【アルミニウム製スーツケースの雄、「リモワ」の聖地へ】建築家・谷尻誠が出合った、変わらぬ価値を生むものづくりの思想

  • 写真:ジャンニ・プレッシャ
  • 文:河内秀子
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谷尻 誠●建築家。SUPPOSE DESIGN OFFICE代表。建築を起点に、設計者向け検索システム「TECTURE」や風景の可能性を見出す「絶景不動産」、ネイチャーデベロップ「DAICHI」、新しい不動産の形を提案する「yado」「MIETELL」などを経営、幅広く活動する。|西部ドイツの都市、ケルン。世界遺産として名高い大聖堂の傍にリモワの旗艦店がある。街の名所、ホーエンツォレルン橋から想起した緑色をストアカラーに、空を飛び回る鳥たちを表現したオブジェが飾られている。

考え抜かれた機能や構造が、佇まいの美しさにつながるドイツのデザイン。なかでもリモワは、時を重ねてこそ真価を発揮する、伝統あるブランドだ。建築家の谷尻誠が本社工場を訪ね、芸術的なエンジニアリングに触れた。

ものづくりの秘密を探りに、リモワの聖地ケルンへ

気がつけば、身の回りにドイツ製品が増えていると、建築家の谷尻誠は言う。

「車やバイク、そして子どもが生まれた時に購入したライカのカメラ。愛着あるものには、不思議とドイツのものが多いですね」

長年愛用するリモワもそのひとつ。職人の手で組み立てられるアルミニウムのスーツケースだ。そのものづくりの背景や精神を体感すべく、聖地ケルンを訪れた。 

リモワ_ケルン旗艦店外観
大聖堂をのぞむ5つ星ホテルに隣接した旗艦店。歴史的な建築ディテールを取り入れている。

1898年、リモワの創始者であるパウル・モルシェックは、ケルン大聖堂の傍らに工房を構えた。新たにオープンした旗艦店は、まさにこの歴史が始まった生誕の地にほど近い場所ある。リモワ初のオーダーメイドサービス「クラフテッド・フォー・ユー」を提供するなど、カスタムスーツケースづくりから始まったリモワの原点を体感でき、アイテムの展示だけでなく、修理工房も併設。年月を重ねたスーツケースのリペアの様子を見学でき、その職人技に谷尻も魅了されていた。

「ドイツのデザインは、機能や構造が合理的に整理された結果として美しい。無駄がないのに武骨ではない。むしろ洗練されている」 

リモワ_ケルン旗艦店内観
レザーハンドルが特徴的な「クラシック」シリーズが並ぶ一角。年月を経ても魅力を失わないリモワを代表するデザインは、歴史あるこの場所にこそふさわしい。
リモワ_ケルン旗艦店内観
左:リモワの洗練されたディテールを、愛用するライカM10で撮影。谷尻は心惹かれる風景やディテールをこのカメラに収め、自身のSNSなどで紹介している。右:リモワの可能性は無限大。テレビやエスプレッソマシーンなど、過去のスペシャルアイテムが並ぶ。「オーディオをつくってみたい。家具も考えられそうですね」と谷尻も興味津々。

現在、家族のものも合わせて6個のリモワを所有する谷尻だが、最初の出合いは十数年前、フランクフルト空港でのことだった。 「リモワの価値は買った瞬間ではなく、その後にある」と語る谷尻。旅をするたびにスーツケースには傷や凹みができる。普通なら価値を下げる要素だが、リモワは魅力に変えてしまうと言う。

リモワ_ケルン旗艦店内観
店内にはリペア専門のアトリエが設けられ、その職人技を間近で見学することもできる。

実はリモワは、2022年7月25日以降に購入されたすべての新しいスーツケースに、生涯保証をつけている。長く愛せる旅のパートナーをつくることが、ブランドの使命と考えているからだ。買った瞬間がゴールではなく、愛用し続け、時の流れを受け入れる。その姿勢は谷尻の建築に対する価値観とも重なっている。

リモワ_ケルン旗艦店内観
左:過去の名作がディスプレイされた店内。 右:リモワ社初のオーダーメイドサービス「クラフテッド・フォー・ユー」を展開するコーナー。サイズ、ハンドルの色など自由に組み合わせられ、そのコンビネーションは100万通り以上。完成まで半年ほどかかるが「待つのは最高の贅沢。釣り道具を入れてもいいかも」と谷尻。

RIMOWA Köln Dom

住所:Am Hof 1, 150667 Köln GERMANY
TEL:+49-221-6500-9995
営業時間:10時〜19時(月〜金)10時〜18時(土)
休館日:日

