考え抜かれた機能や構造が、佇まいの美しさにつながるドイツのデザイン。なかでもリモワは、時を重ねてこそ真価を発揮する、伝統あるブランドだ。建築家の谷尻誠が本社工場を訪ね、芸術的なエンジニアリングに触れた。
ものづくりの秘密を探りに、リモワの聖地ケルンへ
気がつけば、身の回りにドイツ製品が増えていると、建築家の谷尻誠は言う。
「車やバイク、そして子どもが生まれた時に購入したライカのカメラ。愛着あるものには、不思議とドイツのものが多いですね」
長年愛用するリモワもそのひとつ。職人の手で組み立てられるアルミニウムのスーツケースだ。そのものづくりの背景や精神を体感すべく、聖地ケルンを訪れた。
1898年、リモワの創始者であるパウル・モルシェックは、ケルン大聖堂の傍らに工房を構えた。新たにオープンした旗艦店は、まさにこの歴史が始まった生誕の地にほど近い場所ある。リモワ初のオーダーメイドサービス「クラフテッド・フォー・ユー」を提供するなど、カスタムスーツケースづくりから始まったリモワの原点を体感でき、アイテムの展示だけでなく、修理工房も併設。年月を重ねたスーツケースのリペアの様子を見学でき、その職人技に谷尻も魅了されていた。
「ドイツのデザインは、機能や構造が合理的に整理された結果として美しい。無駄がないのに武骨ではない。むしろ洗練されている」
現在、家族のものも合わせて6個のリモワを所有する谷尻だが、最初の出合いは十数年前、フランクフルト空港でのことだった。 「リモワの価値は買った瞬間ではなく、その後にある」と語る谷尻。旅をするたびにスーツケースには傷や凹みができる。普通なら価値を下げる要素だが、リモワは魅力に変えてしまうと言う。
実はリモワは、2022年7月25日以降に購入されたすべての新しいスーツケースに、生涯保証をつけている。長く愛せる旅のパートナーをつくることが、ブランドの使命と考えているからだ。買った瞬間がゴールではなく、愛用し続け、時の流れを受け入れる。その姿勢は谷尻の建築に対する価値観とも重なっている。
RIMOWA Köln Dom
住所:Am Hof 1, 150667 Köln GERMANY
TEL:+49-221-6500-9995
営業時間:10時〜19時(月〜金)10時〜18時(土)
休館日:日
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職人の手によって、1枚のアルミ板が完成までたどり着く
ケルン近郊にある工場を、特別に案内してもらった谷尻。
「職人さんたちが楽しそうにつくっていて、自分でもやってみたくなりました」と笑顔で振り返る。 特に印象的だったのは、厚さ0.8ミリのアルミ板が、職人の手でみるみるうちにスーツケースへと変わっていく工程だったという。薄い板を切り出し、それをリズミカルにハンマーで叩きながら成形。枠にはめて、余分なテンションがかかっている部分をさらに叩いて調整していく。熟練工はあたかもたやすいことのように叩いているが、手に伝わる感覚が頼りの、匠の技なのである。
「実際に持つと薄くて頼りなく思えるアルミ板が、組み上がるとあれほど頑丈になる。その過程を間近で見てワクワクしました」
リモワを代表するアルミニウム製のスーツケース。これは100年ほど前に工場の近くで火災が起きた際、灰の中でアルミニウムだけがかたちを残していたため、その堅牢性に着目、開発されたものだ。溝状のデザインも単なる装飾ではない。軽量なアルミの薄板に折りや起伏を与えることで高い剛性が生まれる。強さを増すために、厚くするのではなく構造を工夫し、結果的に象徴的なデザインにつながる──リモワの美しさはまさにそこにあると谷尻は言う。
思い出の痕跡が積み重なり、愛着を生む
「使いやすいけれど、利便性だけでないところにも惹かれます」
近ごろの製品は次々と機能を増やし、それがよいことのように思われている。しかし、機能を増やせば古いものは価値を失い廃棄物となり、愛着も持てなくなる──谷尻はそう考えている。
「私は、ご夫妻で家を建てられる方によく聞くんです。あなたの隣にいる人はそんなに〝便利な〟人ですか?って。そうではないですよね。思い通りにならないことは多いかもしれないけど、しっくりくる瞬間があって。そこに愛着が芽生えるのです」 最新機能が搭載されているわけではないし、傷がつくこともある。でもそれが愛おしい。思い出の痕跡が積み重なって、一緒に育っていく。合理性から生まれた構造美と、時の流れを受け入れる設計思想。それが共存しているからこそ、時を超えて輝き続ける。建築家、谷尻誠はリモワのものづくりに深く共感していた。
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次世代を支援するプライズを主催、“未来”を育てていく
谷尻がドイツを訪れたタイミングで、リモワが主催する「リモワ デザイン プライズ」の受賞式が行われた。
ドイツ国内のデザインスクールの学生を対象に、社会課題の解決につながるデザインを募集。今年で4回目を迎え、数多くの応募者から選ばれた7組のファイナリストがベルリンの会場でプレゼンテーションを行った。
「建築家として常に問題解決を考えていますが、大切なのは問題の定義です。今回の作品はどれも課題の捉え方が深く完成度も高かった。学生らしい自由な発想にも驚かされました」
ドイツの著名デザイナー、コンスタンティン・グルチッチなど9人の審査員に選ばれたウィナーは、聴覚障害のある人と聴者をつなぐアームバンド型デバイス『Nura』だ。
「デザインの力によって境界がなくなって、そこから新しい出会いや関係性が生まれる可能性が広がる。とても意義のあるアイデアです」
単なるプライズ開催にとどまらず、若い才能を育てる仕組みを用意していることにも感動した、と谷尻は言う。7組のファイナリストには第一線で活躍するクリエイターがメンターとなり、制作プロセスを指導、サポートする。
「次の世代へたすきを渡していくような取り組みだと思いました」
未来へ投資する姿勢も印象に残ったという。
「効率や結果が即座に求められる時代だからこそ、こうした取り組みの価値は大きくなっている気がします。誰かの可能性を支えることは、未来そのものを育てることなのかも」
すべてのデザインは有意義な目的のために生み出される、というリモワの理念。その思想は製品づくりだけでなく、次世代を支援する活動にも息づいている。未来をかたちづくるのは、優れたアイデアだけではない。その可能性を信じ、育て続ける環境そのものなのだ。
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プライズウィナー:サミュエル・ナーゲル&パウル・ファイラー『NURA』
今年度のプライズウィナーに輝いたのは、聴覚に障害を持つ人と聴者との間のコミュニケーションをスムーズにするためのデバイス「NURA(ヌラ)」。
手と腕の動きを捉えるEMG(筋電図)センサーとカメラによって手話の内容を音声に変換、聴者の音声は文字に変換表示することで、両者間のスムーズな相互コミュニケーションを可能にするというアイデアだ。
高度な技術と、アクセサリーとして装着したくなるような、巨大なマンタのなめらかなフォルムから着想を得たというエレガントな流線形のデザインを組み合わせた、完成度の高さが評価された。

シュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学でプロダクトデザインを学ぶナーゲルとファイラー。シーメンスの医療機器やヘルスケア製品をつくる部門でデザインチームを率いるティム・リヒターがメンターとなり、技術力とデザインの融合へと導いた。
特別賞:ニクラス・ヘニング『Paludi Harvesters』

ウィナーに次ぐ特別賞を獲得したのは、泥炭地という難しい環境条件に対応するように考案、設計された、自立型の収穫システム機械「Paludi Harvesters(パルディ・ハーヴェスター)」。
枯れた植物が分厚く堆積してできた湿地である泥炭地は、湿度も粘度も高く、水捌けも悪いが、実は森よりも多くの炭素を土壌の中に蓄えているという。ヘニングは、この泥炭地を取り巻く生態系を損なうことなく、かつ効率的に葦を収穫できるシステムを考えた。農業の生産性と気候保護の両立という、難しい課題に取り組んだ革新的な産業デザインである。

マクデブルク=シュテンダール大学で、現在エンジニアリングデザインの修士課程に在籍するヘニング。大学の教授陣、そしてライカカメラ社のデザイン部門を担当するステファン・ダニエルがメンターとしてサポート。試行錯誤を繰り返し、かたちとなった。
ファイナリストとなった残り5組の作品
リモワ クライアントサービス
TEL:03-6733-9850
