『孤独のグルメ』第4話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎の「デカちゃん」ぶりを思い知らされる

  • 文:絶対に終電を逃さない女

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Ⓒテレビ東京

JR中央線国分寺駅南口を出て繁華街を抜け、住宅街の先にある小さな商店街をさらに抜けると、「中国料理 Sincerity(しんせらてぃ)」は現れる。『孤独のグルメ Season9』第4話の舞台は、東京都府中市の閑静な住宅街に囲まれた、こげ茶色の建物が特徴的な中国料理店だ。

テーブルに案内され、メニューを開くと飛び込んでくるのは200を超える豊富な品数。井之頭五郎が勢いよく食べていた「蒸し鶏のピリ辛和え」もいいけれど、「牛タンの燻製冷菜」、「ズワイガニ肉入り中国風オムレツ」、「白菜のクリーム煮」、どれも捨てがたい。まさしく「底なし中華沼」である。

“長期戦”の末、「牡蠣とニラの辛し炒め」と「合びき肉のトマトスープソバ」を注文。やや創作料理に近い印象もあり、これは確かに「期待がデカちゃん」になる。「期待がデカちゃん」とは、五郎がこの店で料理を注文した後に放ったセリフである。「デカちゃん」って誰だよ。まあ、それはいいとして、今の私は五郎と似た気分なのだ。

しばらくして「牡蠣とニラの辛し炒め」が運ばれてくる。太陽光を反射する海のような輝きを放つ餡に圧倒される。スプーンで掬って飲んでみると、井之頭五郎の「この餡は一筋とて残せん」という気持ちがよくわかった。

「気付いちゃった気付いちゃったわーいわい!」

お笑い芸人のデッカチャンが私の頭の中でスネアドラムを打ち鳴らす。まろやかだがキレのある喉ごしが冴える。もはや餡単体で飲めそうな勢いだ。

白ご飯にかけても美味しそうだが、五郎はこれを割包(クァパオ)にサンドして食べていた。割包とは、福建や台湾の小麦料理らしい。このシーンを見た時は、またそうやってすぐ自己流アレンジして、お店の人がこだわって完成した味を提供しているはずだから邪道なのでは……と思わなくもなかったのだが、確かにこの餡はあの手この手で一滴残らず使い切りたいと思うのも理解できる。百戦錬磨の五郎に死角はないようだ。

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どこまでも夏に合うお店

お次は五郎も気になっていた「合びき肉のトマトスープソバ」。麺類は温かいソバと冷たいソバがあり、夏らしく冷麺にしようかとも思ったが、イタリアンっぽい変わり種中華が気になったので思い切って頼んでみたのだ。器の横にはタバスコが置かれ、予想以上のイタリアン感。

もちろんスープは熱いが、トマトの酸味が疲れた身体に染み渡り、これはこれで夏に合う。正解だった。トマトとひき肉とみじん切りの玉ねぎがそれぞれしっかり主張してくるが、喧嘩はせずバランス良く共存している。ご主人の腕前に思わず舌鼓を打つ。

ちょうど食べ終わってデザートを頼もうか迷っていたところ、幸運にもありがたく「シェフからのサービスです」とオレンジゼリーを頂けた。器とスプーンまでしっかり冷えた、フレッシュなオレンジそのままな果汁感がさらに夏らしさを加速させる。どこまでも夏に合う店だ。

五郎が食べていた杏仁も美味しそうだったが、すっかり満腹になってしまったので諦めることにした。同じ店で五郎と同じ料理を食べてみるとわかるが、五郎の一口と胃袋は私の4倍くらいある。胃袋が「デカちゃん」になった私は、改めて井之頭五郎の「デカちゃん」ぶりを思い知らされたのだった。五郎の背中を追いかける日々はまだまだ続く。

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次回第5話の放送は8月6日(金)深夜0時22分よりスタート!「東京オリンピック」中継のため、放送時間変更の可能性があります。Ⓒテレビ東京

絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
Twitter: @YPFiGtH
note: https://note.mu/syudengirl

連載記事

【第一話】『孤独のグルメ』の最新シーズンが始まったので、(事前)聖地巡礼をしてみた
【第二話】『孤独のグルメ』第2話の聖地巡礼レビュー。井之頭五郎に「攻めの姿勢」の大切さを学ぶ
【第三話】『孤独のグルメ』第3話の聖地巡礼レビュー。東麻布で外国料理店のもつ“力”を感じる