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職人の手によって、1枚のアルミ板が完成までたどり着く

リモワ_ケルン本社工場
リモワの特徴的なディテールを活かした本社ビル。ケルン近郊、空港の近くという立地を活かし、本社オフィスや工場が並ぶ。

ケルン近郊にある工場を、特別に案内してもらった谷尻。

「職人さんたちが楽しそうにつくっていて、自分でもやってみたくなりました」と笑顔で振り返る。 特に印象的だったのは、厚さ0.8ミリのアルミ板が、職人の手でみるみるうちにスーツケースへと変わっていく工程だったという。薄い板を切り出し、それをリズミカルにハンマーで叩きながら成形。枠にはめて、余分なテンションがかかっている部分をさらに叩いて調整していく。熟練工はあたかもたやすいことのように叩いているが、手に伝わる感覚が頼りの、匠の技なのである。

リモワ_ケルン本社工場
アルマイト加工を施したアルミ板がずらりと並ぶ工場の一角。色合いはシルバーからゴールドのようなチタニウムやブラックまで。金属の質感は活かしつつも、ラインアップは幅広い。
リモワ_ケルン本社工場
 「こんなに薄いアルミ板が、座ってもびくともしない強さのスーツケースになるなんて!」と驚く谷尻。

「実際に持つと薄くて頼りなく思えるアルミ板が、組み上がるとあれほど頑丈になる。その過程を間近で見てワクワクしました」

リモワを代表するアルミニウム製のスーツケース。これは100年ほど前に工場の近くで火災が起きた際、灰の中でアルミニウムだけがかたちを残していたため、その堅牢性に着目、開発されたものだ。溝状のデザインも単なる装飾ではない。軽量なアルミの薄板に折りや起伏を与えることで高い剛性が生まれる。強さを増すために、厚くするのではなく構造を工夫し、結果的に象徴的なデザインにつながる──リモワの美しさはまさにそこにあると谷尻は言う。

リモワ_ケルン本社工場
 アルミの板を折り曲げたパーツが並ぶ。職人の手で整えられ、スーツケースのかたちに近づいていく。

思い出の痕跡が積み重なり、愛着を生む

「使いやすいけれど、利便性だけでないところにも惹かれます」

近ごろの製品は次々と機能を増やし、それがよいことのように思われている。しかし、機能を増やせば古いものは価値を失い廃棄物となり、愛着も持てなくなる──谷尻はそう考えている。

リモワ_ケルン本社工場
プラモデルづくりに夢中になった小学生の頃を思い出し、自分もやってみたいと目を輝かせる。
リモワ_ケルン本社工場
 成形したスーツケースの内装にウレタンと布を貼っていく工程。ここも手作業で行われる。

「私は、ご夫妻で家を建てられる方によく聞くんです。あなたの隣にいる人はそんなに〝便利な〟人ですか?って。そうではないですよね。思い通りにならないことは多いかもしれないけど、しっくりくる瞬間があって。そこに愛着が芽生えるのです」 最新機能が搭載されているわけではないし、傷がつくこともある。でもそれが愛おしい。思い出の痕跡が積み重なって、一緒に育っていく。合理性から生まれた構造美と、時の流れを受け入れる設計思想。それが共存しているからこそ、時を超えて輝き続ける。建築家、谷尻誠はリモワのものづくりに深く共感していた。

リモワ_ケルン本社工場
人気のクラシックコレクションをはじめ、多くの製品がこの工場でつくられる。右から左に、ClassicチェックインL¥315,700、ClassicチェックインM¥294,800、Classicキャビン¥260,700、/すべてリモワ(リモワ クライアントサービス)

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次世代を支援するプライズを主催、“未来”を育てていく

リモワ_デザインプライズイベント
今回のプライズにはドイツ国内、40以上のデザインスクールから応募があった。写真は7組のファイナリストとメンターたち。

谷尻がドイツを訪れたタイミングで、リモワが主催する「リモワ デザイン プライズ」の受賞式が行われた。

ドイツ国内のデザインスクールの学生を対象に、社会課題の解決につながるデザインを募集。今年で4回目を迎え、数多くの応募者から選ばれた7組のファイナリストがベルリンの会場でプレゼンテーションを行った。

リモワ_デザインプライズイベント
プレゼンターを務めたリモワCEOベアトリーチェ・モングイディ。同社も学生たちから学ぶものが多くあるとメッセージを寄せた。

「建築家として常に問題解決を考えていますが、大切なのは問題の定義です。今回の作品はどれも課題の捉え方が深く完成度も高かった。学生らしい自由な発想にも驚かされました」

ドイツの著名デザイナー、コンスタンティン・グルチッチなど9人の審査員に選ばれたウィナーは、聴覚障害のある人と聴者をつなぐアームバンド型デバイス『Nura』だ。

「デザインの力によって境界がなくなって、そこから新しい出会いや関係性が生まれる可能性が広がる。とても意義のあるアイデアです」

単なるプライズ開催にとどまらず、若い才能を育てる仕組みを用意していることにも感動した、と谷尻は言う。7組のファイナリストには第一線で活躍するクリエイターがメンターとなり、制作プロセスを指導、サポートする。

