アホやなあと思ってもらえたら、いちばんいい。

アホやなあと思ってもらえたら、いちばんいい。

文:泊 貴洋
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藤井 亮

映像作家/クリエイティブ・ディレクター

●1979年、愛知県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、2003年に電通入社。関西支社でアート・ディレクターやCMプランナーを務める。19年に退社後、豪勢スタジオを設立。近作に藤子・F・不二雄ミュージアムの短編『セイカイはのび太?』、MV「金太の大冒険」など。

少年が言い放つ。「武将なんて、どれも同じでしょ?」。すると輝く石田三成の肖像画が登場。「♪武将と言えばミツナリ~」と音楽が流れ、子どもも武将も踊り出す……。2016年公開のシュールな滋賀県PR動画『石田三成CM』がヒット。手がけたのは映像作家の藤井亮だ。NHKの5秒映像『ミッツ・カールくん』や『オドモTV(オドモCM)』でも注目を集めた。

藤井は電通出身。美大で映像制作に目覚めてCMのつくり手を目指したが、アート・ディレクターとして採用されたこともあり、思うような仕事ができなかった。そこで活路を見出したのが、黎明期にあったウェブCMだ。

「やりたい人がいなかったので、自由にできたんです。テレビCMのタレントさんはウェブには出演しないので、その方のお面を使ってウェブ動画をつくったら、ニコニコ動画などのランキングで1位になりました。でも喜ばれると思ったら、変に話題になって問題が起きたら困るから削除してくれと先方に言われたり。そんな時代でした」

徐々に仕事の幅を広げ、初めて企画、監督、アニメーションまでトータルに手がけた作品が、『石田三成CM』だ。

「滋賀県から、郷土出身の三成でPR動画をつくれないかと話がありました。普通に考えると、三成が滋賀県を紹介する動画になると思うんですけれど、逆に滋賀県が三成を広告すれば見たことのないものになる。さらに三成の冷酷なイメージを変えるために、親しみをもてるローカルCM風にしたらどうかと。日本中の地方CMを見て、〝てにをは〟を身体に叩き込みました」

この『石田三成CM』でACC賞の金賞と銀賞をW受賞して脚光を浴びた。

 「企画筋」が養われた、関西支社での千本ノック

 藤井の根っこにあるのは、「自分が面白いと思えるものを、自分の手でつくりたい」という思いだ。

「キマり過ぎてない、ゆるいものに愛着がありますね。入社後すぐに関西支社に配属になったので、東京でお洒落なアート・ディレクターとして活躍する同期にコンプレックスがあったんです。それに対するカウンターみたいな意識があったのかもしれない」

電通関西では、「キンチョール」「タンスにゴン」などのCMで知られる「金鳥グループ」の仕事で鍛えられた。

「企画案をもって行っても、ばーっと見て、すぐ横に置かれる。そして言われるんです。『これ、なにがオモロイん?』って。そんな千本ノックを何年も繰り返したので、『企画筋』が付いたと思います。大事にしているのは、しつこく考えること。歩くとアイデアが浮かぶので、ぶつぶつ言いながら、よく事務所の中をグルグル歩いてます」

たとえば『ミッツ・カールくん』は、「みつかるEテレ」というコピーをつぶやき続けて、「ひとつカール、ふたつカール、みっつカール Eテレ」というフレーズとキャラを思いついた。日本建設工業のCMは、社名をつぶやくうちに「日本犬」「セツ子」「ウギョ~」という3つのキャラが活躍する案に。「つくった人、アホやなあと思ってもらえたらいちばんいい」という、藤井らしいユーモアセンスが生きている。ツイッターの肩書では、「いんちき映像作家」を自ら名乗る。

「石田三成CM以降、お洒落なアート・ディレクターにはなれないと完全に吹っ切れました(笑)。今後は、映画もやってみたい。いまの自分の筋肉は短距離向け。どうしたら長距離を走れるか、挑戦していきたい」


Pen 2021年4月1日号 No.515(3月15日発売)より転載


TVアニメ 『別冊オリンピア・ キュクロス』

ヤマザキマリのマンガをアニメ化。彫りの深いギリシャ人はクレイアニメ、顔が平たい日本人は2Dのアニメで表現。

滋賀県『石田三成CM』

『石田三成CM』は地方CM風にするため、VHSであえて画質を落とした。

アホやなあと思ってもらえたら、いちばんいい。