若い時にこそ、本格派の腕時計を選べば長く使えるもの。腕時計の目利き4人に、20代で買うべき長く愛せる名品を訊いた。
GRAND SEIKO(グランドセイコー)
セイコー創業140周年 記念限定モデル SLGA007

次世代に向けた、国産時計の矜持をぜひ腕に
この秋発表された2021年度「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に、1999年発売の「セイコー スプリングドライブ」が選ばれた。これは国立科学博物館が認定し、次世代に継承していく上で重要な意義をもつ発明や開発品が登録されるものだ。
伝統的な機械式時計に対し、スプリングドライブはクオーツ式の技術を統合し、電池を用いず、ゼンマイを動力源にしながら高精度を実現した。1970年代にはクオーツを実用化し、近年もGPSソーラーを発明するなど、時計の歴史に革新をもたらしてきた日本ならではの独創的な技術だ。
だが高級時計の主流が機械式になるなか、道のりは決して順風満帆ではなかった。それでも先進技術の研鑽と進化を続け、サステイナビリティにも通じる次世代への可能性が改めて注目を集めるとともに、世界的にも評価が高まっている。若い世代にはぜひ、そんな進取の精神と不屈の気概を内に秘め、時を重ねてほしいと思う。
日本の独自技術はガラパゴス化とも揶揄される。だがそれは取り残されたのではなく、新生代の新たな生命の息吹であり、次世代に向けた進化の萌芽といっていい。決して“遺産”ではなく、20代よりもむしろ自分自身がいま手にすべき時計であることを強く実感してしまうのだ。
<推薦者>

柴田 充●1962年、東京都生まれ。広告制作会社、出版社を経て独立。広告やライフスタイル誌を中心に活躍。ファッションやクルマにも造詣が深い。最近、小学生の頃にもらった初めての腕時計を発見。なにごともなく動いたことに2度ビックリ。
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THE CITIZEN(ザ・シチズン)
NC0200-81L

グローバルな未来を担う若者には、ツウも唸るハイブリッドな一本を
メンテナンスを怠らなければ、100年先まで受け継げる。そう考えれば、機械式時計は決して高い買い物ではない。とはいえ、20代の若者にとっては何本も気軽に買える代物でもなく、ファッションやシーンを選ばないモデルが最初の一本には望ましいだろう。
ザ・シチズンの新作は、オールマイティに使えるデザインを纏っている。潔い面構成で成形されたケースとブレスレットとが一体化した姿は、スポーティで、カジュアルなスタイルによく似合う。同時に元来クラシカルなスモールセコンド式としたことでエレガントな印象も併せもち、スーツにも合わせやすい。また腕時計は人の目につきやすく、ともすればやっかみの対象になることもあるが、国産時計であればさほど嫌味にはならない。そして時計に詳しい人が見れば「いい時計をしている」と理解され、会話の糸口になる。
このモデルのために11年ぶりに新開発されたキャリバー0200は、香箱につながる二番(歯)車が分針を、それと噛み合う三番車を介した四番車が秒針を、それぞれ直接駆動する通好みの設計だ。傘下に置くスイスのラ・ジュー・ペレ社との協業により、キャリバー0200は優れた審美性も兼ね備える。日本とスイスのハイブリッドである点も、グローバル化する未来を担う20代が着けるにふさわしい。
<推薦者>

髙木教雄●1962年、愛知県生まれ。99年からスイスでの時計発表会の取材を続け、時計専門誌やライフスタイル誌などで執筆。ブランド各社のファクトリーにも積極的に赴き、製作現場から判明するプレスリリースには記載されない魅力を探る。
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TUDOR(チューダー)
ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ

どこでも使えて、育てる楽しみもあるダイバーズ
20代にお薦めの一本と訊かれれば、5年前なら迷うことなく、悪目立ちしない、スタンダードな3針モデルを真っ先に選んだはず。
でも時代は変わった。スーツからビジネスカジュアルへ。オフィスワークからリモートワークへ。この流れはもう止まらない。
そこでこれから活躍する20代にお薦めしたいのが、防水性が高く頑丈でどんな場所でも安心して使える、スーツにも合うメタルブレスレットの本格ダイバーズ。
なかでもチューダーのこの新作は、ケースの直径が39㎜と小さすぎず大きすぎずのベストサイズ。そして時を刻むのは、クロノメーター検定という公的機関による精度検査を経た上に社内調整で精度を上げた最新の機械式マニュファクチュール・ムーブメント。心臓部に磁気の影響を受けないシリコン部品を採用しているので、スマートフォンやPCなど強い磁気を発するデジタル機器が原因のトラブルが起きる心配も少ない。
その上、ケースとブレスレットには、使い込むほどに“パティーナ”と呼ばれる絶妙な変色が起こる人気のブロンズ素材を採用。“自分だけの一本”に育てる楽しみもあるから、特別な愛着も湧く。
しかも交換用ストラップと5年保証付きで50万円ちょっとの価格なんて、これは夢のような話なんですよ、20代の皆さん!
<推薦者>

渋谷康人●時計&モノジャーナリスト、編集者。モノ情報誌と時計専門誌の編集者時代の1995年から現在まで、スイスの時計フェア、スイスや日本の時計ブランドの工場取材を一貫して続ける。時計業界の現状やスマートウォッチにも詳しい。
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PANERAI(パネライ)
ルミノール マリーナ eスティール ブルー プロフォンド

サステイナブルな相棒と、 未来への歩を進めよう
腕時計選びに関して、大前提として私は、男女関係なく「何歳だからまだ早い」とか、「何歳だからこのへんで……」という気持ちはもちあわせていない。「名品」こそなるべく早く手に入れて少しでも長く愛用するべきだし、人生初の「いい時計」ならなおさら、妥協なく、とことん気に入ったものを手に入れるべき。なぜなら、妥協して選んでもやっぱり気持ちは次の一本へいってしまうし、「もっと大人になったら」とか考えていると、あっ!という間に大人になりすぎてしまうから(笑)。
2021年も多くの魅力的な新作が発表された中で、選んだのはパネライ「ルミノール マリーナ eスティール」。アラサーから歳を重ねおじいちゃんという最終形態になるまで、どんな年代でも似合うこと、若者でもドヤ感がなく爽やかという好感度の高さもポイントだ。
実は私自身、「ルミノール マリーナ」を20年近く愛用していて、ストラップはもう6本目に替えるところ。この時計が「飽きない」「合わせやすい」「視認性最高」ということをリアルに体感し、おばあちゃんという最終形態になっても使っていると確信している。
とりわけ、SDGsなコンセプトのこのモデル。次世代を担っていく若者には時計でもサステイナビリティを意識し、実践していただきたいという願いを込めて。
<推薦者>

岡村佳代●ウォッチ&ジュエリージャーナリスト。東京都生まれ。学生時代、雑誌『JJ』の特派記者として執筆活動を開始する。独立後、時計専門誌に携わる中でその魅力に開眼。女性誌だけでなく、男性誌、専門誌と幅広い媒体で執筆活動を展開中。
※この記事はPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集より再編集した記事です。