コンペティションとワークショップを通じて未来のクリエイターを支援するプロジェクト、「NEXT」が開催された。豊かな才能が集まり力を発揮した、その模様をお届けする。
2023 年からPen が主催する、クリエイターの支援を目的としたプロジェクト「NEXT」。クリエイターを志している人やこれからの若手クリエイターを対象に、出会いと実践の場を提供している。24年は「縦型ショートドラマ」「ポスターデザイン」「ウェブトゥーン」「アニメーション」という多様な4つの部門を開催し、各界で活躍するトップクリエイターたちをメンター(講師役)に迎えて、コンペティションやワークショップを行った。
「NEXT」の基本的なステップは以下。①各部門のテーマに沿った作品を公募 ②5〜10組前後を選抜し、少人数のワークショップを開催 ③ブラッシュアップした作品を再提出 ④最優秀賞作品の決定 ⑤発表会・交流会の実施。
プロジェクトの最大の特徴は、コンペティションのプロセスの中にワークショップが含まれていることだ。提出した作品に対して、メンターから対面で細やかなフィードバックを受ける機会があることで、実践的なノウハウや気づきを得られるのである。そして、もうひとつ重要なのが「出会い」。ワークショップではメンターからの講評に加えて、参加者同士でのディスカッションや交流の機会も用意されている。同じジャンルでクリエイターとして修業中の仲間との出会いは、創作の刺激となるに違いない。
ワークショップを経て、見事最優秀賞に輝いた参加者には賞金10万円を贈呈。さらに最終的に完成した作品は現在、さまざまな場所で世の中に発表されている。以下、4部門でクリエイターたちと取り組んだ内容と発表された作品を紹介する。
縦型ショートドラマ部門の結果
ポスターデザイン部門の結果
ウェブトゥーン部門の結果
アニメーション部門の結果
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縦型ショートドラマの脚本を募集し、優秀作品を映像化
縦型ショートドラマ部門
近年、TikTokなどでスマホ視聴に最適化した縦型ショートドラマが人気を集めているのをご存じだろうか。NEXTの「縦型ショートドラマ部門」では、そのトップランナーであるクリエイター集団、ごっこ倶楽部のプロデューサー志村優さんをメンターに迎え、実写化を前提とした脚本を募集。多くの応募作品から、「TikTokでバズるテーマか?」などの視点で5組を選抜し、ワークショップを開催した。当日は志村さんから各脚本に対するフィードバックを行い、終了後もSlackでやりとりしながら、約1カ月後を予定していたドラマ撮影へ向け、ギリギリまで改稿を繰り返した。「ごっこ倶楽部が求めるクオリティに達した場合のみ映像化」という厳しい条件の中、見事すべての脚本の映像化が実現。現在、ごっこ倶楽部のTikTokアカウントで配信中だ。
<最優秀賞>きむらまい『効率女子』
“コスパ”と“タイパ”に執着する女性。デートで訪れたホテルのバイキングでも大量のケーキを抱えて持って来て、「貧乏くさい」と恋人から怪訝な顔をされるが……。
@gokko5club コスパって大切ですか? #恋愛 #条件 #理想 #お見合い #ショートドラマ #ごっこ倶楽部 #短編映画 #短編ドラマ #ドラマティッカー #ショートフィルム #ドラマ #WEBREEN #penmagazine #pennext #pencreatorawards2024 == 効率女子 == [主催] NEXT @Pen Magazine [出演] @大内唯 @鈴木浩文【ごっこ倶楽部】 関口ふで [監督]@石橋寛仁【ごっこ倶楽部】 [脚本]きむらまい [使用楽曲]#こっちのけんと ♬ はいよろこんで - こっちのけんと
メンターコメント
5名の脚本の評価にほとんど差はありません。それは映像化して改めて感じたことです。それぞれの脚本の持ち味がしっかりと反映されている素晴らしいドラマになったと思います。その上で『効率女子』が特によかったのは、テーマ設定や会話のテンポ感が、最もショートドラマ向きだったこと。そして、その要素を見事に脚本へ落とし込めていました。フィードバックに対する修正の的確さも素晴らしかったです。
受賞者コメント
この作品では目先の利益ばかりを追求していると、やがて本当に大切なものを失うのではないかという問いかけをしています。編集でカットになりましたが、この物語には続きがあります。サンダルの鼻緒が切れて転んだ山田は最後に「次はちゃんとしたのを買おう」と呟き、自分の意思で物事を選択をしようと改心しているのです。違う結末もあったことを踏まえてもう一度作品を鑑賞していただけますと幸いです。
