そもそも、ウォッチメーカーであるオーデマ ピゲがアートを支援することになったきっかけは、どこにあったのでしょう。取締役会副会長のオリヴィエ・オーデマさんは言います。
「2012年、ロイヤルオーク40周年記念のために、イギリス人写真家ダン・ホールズワースを支援しました。この時、彼が撮影したジュウ渓谷の姿が我々に衝撃を与えたのです」
そこには、自分たちの目が捉えてきた穏やかな自然とは違う、暗く厳しい自然の姿が写し出されていました。
「彼の写真に、自分たちのオリジンと存在意義を考えさせられた。我々と違う目をもったアーティストと協働することで、企業として変わりゆく世界に向けて準備することができるはず、と考えました」
こうして始まったのが、オーデマ ピゲのアートへの取り組み。アーティストが独自の視点で、ブランドの文化的、地理的原点を解釈する作品制作に対して、毎年支援が行われてきました。今年のコレクターズ・ラウンジでも、イタリア人アーティスト、ケオラが最新の映像技術から生み出したジュウ渓谷の姿がブースを彩りました。
一方、2014年からは、アートへの取り組みの中でも中心的な存在となるアートコミッションが始動。「アートがもたらしてくれる驚きと革新を最大限に享受するために、現代アートのスペシャリストに、支援すべきプロジェクトとアーティストを選んでもらうことに。それがアートコミッションです」と話すオリヴィエさん。アーティストはジュウ渓谷を訪れてウォッチメーカーの世界に潜入、体験し、そこにインスパイアされたプロジェクトを提案します。
「我々はコレクションするために制作を援助するのではありません。出来上がった作品はアーティストのもの」と言うオリヴィエ・オーデマさん。「HALO」も、今後はオーデマ ピゲの元を離れ、独自に展示されていくことになります。「アートに取り組むことの目的は、自分たちを変革すること。我々のモティベーションは、アーティストが世界を見る目を利用することなのです」
その例として、オリヴィエ・オーデマさんが挙げてくれたのは、2015年に発表されたロバン・マイヤーの「シンクロニシティ」。「自然界の同調をテーマにした作品です。特にホタルが放つ光は、誤差のない正確なシンクロ。この作品から、企業内コミュニケーションをスムーズに行うための空間オーガナイズの発想が生まれました」
アーティストとの協働は、文字通り、企業としてのオーデマ ピゲに革新をもたらしているのです。