「次の世代へたすきを渡していくような取り組みだと思いました」 

未来へ投資する姿勢も印象に残ったという。

「効率や結果が即座に求められる時代だからこそ、こうした取り組みの価値は大きくなっている気がします。誰かの可能性を支えることは、未来そのものを育てることなのかも」

すべてのデザインは有意義な目的のために生み出される、というリモワの理念。その思想は製品づくりだけでなく、次世代を支援する活動にも息づいている。未来をかたちづくるのは、優れたアイデアだけではない。その可能性を信じ、育て続ける環境そのものなのだ。 

リモワ_デザインプライズ
授賞式の会場では各作品のプレゼンテーションが行われた。
リモワ_デザインプライズ
プライズを受賞した2人から、作品の詳細な説明を聞く。
リモワ_デザインプライズ
救急隊員の安全を支援するデバイスの説明を聞く谷尻。ドイツの学生たちが高い社会意識を持っていることに驚かされたそうだ。
リモワ_デザインプライズ
インダストリアルデザイナー、コンスタンティン・グルチッチがメンターとして会場に。東京での再会を約束する。

 

リモワの詳細はこちら

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プライズウィナー:サミュエル・ナーゲル&パウル・ファイラー『NURA』

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今年度のプライズウィナーに輝いたのは、聴覚に障害を持つ人と聴者との間のコミュニケーションをスムーズにするためのデバイス「NURA(ヌラ)」。

手と腕の動きを捉えるEMG(筋電図)センサーとカメラによって手話の内容を音声に変換、聴者の音声は文字に変換表示することで、両者間のスムーズな相互コミュニケーションを可能にするというアイデアだ。

高度な技術と、アクセサリーとして装着したくなるような、巨大なマンタのなめらかなフォルムから着想を得たというエレガントな流線形のデザインを組み合わせた、完成度の高さが評価された。 

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シュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学でプロダクトデザインを学ぶナーゲルとファイラー。シーメンスの医療機器やヘルスケア製品をつくる部門でデザインチームを率いるティム・リヒターがメンターとなり、技術力とデザインの融合へと導いた。

特別賞:ニクラス・ヘニング『Paludi Harvesters』

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ウィナーに次ぐ特別賞を獲得したのは、泥炭地という難しい環境条件に対応するように考案、設計された、自立型の収穫システム機械「Paludi Harvesters(パルディ・ハーヴェスター)」。

枯れた植物が分厚く堆積してできた湿地である泥炭地は、湿度も粘度も高く、水捌けも悪いが、実は森よりも多くの炭素を土壌の中に蓄えているという。ヘニングは、この泥炭地を取り巻く生態系を損なうことなく、かつ効率的に葦を収穫できるシステムを考えた。農業の生産性と気候保護の両立という、難しい課題に取り組んだ革新的な産業デザインである。 

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マクデブルク=シュテンダール大学で、現在エンジニアリングデザインの修士課程に在籍するヘニング。大学の教授陣、そしてライカカメラ社のデザイン部門を担当するステファン・ダニエルがメンターとしてサポート。試行錯誤を繰り返し、かたちとなった。

ファイナリストとなった残り5組の作品

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さえずり、人をつなぐ小鳥のオブジェ シュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学のヤコブ・シュレンカーによる「ピープ」。小鳥のかたちをした小さなオブジェが、近づくとさえずり人々の出会いのきっかけをつくるという、高齢者の孤独や孤立という問題に取り組む作品。
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ミツバチを守る、自律移動式巣箱 ワイマールにあるバウハウス大学で学ぶニコラス・ニールセンは、ミツバチの減少という問題をテーマにした。自律移動式巣箱「ハイブ」は点在する緑地を繋いで、生物の生息環境を改善させるアイデア。
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電力不要の冷却装置 災害時などに活躍する電力不要の冷却装置を提案したのは、ザール芸術大学のトビアス・クレーマーとヤニック・スティルゲンバウワー。煙突効果により。医薬品や食料などの冷却を可能に。
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センサー搭載デバイス 救急隊員の安全を支援するセンサー搭載デバイス「コンパッションエイド」。考えたのは、ティム・キッパーとジョン・ローラー。
 
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超軽量家具 ハンブルク芸術大学のヴァレリオ・サンポニャーロは、凧の構造を応用した超軽量家具「エアロドメスティックス」を考案。アルミ製パイプに帆布を張り、強度や耐久性を実現した。

リモワ クライアントサービス

TEL:03-6733-9850