上谷周平『週5の8時間労働なんてムリ』
毎日の労働が嫌になった会社員のマサヤは、オフィスで突然「辞めまぁぁっっす!!」と叫び、勢いで退職。そのことを恋人に報告すると、「距離を置こう」と拒絶されてしまい……。
@gokko5club あなたならどうしますか? #社会人の日常 #仕事 #上司 #部下 #ショートドラマ #ごっこ倶楽部 #短編映画 #短編ドラマ #ドラマティッカー #ショートフィルム #ドラマ #WEBREEN #_MOOD #penmagazine #pennext #pencreatorawards2024 == 週5の8時間労働なんてムリ == [主催] NEXT @Pen Magazine [出演] @早坂架威【ごっこ倶楽部】 @朝木茉永/ Asaki Mana @山川浩太郎(こた) [監督]志龍 [脚本]上谷周平 [使用楽曲]#MegaShinnosuke「愛とU」 (Sped Up Ver.) [衣装提供]@_MOOD ♬ 愛とU (Sped Up Ver.) - Mega Shinnosuke
石丸一帆『思い出の屋台』
大人数の飲み会。その場に馴染めなかった男女が、二人だけで抜け出して夜の街に出る。たまたま見つけた屋台でラーメンを食べていると、徐々にいい雰囲気になるが……。
@gokko5club あなたにとって思い出の場所は? #デート #恋愛 #カップル #ショートドラマ #ごっこ倶楽部 #短編映画 #短編ドラマ #ドラマティッカー #ショートフィルム #ドラマ #WEBREEN #CamphorWood #youngersong #penmagazine #pennext #pencreatorawards2024 == 思い出の屋台 == [主催] NEXT @Pen Magazine [出演] @鈴木浩文【ごっこ倶楽部】 @植木ゆず(ゆずぽん) [監督]@石橋寛仁【ごっこ倶楽部】 [脚本]石丸一帆 [使用楽曲]#Imase「I say bye」 [衣装提供]Camphor Wood , @youngersong ♬ I say bye - imase
軸『愛情弁当』
BL要素を取り入れた作品。高校生の矢嶋は友人の和田のお弁当をつくってあげていたが、女子生徒のある言葉がきっかけとなり、ふたりの間に微妙な空気が流れる。
@gokko5club あなたならどうしますか? #恋愛 #片思い #告白 #放課後 #学生 #ショートドラマ #ごっこ倶楽部 #短編映画 #短編ドラマ #ドラマティッカー #ショートフィルム #ドラマ #WEBREEN #penmagazine #pennext #pencreatorawards2024 == 愛情弁当 == [主催] NEXT @Pen Magazine [出演] @福島愛 @根井 深考 後藤光輝 [監督]@後藤 光輝 [脚本]軸 [使用楽曲]#SHISHAMO ♬ 恋する - 10YEARS THANK YOU - SHISHAMO
北野真子『桃源郷』
社会人一年目のりなは、新しい生活に疲れ果てていた。そんな時、大好きなおばあちゃんから電話がかかってくるが、忙しさや疲労のあまり、すぐに電話を切ってしまう。
@gokko5club 身近な人を大切にしていますか? #家族の日常 #おばあちゃんと孫 #おばあちゃん #ショートドラマ #ごっこ倶楽部 #短編映画 #短編ドラマ #ドラマティッカー #ショートフィルム #ドラマ #WEBREEN #penmagazine #pennext #pencreatorawards2024 == 桃源郷 == [主催] NEXT @Pen Magazine [出演] @福島愛 斉藤生子 @鎌田久遠 [監督]@後藤 光輝 [脚本]北野真子 [使用楽曲]#ちゃんゆ胃 ♬ 人生は素晴らしい - ちゃんゆ胃
WORKSHOP
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A〜Z のタイポグラフィで、部屋に飾るポスターをデザイン
ポスターデザイン部門
