飾り立てることなく、着る人を上品に洗練させて見せる。英国生まれのブランド、マーガレット・ハウエルが半世紀以上にわたり支持される理由は、その変わることのないデザイン哲学にある。ブランドの原点となった一枚のシャツから、そのものづくりの思想をたどる。
「大人の名品図鑑」マーガレット・ハウエル:シャツ編 Podcast
普遍の名品を、その歴史や周辺のカルチャーとともに徹底解説していく『大人の名品図鑑』の音声版。ここでは、動画や記事で紹介できなかったエピソードを中心にトークを展開する。案内人を務めるのは、フリー編集者の小暮昌弘とスタイリストの井藤成一。毎月上旬に公開。
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一枚の古いシャツとの運命的な出合い
日本でも高い知名度と人気を誇る英国ブランド、マーガレット・ハウエル。そのブランドの原点には、一枚のシャツがあった。ブランドの創業者でありデザイナーのマーガレット・ハウエルは、英国を代表する美術大学のひとつ、ゴールドスミス・カレッジでファインアートを学んだ後、1970年にとあるジャンブルセール(学校や教会などで行われる慈善バザー)で一枚の古いシャツに出合う。
特別なラベルが付けられた今回のコレクション。彼女のシャツづくりは自身の寝室で1973年から始まった。その後サウスロンドンのブラックヒースに最初のワークルームを構え、今年、北ロンドンに新たな生産拠点を持ったのを機に、ブランドの原点へ立ち返る特別なシャツが発表された。
ブランド50周年で語られた原点
同ブランドのHPでいまでも見ることができるが、2020年、ブランドの50周年を記念して製作された『50 YEARS OF DESIGN』(制作は、映像作家のエミリー・リチャードソン)で、その時の状況をマーガレット自身が語る。
「素材がやわらかく、ステッチが繊細なピンストライプのシャツを見つけました。こんなシャツをつくってみたいと思ったのです。気に入ったのはそのシンプルさ、フェミニン過ぎないということ、そしてウエアラブルで実用的な服だったからです」
すっきりとした見た目が特徴のフレンチフロントに配されたボタンは少しだけ大きいものが選ばれている。素材にはニュアンスのあるカラーのストライプが入った上質なポプリンが使われ、やわらかな肌触りで、通年着用できる。
英国の伝統を打ち破ったシャツ
この古いシャツにインスピレーションを得て、彼女がデザインしたのは、上質な素材に繊細なステッチを施したシャツだった。芯地を省いたやわらかな襟、プレスを効かせない自然な風合い、そしてゆったりしたシルエット。従来の英国製ドレスシャツとは一線を画す一枚だった。彼女は英国の老舗ファッション誌から「英国の伝統を打ち破ったデザイナー」と評され、著名なショップやデザイナーからも注目を集めるようになる。
背中上部の切り替え部分は「センターヨーク」と呼ばれる仕様で、一針一針のステッチにていねいな職人技が薫る。背中にクラシックなハンガーループが付けられている。
世界へ広がったマーガレット・ハウエル
その後、彼女のコレクションはシャツだけでなく、ジャケットやパンツ、アクセサリーなど、トータルでメンズもウイメンズも展開されるようになり、ロンドンや日本をはじめとしてパリとフィレンツェにもショップを構えるまでになった。またブランドの成長とともに英国の老舗ブランドに加え、エドウイン、ミズノといった日本のブランドとコラボレーションしたアイテムが次々とリリースされるようになるが、これらのコラボレーションは、単純な協業とは違う。いずれのブランドも、彼女自身が専門分野で技術力が高いとリスペクトをしているブランドで、だからこそ実現した協業なのだ。
暮らしの道具にも宿るブランド哲学
また2002年から展開されている「ハウスホールドグッズ」と名付けられた日用品や生活雑貨を揃えたコレクションの多くも、彼女が長年愛用してきた品々が占める。コレクションの隅々にまで、彼女のものづくりへの姿勢だけでなく、もの選びの思想までも見ることができる。これもマーガレット・ハウエルというブランドの大きな特徴であり、独自性ではないだろうか。
ブランドの原点に立ち返る新コレクション
そんなマーガレット・ハウエルが2026年秋冬コレクションで発表したのが、ブランドの原点へ立ち返るような「マーガレット・ハウエル ロンドン ワークルーム」と命名されたハイエンドラインのシャツ。これは今年移転したロンドンのアトリエで職人たちが仕立てるシャツに特化したコレクションだ。
デザイナーのマーガレットは毎週スイミングをしており、彼女がミズノのスイムウエアを愛用していたことから、コラボレーション企画がスタートした。そして2017年の秋冬コレクションのランウェイで発表されたのが、共同で製作されたスニーカーで、大きな話題となった。「ミズノにはその技術があり、実用的なディテールにもこだわりがあります」と彼女は話す。ミズノが開発した「ブレスサーモ」に代表される最新素材を使い、実用的なデザイン、ディテールを備えながら、メインラインのアイテムにも合わせやすいシックな上品なカラーリングに仕上げられている。右:コート¥75,900、中上:カットソー¥20,900、中下:スニーカー¥33,000、左上:ベスト¥35,200、左下:パンツ¥41,800/ミズノ フォー マーガレット・ハウエル
熟練の職人が仕立てる一枚
彼女がデザインするシャツは試作とサンプル制作を何度も重ねられ、ようやく製品化されるが、多いもので25のパーツから構成されている。シャツの裁断を担当するのは、30年以上にわたって彼女のシャツづくりを支えてきた裁断士のカークという職人。彼の手によって一点一点丁寧に手裁ちされたパーツは、「マシニスト」と呼ばれる縫製職人に手渡される。シャツ一枚を仕立てるのには3〜4時間を要し、1cm当たり6針、複雑なデザインでは最大20mにも及ぶ縫い目があり、一枚のシャツには約12,000ものステッチが施されるものもある。この一枚には、職人たちのていねいな手仕事が幾重にも積み重ねられている。
すべては、一枚のシャツとの出合いから始まった。「こんなシャツをつくってみたい」と思った、その思いは、半世紀を経た現在も変わることなく、新しいコレクションへと受け継がれている。
アニエスベー
TEL:03-5785-6445
https://www.margarethowell.jp









