『孤独のグルメ』第8話の聖地巡礼レビュー。名物店主と焼きまんじゅうを高崎の街で味わう

  • 文:絶対に終電を逃さない女

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Ⓒテレビ東京

『孤独のグルメ Season9』第8話での井之頭五郎の出張先は、群馬県高崎市。群馬のソウルフードと言われる「焼きまんじゅう」を食べてから商談に行き、その後おにぎり処「えんむすび」でひたすらおにぎりを食べるという回だった。残念ながら「えんむすび」は現在休業中だが、焼きまんじゅうを食べた「オリタ焼きまんじゅう」は営業中かつ取り寄せ可能らしい。早速電話で問い合わせてみたところ、配送方法や本数などについてのやりとりの途中で言われた。

「高崎に来た時に寄ったら?」

これが創業74年の老舗、「オリタ焼きまんじゅう」の名物店主である。ドラマでは店主の独特のキャラクターまでは再現されていなかったが、ネットで軽く調べると、持ち帰りで注文したら味が落ちることを心配されたといった口コミや、「おまんじゅうはとにかく焼きたてじゃなきゃダメ。冷めたおまんじゅうとか最悪」と発言している取材記事などが出てくる。やはり取り寄せなどせず店に来て食べて欲しいのが本音なのだろうか。確かに焼いてから時間が経てば少なからず味は落ちるだろうし、取り寄せて自宅で焼いてすぐに食べたとしても、プロの焼きたてには敵わないだろう。Webサイトなどもなく取り寄せの受付や発送なども自前でやっていそうなので、面倒なのも理解できる。

ということで、思い切って行くことにした。不定休のため、営業日を確認する。

「明日営業してますか?」

「やってます。東京から? うん、来た方がね、送料が結構かかるからね」

急に少し優しい口調になる。売り切れ次第終了で昼過ぎに閉店することも多いという情報があったため、「普段何時ごろに閉めますか?」と聞いたところ「それはわからない。お客さん次第だから」とのことだった。

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いざお店へ

いつ売り切れるかわからないので、開店時間である10時半に到着。昭和の駄菓子屋のような外観に、「焼まんじゅう」と書かれた暖簾が風にはためいている。なぜか「焼ま」だけ文字サイズが小さいのがなんとも味わい深い。アンイリ200円、アンナシ190円。なぜかすべてカタカナ。看板やメニューの貼り紙を見る限り、「焼」の送り仮名は付けない方針のようだ。

暖簾の向こうで店主が串に刺さったまんじゅうを焼いている。1970年前後の雰囲気を感じさせるレトロな柄ワンピースとアイラインで囲んだメイクが素敵だ。半開きの窓から「店内で食べたいんですけど」と申し出ると、「今店内やってない。コロナだから」とのことだったので、持ち帰りで買うことに。

「何本?」

「アンイリを1本で」

「2本からなんですけど」

「あ……」

特に注意書きなども見当たらなかったため、想定外の事態に『千と千尋の神隠し』のカオナシ状態になってしまう私。

「両方食べてみたらいいのに。アンイリとアンナシ全然違うから」

「じゃあ1本ずつで」

「はい。車? どこに停めた?」

「いえ、徒歩です」

「じゃあ向こう側が涼しいからあっちで待ってて」

お店の前は日光を遮るものがないので非常に暑い。指示通り、車道を挟んで向かいの歩道の日陰で待つこと20分。店主が窓から手招きをするのが見えた。想像以上にじっくり丁寧に焼くようだ。

「これ、どこで食べます? 歩きながら食べる? すぐ食べた方が美味しい。時間経ったら全然美味しくない。今すぐ食べれば美味しい」

とにかく早く食べるよう、これでもかというくらい畳みかけてくる。じゃあ歩きながら食べますと答えると、発泡スチロールのトレーに焼まんじゅうを乗せ、刷毛でタレを塗る。アンナシ2つだけ串に刺さっている。受け取る時にも「すぐ食べると美味しい」と念を押され、「向こう日陰だからそっち歩きながら食べたら? ね?」と、私がすぐ食べると答えたからか声のトーンが少し上がり、最後だけ笑顔を見せてくれた。

