ディッキーズのチノパンは、どのようにストリートウェアになっていったのか

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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ディッキーズの代名詞というべき「オリジナル 874®ワークパンツ」。軍のユニフォーム、仕事で使うワークウェア、あるいは学生の普段着として、世界中で愛用されてきた。素材は丈夫で汚れにくいポリエステルとコットンの混紡素材。シルエットはどんな体型の人にも合うゆとりあるストレートで、さまざまな着こなしにもマッチする。アイロンも不要、洗濯後すぐにはける。オールマイティに活躍できる定番チノパンだ。¥6,050/ディッキーズ

「大人の名品図鑑」チノパン編 #4

メンズファッションにおいて、ジーンズと並ぶ定番パンツと言われるチノパン。もともとは軍用としてつくられたという確かなルーツと歴史をもつアイテムだが、トレンドに流されず通年で使え、カジュアルでもビジネスでも幅広く使える万能さが魅力だ。今回はチノパンの名品について紹介する。

ディッキーズはアメリカを代表するワークカジュアルブランドのひとつ。このブランドの大定番として知られるのが、「874」の品番で知られるワークパンツだ。アメカジ好きならずとも一度はいたことがあるという人も多いだろう。

ディッキーズはアメリカで長い歴史を持つブランドだ。C.N.ウィリアムソンとE.E.ディッキーが共同創業者で、2人はいとこ同士。その2人がテキサス州フォートワースでディッキーズの前身となる会社、U.S.オーバーオール社を始めたのが1918年。2人は全米各地の作業現場などを回り、現場で必要とされる作業着を研究し、ニーズに合わせてさまざまな製品を開発した。ディッキーズのワークウェアは瞬く間にアメリカ合衆国全土に浸透していった。

ディッキーズの大定番「874®ワークパンツ」の原型となるカーキパンツの生産をスタートさせたのが23年。第二次世界大戦が始まると、ディッキーズの確かな製品づくりが認められ、政府からの要請を受け制服を生産しはじめる。41年にはアメリカ陸軍のために900万着以上を生産したという記録も。大戦が終わると軍人たちはアメリカに帰国、大勢の人が仕事に復帰し、ワークウエアの需要も高まった。そこでディッキーズは地元テキサスの石油関係者向けにワークウエアを売り出し、爆発的なヒットとなった。さらには彼らが赴任先の中東でもディッキーズの服を愛用したことから、世界各国で働く人たちの定番的なユニフォームとして認知されるようになった。

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スケーターもラッパーも穿く「874®ワークパンツ」

大定番チノパンが「874®ワークパンツ」として発表されたのが67年。その後ワークウェアブランドとして地位を確立していったが、70〜80年代にはアメリカでも若者を中心に自由にファッションを楽しむ風潮が起こり、ディッキーズの服をファッションとして着こなす人が増え、大胆な色づかいのアイテムがたくさんつくられるようになった。90年代、ストリートカルチャーのブームが訪れると、アメリカのウエストコーストのスケーターたちが丈夫でコストパフォーマンスが高い「874®ワークパンツ」をこぞってはくようになった。

また、2Pacやスヌープ・ドッグといった大御所ラッパー、ドクター・ドレーが率いたN.W.Aなどがこのパンツをはいてステージに登場。彼らを支持する若者たちのユニフォーム的な存在となり、ストリートウェアの定番アイテムとして多くの人に愛用されるようになった。

2012年のアカデミー賞授賞式では、短編アニメ賞を獲得した「モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本」の監督ブランドン・オールデンバーグと共同制作者のウィリアム・ジョイスのテキサス州出身の2人が、「874」と同じ生地を仕立てられたタキシードで出席。観客に向かって、ディッキーズのマークが見えるように上着を広げた写真が残されている。

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機能的かつ上品な「874®ワークパンツ」

では、ディッキーズの大定番である「874®ワークパンツ」の魅力はどこにあるのだろう。

まず挙げられるのが、生地の丈夫さだろう。素材はポリエステル65%×コットン35%の黄金比で混紡されたハリのある8.5オンスの「T/C ツイル(綾織)」。肉厚でシワになりにくく丈夫。通気性と速乾性に優れ、洗っても縮まない。アメリカでは洗濯後、乾燥機を使って衣類を乾かすので、これも重要な機能。表面には雨や汚れなどにも強い「スコッチガード」が施され、撥水性に加えて型崩れすることもない。

豊富なカラーバリエーションが揃っているのも、「874®ワークパンツ」の大きな魅力だ。いかにもチノパンらしいベージュはもちろんのこと、ネイビーやチャコールグレー、ダークブラウンといった大人っぽいカラーもラインナップされているし、モードっぽくも穿けるブラックも用意されている。コーディネートやその日の気分に合わせて選ぶことができるだろう。さらにカラーだけでなくサイズ展開も豊富だ。ジャストサイズにするか大きめを選ぶか、サイズ選びで雰囲気が違ってくる。わざと大きめを選び、ウエストを折り返して、腰裏に付いた品番「874」というマークを見せるように着こなしている女性も最近よく見掛ける。

ワークウェアとしてデザインされているが、「センタープレス」があるのもこのチノパンの特徴だろう。縦のラインが強調することで脚をスマートに見せてくれて、上品でスマートな印象をもたらしてくれる。しかもこのプレスラインは洗濯しても消えることがない。この「センタープレス」が好きでディッキーズを選んでいる人も多いと聞く。

各所の仕様はワークウェアにルーツを持つチノパンらしく、機能を重視してデザインされている。深めにつくられたサイドやバックポケットは、スマホや財布を入れても簡単に落ちてしまうことはない。ベルトループもかなり太めで、これだけでタフネスなイメージに見える。ジーンズのレザーパッチと同じように、右バックポケットの上には馬蹄とロゴマークが刻印された織りネームが縫い付けられているので、ひと目でディッキーズのチノパンだと判別できる。

「874®ワークパンツ」の原型となるチノパンが考案されてから、およそ100年。「874」という品番が命名されてからも55年。ワークウェアとして多くの人に愛用されるだけでなく、ファッションアイテムとしても、ストリートウェアとしても注目されたチノパンは、ディッキーズの大定番「874®ワークパンツ」をおいて他にない。まさにチノパンの歴史と進化を体現した名チノパンと言い切れる一本だ。

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右バックポケットの上部に縫い付けられた、ディッキーズの織りネーム。ブランドのロゴと道具(くびき)が刺繍されている。約4cmと、ベルトループが太いのもこのモデルの特徴。いかにもタフに見える。

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パンツの腰裏にはディッキーズのロゴマークとともに、品番の「874®」が大きくプリントされている。

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豊富なカラーバリエーションが揃っているのも「オリジナル 874®ワークパンツ」のも特徴だ。選ぶカラーで着こなしの印象が変わる。¥6,050/ディッキーズ

問い合わせ先/ディッキーズ

http://dickies.jp

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