チノパンといえば、バーンストーマー。アメリカ製と同じ表情に仕上げた、プレッピー御用達の逸品

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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モデル名は「1945P マッカーサー2」。素材は、後にアメリカ軍の下士官たちのパンツに採用された、糸を2本どりしたウエストポイント、通称「ウェポン」という生地。さらに「コールドマーセ製法」を用い、生地表面を美しくハリのある表情に仕上げている。過去連載のウディ・アレン編でも同ブランドのチノパンを紹介しているが、これは三軒茶屋のセレクトショップ・セピティズの依頼で製作されたもの。今回紹介するチノパンはディテール等が微妙に違うモデル。¥28,600/バーンストーマー

大人の名品図鑑 サマープレッピー編 #2

プレッピーとは、アメリカの名門私立学校=プレパラトリースクール(略してプレップスクール)に通い、有名大学を目指す学生たちのこと。彼らの装いを参考にしたスタイルも“プレッピー”と呼ばれ、これまで多くのデザイナーやブランドの着想源となってきた。今回はこのプレッピースタイルと、その装いに欠かせない名品たちを掘り下げて紹介する。

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ブレザー、ボタンダウンシャツ、ポロシャツ、シェットランドニット――プレッピースタイルに欠かせないこれらの定番アイテムは、1960年代に日本でも流行した“アイビー”と多くの共通点を持つ。しかし、80年代の“プレッピー”で大きく変化したのは「パンツ」だった。

『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』(以下『プレッピー・ハンドブック』)のCHAPTER4では、「プレッピーにふさわしい着こなし」として、パンツの選び方にも詳しく触れている。まずシルエットについては、「テーパードでもフレアでもなく、ストレートに限られます」と断言。そして、プレッピーが選ぶべきパンツの10種類のうち、最初に挙げられているのが「カーキ」———日本で言うところの「チノパン」だ。「カーキは短めの丈で履くのが普通です」と、その着こなし方にまで踏み込んで解説されている。60年代のアイビーブームでは、「コッパン」と呼ばれる綿パンやホワイトジーンズが主流だった。しかしプレッピースタイルにおいては、チノパンが“王道アイテム”として確固たる地位を築いた。

そもそもチノパンの起源は、アメリカ軍の制服用パンツとされている。だが、プレッピーが履いていたチノパンはそれを“ファッション”として昇華したものだった。象徴的なのが、ウディ・アレンが主演・監督した1977年制作の映画『アニー・ホール』(過去記事:ウディ・アレンが映画『アニー・ホール』で着こなした、トラッドな愛用品、チノパン)。彼が劇中で履いていたチノパンは、フロントにプリーツが入り、ウエストにはフラップ付きのコインポケットが付いた、実にクラシックで洒落た仕様。軍用パンツとは一線を画すその仕様は、ラルフ・ローレンによるデザインとも言われている(諸説あり)。

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シップスやビームスも惚れ込んだ、アメリカ製のディテール

今回紹介するバーンストーマーは、まさにこの映画が制作された1977年に創業。まだ「チノパン」という言葉が一般に浸透していなかった時代に、アメリカから輸入したチノパンを分解して型紙を起こし、国内の縫製工場や生地メーカーと連携しながら、アメリカ製品の“味”を再現したブランドだ。やがてシップスやビームスといったセレクトショップとも取引が始まり、日本のプレッピーファッションを支える存在へと成長した。創業当時の仕様を守りながらも進化を続け、近年では海外でのポップアップショップ開催など、グローバルに活動の幅を広げている。

ちなみに、2010年にリサ・バーンバックが著した続編『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック True Prep』でも、「ほつれたチノパンは信頼できる友人に等しい」とこのパンツを評している。バーンストーマーのチノパンもまた、長く寄り添ってくれる“相棒”のような存在だ。---fadeinPager---

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縫製は、スーツ用のドレスパンツを手がける日本の職人によって行われている。腰裏のつくりは、かつてのオーダーパンツで多く用いられていた伝統的な仕様。クラシックな縞柄の「シマスレキ」をあしらい、細やかなステッチが丁寧に施されている。こうしたディテールは、創業当初から変わることなく守り続けられている。

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フロントの両側に2本のインプリーツが入るのがこのモデルの特徴で、右脇にはフラップ&ボタンのコインポケットも配され、クラシックな佇まいを醸し出している。ウエスト中央に付けられたループは、ベルトを固定する、あるいはベルトのズレ防止に使われる仕様だ。

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腰の後ろに配されたツギハギは、バーンストーマーのチノパンを象徴するディテールのひとつであり、さらに進化した仕様と言える。これは、腰まわりに適度なゆとりを持たせるための工夫であり、他ブランドのパンツでは滅多に見られないユニークな意匠でもある。パンツの内股部分にも同じようなツギハギが施されている。

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右のパンツのモデル名は「1955UC American Fits 2Pleated Chinos Trousers」。これは海外向けに製作したモデルで、日本展開とはシルエットも微妙に違う。最近では国内でもこのモデルを求める声が増え、自社オンラインストアでの販売を開始。あえてこのモデルを選ぶファンも少なくないという。左のパンツは「1980PD マリンパンツ」というモデル。80年代に人気を博したモデルを現代的に再現したものだ。左の赤いパンツはプレッピー御用達の「ナンタケットレッド」に似た色合い。赤みがかったこの色合いは、プレッピー御用達の「ナンタケットレッド」に通じる。プレッピースタイルにも造詣の深いイラストレーター・穂積和夫氏が同社を訪れた際、「この色のパンツをつくるべき」と言われ、シャンブレー素材を何度も染め重ねて、このくすんだ赤を完成させた。これぞ、プレッピー。右:¥27,500、左:20,900/ともにバーンストーマー

アパレル ビレッジ

TEL:03-6240-2638
https://barnstormer.tokyo

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