Penのクリエイタープロジェクト「NEXT」から商業連載作家が誕生。Webtoonの最前線でなにを学んだのか

  • 文:久保寺潤子
Share:

さる2024年7月、Penが主催する若手クリエイターのためのプロジェクト「NEXT」にて、縦読み漫画「Webtoon」のワークショップが行われた。メンターにコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」(運営:株式会社サーバーエージェント)の編集統括マネージャー、村松充裕さんを迎え、5組の参加者にWebtoon制作のノウハウを伝授。ワークショップ終了後、参加者には読み切り作品のネームを提出してもらい、2人の受賞者を選出した。

この度、最優秀賞を受賞したカンビキ旭さんと、優秀賞を受賞した渡鍋ぽんずさんは、STUDIO ZOONから新連載が決まった。カンビキさんは原作担当として異世界転生バトル作品『絶対攻略不可能ダンジョン』が5月8日に、渡鍋さんは不器用な王女の恋愛コメディ『身分差に終わった恋を、今さらですが。』が5月17日にスタート。

zettaikouryaku.jpg
mibunsa.jpg
左:カンビキさんが原作を務める『絶対攻略不可能ダンジョン』 右:渡鍋さんの『身分差に終わった恋を、今さらですが。』

今回、カンビキさんと渡鍋さん、村松さんがワークショップを振り返り、今後の展望について語り合った。

ワークショップを振り返って

――Penのワークショップではどのようなやり取りがなされましたか

村松 参加者にポートフォリオを提出してもらって、具体的な話をしていきました。このときの応募者は水準が高く、制作の手法についてもある程度知識があったので、ワークショップではまず、Webtoonの市場についてお話しました。Webtoonは横読みの漫画と比べてプラットフォームの幅が狭い。その特殊性を理解した上で、いかに自分らしい作品をつくっていくべきか、という話をしました。

村松充裕 STUDIO ZOON編集長
村松充裕●STUDIO ZOON 編集統括マネージャー 講談社に新卒入社し、「週刊少年マガジン」「月刊少年ライバル」「ヤングマガジン」「モーニング」などで編集を担当。多数のヒット作を生み出したほか、講談社のマンガWEB『コミックDAYS』の立ち上げにも携わる。2023年に退職し、サイバーエージェントが運営するコンテンツスタジオ、STUDIO ZOONに参加。(撮影:齋藤誠一)

――カンビキさんと渡鍋さんとはワークショップで初対面でしたが、第一印象はいかがでしたか。

村松 対照的なふたりでしたね。たとえるなら「天の目線」と「地の目線」と言いますか。カンビキさんは狙いがはっきりあって俯瞰でものを見ている。対する渡鍋さんはやりたいことがいくつもあって、それをコツコツと積み上げていくタイプ。カンビキさんは少し修正してもらったらすごくよくなったのでそのまま連載企画に持っていきました。渡鍋さんは話し合っていくうちに横読み漫画の方が向いていると思ったので、そちらの方向で進めていきました。

――Webtoonに向いているのは「天の視点」ということですね。

村松 そうですね。Webtoonには明確な設計図のあるタイプが相性がいい。渡鍋さんのように地面から積み上げていくと最終的にズレが生じていきます。そのズレを読者と共有できるのは、横読み漫画の方が適していると思うんです。

作品の解像度を上げる3つの視点

――カンビキさんはワークショップでの体験から初めて漫画を描き始めたそうですね。

カンビキ はい。会社員としてエンタメ業界で仕事をしていたのですが、漫画を描くのは初めてでした。村松さんのお話で印象に残っているのは、Webtoonをレーザービームにたとえて、横読み漫画のと制作方法の違いをお話ししてくださったことです。Webtoonはキャタクターづくりにおいてもストーリーづくりにおいても「なにを伝えたいのか?」を一点に集約させることが大切で、それが読みやすさにつながるということでした。以前から漫画やアニメはよく見ていましたが、自分が描く側になって、作品に対する解像度を上げることが必要なんだと感じました。