トレーが浅くてうっかり落としそうでちょっと怖いが、これだけ言われたのでアンナシからすぐに食べる。齧った瞬間、ガツンと来る濃厚な甘さ。なるほど、このタレが抜群に美味しい。砂糖と赤味噌のこの甘じょっぱさは、岐阜県のご当地グルメ「五平餅」のタレに似ている、と言っても知っている人は少ないと思うので、強いて言うならみたらし団子に近いだろうか。 

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高崎の街を眺めながら焼きまんじゅうを食べる

近くに五郎も歩いた高崎中央銀座商店街にベンチを見つけ、座って落ち着いて食べることができた。アーケードで助かった。しかしこんな濃厚なタレにまんじゅうが合うのかと疑問だったが、一般的なまんじゅうとは別物と言っていいかもしれない。炭火で焼いた表面はパリッと香ばしく、この風味は自宅のガスコンロでは出せなかっただろう。中はふんわりサクサクした軽やかな食感のおかげで、タレの濃さとバランスが取れている。

一方、アンイリに串を刺すとどっしりとした重さが伝わってくる。アンナシと比べて少ししっとりもっちりした生地の中に、滑らかな舌触りのこしあん。無添加だけあって、五郎の言うとおり「素朴な味」だ。祭りや縁日などの屋台で食べたい感じ。と思って調べてみると群馬では定番らしい。でも今は夏祭りもだいたい中止か、と気付いて少し切なくなる。

ちなみに「オリタ」のイートインの場合にはコーヒーもあるらしい。確かにこれは絶対にコーヒーと合う。五郎が商談をした大正2年開館の映画館「高崎電気館」で映画を見た後に立ち寄ってお茶をするのも良さそうだ。

しかしこんなご時世なので、私はスーパーで水を買って人もまばらな「中央銀座3番街」の木のベンチで焼まんじゅうを食べている。タレが口の周りに付くので、その点では人通りが少なくて良かったかもしれない。見渡す限りのシャッター街。閉業してそのまま残っている様子のお店が少なくない上に、休業中のお店も多いようだ。昔ながらの八百屋や洋品店の隣に、最近できたようなキャバクラやガールズバーが並んでいる。駅からの道のりも、古い立派な建物が多く残っているのが印象的で、昔の街の風景を想像しながら歩いてきた。

長年まんじゅうを焼きながら高崎の街を見守ってきたであろう「オリタ」の店主は、何を思うのだろう。高崎のローカルグルメサイト「ゼツ飯リスト」に掲載された際には、後継者がいないため「私の代で店閉めちゃうからね」と語っている。これ以上シャッター街化が進行しないよう、絶品焼まんじゅうが途絶えないよう、後継者が見つかることを祈るばかりである。

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次回放送は9月3日(金)0時17分からスタート!Ⓒテレビ東京

絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
Twitter: @YPFiGtH
note: https://note.mu/syudengirl

連載記事

【第一話】『孤独のグルメ』の最新シーズンが始まったので、(事前)聖地巡礼をしてみた
【第二話】『孤独のグルメ』第2話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎に「攻めの姿勢」の大切さを学ぶ
【第三話】『孤独のグルメ』第3話の聖地巡礼レビュー。東麻布で外国料理店のもつ“力”を感じる
【第四話】『孤独のグルメ』第4話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎の「デカちゃん」ぶりを思い知らされる
【第五話】新型コロナに感染した人間が、『孤独のグルメ』を見て思うこと
【第六話】『孤独のグルメ』第6話の聖地巡礼レビュー。半月ぶりの外食は「普段使いしたい」店で
【第七話】『孤独のグルメ』第7話の舞台は「貴州火鍋」。五郎の桁違いの体力に理解が追いつかない