旅の衝動に耐える日々。そして手に取ってしまった“危険”な一冊

旅の衝動に耐える日々。そして手に取ってしまった“危険”な一冊

旅の衝動に耐える日々。そして手に取ってしまった“危険”な一冊

『アジアン・ジャパニーズ』(小林紀晴 写真・文/情報センター出版局)。アジアを旅する日本人バックパッカーたちを写真と文章で切り取っている。2、3巻と続く。

日常生活を送っていると、ふと、旅の「衝動」に駆られることがある。


「憧れていたあの国へ」とか「ずっと食べたかったあの料理を」とか、旅の目的やスタイルは人それぞれだと思うけれど、僕の場合は「偶然」を欲して、時々、旅に出たくてたまらなくなる。


海外でも国内でも、街へでも山へでも、方角だけを決めて電車に乗ったり、延々と歩いたり。たいていは特別なことは起こらないけれど、その場その場でアテもなく行動していると、何かが起こるかもしれないという感覚になる。それだけでも楽しい。


しかしながら、旅がしにくいご時世。そうした中で先日、在宅ワークの傍ら(やはり旅の衝動に駆られながら)、一冊の本を思い出して本棚から手に取った。


写真家・作家の小林紀晴氏の『アジアン・ジャパニーズ』。会社勤めを辞めたばかりの当時23歳の著者が、アジア6カ国を巡る約100日の旅に出る。その旅路で出会った日本人バックパッカーたちの姿をカメラに収め、彼らの旅への思いなどを綴ったノンフィクションだ。


本書は、旅の「衝動」と「偶然」に溢れている。著者が旅へ出たのは1991年で、本が発売されたのは95年。僕が生まれる前後なのでリアルタイムでは知らないが、日本でバック・パッキングが盛り上がりを見せた当時の人々の熱のようなものが伝わってくる。あらかじめ書籍化が決まっていたわけでなく、著者もまた旅する一人の若者であったからこその等身大のやりとりがリアルだ。


僕がこの本を知ったのはそれほど昔ではない。出版社勤務時代に、担当していた雑誌の当時の編集長が教えてくれた。今思い返すと、ずいぶん“危険”な本を推薦したものだと思う。個人的感想だが、全て(仕事を含む)を投げ出して旅に出たくなる本だからだ。


再び思い切り旅ができる日を心待ちに、むずむずしながらゆっくりと読み返していきたい。