモナコの魅力だ。
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1969年 ホイヤー モナコ
F1レースのモナコグランプリにちなみ、4代目ジャック・ホイヤーが名付けた代表作。マイクロローター搭載の自動巻きクロノグラフムーブメント「クロノマチック キャリバー11」を、スクエア型防水ケースに内蔵。自動巻きとクロノグラフのモジュールを重ね合わせた機構の特性から、上リューズ仕様に。
1972年 ホイヤー モナコ
スイスフランの高騰やクオーツショックの影響を受け、手巻き式に変更。ムーブメントは「バルジュー7736」を搭載し、三つ目表示へ。リューズも3時位置へと移動したことで、よりデイリーユースなルックスに仕上げた。
1972年 ホイヤー モナコ
「キャリバー15」を用いた自動巻き式クロノグラフ。初代モデルの薄型として発表され、ブラッシュ加工のシルバー文字盤にブルーのサブダイヤルが採用された。クラシックな7連ブレスにより、ドレッシーな外観に変貌。
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1975年 ホイヤー モナコ
初代のツーカウンターを踏襲し、バランスの整った顔立ちへとアップデートした手巻き式。ケースには初のブラックPVDを採用したことから、ヴィンテージウォッチのコレクターからは“ダークロード”と呼ばれる。
2009年 ホイヤー モナコ キャリバー12 クロノグラフ
1975年以降も特別仕様などをラインアップしてきたが、「モナコ」の原点に立ち返るべく、現在まで続く系譜の転換点となったモデル。防水性を100mへと向上させ、プッシュボタンは大きく突出させ操作性を重視。
2015年 ホイヤー モナコ キャリバー11 クロノグラフ
初代モナコを忠実に復刻したモデルがレギュラーで登場。左リューズ仕様の自動巻きムーブ「キャリバー11」を搭載し、インデックスや針、ロゴの表記までも余すところなく再現。待望の復刻として話題に。
2021年 タグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ

初代から脈々と続く、象徴ともいうべきブルーの文字盤に、サンレイ加工を施すことで美しさを増した逸品。ブレスレットは1970年代初めのモデルに使用されていたH型のリンクデザインを忠実に再現して、ドレッシーな印象を向上させた。最新型の自社製ムーブメント「キャリバーホイヤー02」を搭載。
※この記事はPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集より再編集した記事です。