――解像度を上げるためにどんなことを意識しましたか。

カンビキ 3つの視点を同時に動かすことです。自分の視点、読者の視点、そして最後はキャラの視点でバランスをとることが大事だと思います。どれかひとつが突き抜けてしまうと読者を置いてきぼりにしてしまったり、説教くさくなったりしてしまう。三者の位置関係が正三角形になるように描くのが理想でしょうか。

zettaikouryaku_nakamen.jpg
「絶対攻略不可能ダンジョン」©︎カンビキ旭/枡居ジュウ/STUDIO ZOON

徹底した“わかりやすさ”の追求

――渡鍋さんはワークショップでどんなことを学びましたか。

渡鍋 もともと同人誌で横読み漫画を描いていたのですが、フリーランスで活動を始めようと思っていたときにこのワークショップのことを知り、応募しました。STUDIO ZOONさんとお付き合いさせていただけることになったのがいちばんの収穫かもしれません。ワークショップで学んだのは、Webtoonはとにかく誤解のないよう、わかりやすさを最優先させるということですね。村松さんからはいまもアドバイスをもらっています。自分の中では当たり前だと思っていることを「わかりにくい」と指摘され、気づくことが多いです。

村松 僕は編集者として、新人の漫画家さんにはほとんど「わかりにくい」としか言わないですね。何がわかりづらいのかに気付けていない作家さんが多いので、ページごと、コマごとに逐一細かく言い続けます。世の中に出ている漫画というのは、わかりやすく読んでもらうための技術がこの上なく練られている。無駄な部分が徹底的に除去しているので、わかりづらいものが見えにくくなっている、とも言えます。

渡鍋 私は日々アイデアを出していく中で、セルフボツを量産していたんですが、村松さん曰く「セルフボツの方が何が描きたいのかシンプルで伝わりやすい」と。自分では洗練させているつもりだったものが他人にはわかりにくく、面白くないと思っていたものが逆に面白いんだということに気づきました。カンビキさんの話は「耳が痛い」て感じです(笑) 

mibunsa_nakamen.jpg
「身分差に終わった恋を、今さらですが。」©渡鍋ぽんず / STUDIO ZOON

新連載2作品の見どころは?

――改めて、おふたりの作品の見どころをお願いします。

カンビキ 『絶対攻略不可能ダンジョン』は、デストピアな世界に転生した主人公が仲間とハッピーエンドを目指す物語です。こういう人がそばにいたら、読者の皆さんもうれしいのではないかな? という発想からスタートしました。傷を抱えた相手が誰かと出会って救済されていくドラマが見どころで、枡居ジュウ先生が生き生きしたキャラに仕上げてくださいました 。世知辛いことの多い世の中ですが、皆さんにとって楽しみのひとつとなればうれしいです。

渡鍋 『身分差に終わった恋を、今さらですが。』はとにかく可愛いキャラクターたちが見どころです。私は、自分の信念を持った気の強いヒロインが好きなのですが、頑張って生きている登場人物があまりに愛おしくて、泣きながらネームを書いてます。あまりこねくり回しすぎないように気をつけています。

Webtoonの今後と可能性

――最後に村松さん、Webtoonの展望をお聞かせください。

村松 Webtoonは分岐点にあると思っています。似たような作品になってしまいがちな現状を、どう打ち破るか。逆にそこを打ち破れば、誰でも読める縦読み漫画は海外にも配信しやすく、末広がりな可能性を秘めていると思うんです。

Webtoonは満員電車の中や寝る前に布団の中で読む人も多く、疲れていても読める漫画を目指しています。先ほど、Webtoonは分岐点にあると言いましたが、厳しい競争の中で生き残っている制作会社は非常に強いポテンシャルを秘めています。Webtoon誕生当初から次のステップに進んでスケールの大きな作品を生み出しているところもあります。STUDIO ZOONでは今後、編集者もしっかり育てていきたいですね。Webtoonは横読み漫画と比べて型がしっかりしているので、それを守っていればある程度のクオリティは保てるのですが、それだけでは通用しない局面に来ています。だからこそ厳しく育てようという気持ちもある。厳しいなりに夢があるWebtoonの可能性に賭けています。

『絶対攻略不可能ダンジョン』(原作:カンビキ旭/漫画:枡居ジュウ)
https://mechacomic.jp/books/261789

『身分差に終わった恋を、今さらですが。』(作:渡鍋ぽんず)
www.cmoa.jp/title/359059

STUDIO ZOON公式サイト
https://zoon.jp/studio

関連記事