いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「オープンワークダイヤルのスポーツウォッチ」。実用時計に物語を与える、繊細に移ろう色彩の情景美に注目!

かつてスポーツウォッチは、過酷な環境に耐えうる〝堅牢性〟を象徴する、重厚でマッシブな姿こそ絶対的な正義だった。しかし、その機能性を楽しむ現代の都市生活者にとって、オーバースペックともいえる物理的な重さは必ずしも最適解ではない。そこで注目したいのが、最先端の軽量素材と、腕時計の心臓部をあらわにするオープンワークの融合である。
ここ数年で、チタンやセラミックなど軽量かつ高硬度な素材をケースに採用することが定着した。腕時計は劇的に軽くなっているのだが、そこにデザイン面での進化も加わる。視覚的な軽快さを生み出すオープンワークが、盛んに取り入れられているのだ。
伝統的なオープンワークは、構造美はもちろん、手仕事による内部仕上げの装飾美を際立たせる傾向が強かった。一方で近年は、地板やブリッジを幾何学的にカットし、構造と立体感を強調する建築的な造形が目立つ。こうした表現は、力強いケースを持つ現代のスポーツウォッチとよく馴染む。
軽量素材が描くソリッドで力強い輪郭。その内側に、風が通り抜けるような視覚的な抜けがあり、文字盤側から鑑賞できるムーブメントの鼓動が、知的好奇心を刺激する。物理的な重量を削ぎ落としながらも、スポーツウォッチとしてのアイデンティティが決して損なわれることはない。最先端の素材工学と空間を操るデザイン。そのふたつが交わることで、腕時計そのものが、圧倒的な軽快感とメカニズムの奥行きを併せ持つ姿へと進化しているのだ。
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1. PANERAI(パネライ)
サブマーシブル GMT
グレード5のチタンパウダーをレーザー焼結して積層するDMLS(直接金属レーザー焼結)により、内部を中空化したケースを成形。同形状の標準的なチタンより約25%、スチールより50%以上軽く、時計全体の重量を128ɡに抑えた。多層構造のオープンワークキャリバーが、奥行きと視覚的な抜け感を生む。
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2.HERMÈS(エルメス)
エルメスH08 スケレット
幾何学的なクッションフォルムが目を引く、軽量なチタンケースを採用した一本。非対称のX字を描くチタン製ブリッジの奥にのぞくのは、エルメスが出資するヴォーシェ社製の新型「Cal. H1978S」。ケースとブリッジが呼応するグラフィカルな構成が、スポーティでシャープな佇まいにモダンなエレガンスをもたらしている。圧倒的に軽快な装着感も魅力のひとつだ。
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3.ZENITH(ゼニス)
デファイ スカイライン スケルトン
シャープなファセットを持つブラックセラミックのケースとブレスレットが、耐傷性と軽さを両立。四芒星をかたどったゴールドトーンのオープン文字盤から、毎時3万6000振動を誇る自社製「エル・プリメロ 3620SK」がのぞく。漆黒の外装と金色の機構が鮮やかな明暗を描き、精緻な構造が際立っている。

並木浩一
桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。