「ポスターデザイン部門」のテーマは「AからZ、すべてのアルファベットを使ったタイポグラフィ」。メンターを務めたのは、オリジナルポスターを販売するECサイト「ポスターズ」のメンバーでもあるKIGIの植原亮輔さん。「一見『A』に見えないかたちも、AからZまで揃うと『A』に見えてきたりと、デザインするとフォントの可能性が見えてくる。既存のルールの限界を考えさせるタイポグラフィによる、面白く美しいポスターを期待しました」とテーマ設定の意図を語る。200を超える個性豊かなポスター作品の中から12組が選抜され、植原さんとゲスト審査員の髙田唯さんを前に、作品のコンセプトをプレゼンするワークショップを開催。タイポグラフィの新しさや「部屋に飾りたくなるか」などを基準に、最優秀賞1組と、植原賞と髙田賞を含む優秀賞4組が選ばれた。
<最優秀賞>道木ジェイミー『Poster of Typeface “ Rei ”』
メンターコメント
タイポグラフィはフォントを素材としてデザインされたもののことです。一般的にフォントにはルールがあり、整っていることが大前提ですが、思い切ったデザインをしてみると、フォントの限界値が見えてきます。この作品は近くで見たり、離れて見たりすると印象が変わって、見れば見るほどよさが伝わってきます。ディティールの面白さ、文字をつくる面白さが伝わってきます。コム デ ギャルソンの服のテクスチャーに近い雰囲気を感じましたね。
受賞者コメント
書体「Rei」は、川久保玲率いるコム デ ギャルソンの反骨精神やパンクといった精神を反映するため、コンパクトな幅、コントラスト、カーブを意識し、とても極端な造形をしています。「Rei」を用いて制作した本ポスターは、そのデザインコンセプトをストレートに、かつ力強くレイアウトしたデザインです。書体を用いて新たな表現をつくるのではなく、タイポグラフィや文字デザインそのものの特性を活かすことを目的に制作しました。
<優秀賞(髙田賞)>荒井大輝『あぶく ベタ』
<優秀賞(植原賞)>小森香乃『交信』
<優秀賞>鈴木竣介『文字を操る者の視点』
<優秀賞>浅井ひとみ『Nora | 野良』
WORKSHOP
EXHIBITION
ワークショップ参加者
豊島森林 竹中実玖 ミウラユウタ 佐藤 雄 加藤綾羽 tysy 金子義幸---fadeinPager---
「漫画」の可能性を拡げる、新形態に挑戦
ウェブトゥーン部門
スマホでの閲覧に最適化し、縦型のフォーマットで読ませるウェブトゥーンは、韓国発の新しい漫画の表現形態として注目されている。メンターを務めた村松充裕さんは講談社で数々のヒット作を手掛けた後、現在はSTUDIO ZOONでウェブトゥーンの仕掛け人として活躍中だ。本部門では既存の漫画を書いている人を含め、新たな表現を模索するクリエイターを対象に募集。応募者のポートフォリオをもとに「ウェブトゥーンと相性がいい」と村松さんが太鼓判を押す5名が選抜され、ワークショップを開催した。1回目のワークショップの後、参加者はネーム(漫画の絵コンテ)を提出。2回目のワークショップで村松さんが講評を行った上で、最優秀賞に輝いたカンビキ旭さんの作品は連載化へ向けて始動。現在、村松さんが担当編集者について鋭意執筆中だ。
<最優秀賞>カンビキ旭『絶対攻略不可能−と或るFランクダンジョンはSSSランクダンジョンへと至る−』
メンターコメント
すごく面白かったです。まずワークショップでリクエストしたウェブトゥーンに必要な要素について、真正面からしっかり打ち返せていました。ダンジョンという馴染みのいい王道の世界観設定を用いながらも、設定やキャラクターに独自のアイデアがあり、見せ方にも工夫がある。わかりにくさなど少し課題もあったが、ほんの数回の打ち合わせでしっかり訂正する対応力もすごい。実際に連載できる日が楽しみです。
受賞者コメント
これまで出会ってきた素敵な人たちとの思い出が道標になってくれました。キャラクターをつくるために、自分が見てきた誰かの感情をヒントに、読む方々の日々の気持ちを想像しました。「強いけれどあたたかい友だち」のように思える主人公なら喜んでもらえると思い至り、ネームを描きました。ファンタジー世界の物語ですが、この現実世界にも確かに存在する感情の物語になっていたらなによりです。
WORKSHOP
ワークショップ参加者
奥灘幾多『encha』十口メメ『選ばれしダンジョン攻略者』
縹ゆり『最強ダンジョンツクール』
ponzoo『時渡りの竜は真実の愛を知る』
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架空の「オノマトペ」を、アニメーションで表現
アニメーション部門
アニメーションと言ってもさまざまな制作手法や表現方法があるが、メンターの和田淳さんは「間」と「気持ちいい動き」をテーマに独自の作風を確立するクリエイターだ。そんなエッセンスを参加者に伝えるために和田さんがお題としたのは、「新しいオノマトペ」。参加者は和田さんが考えた「ゆんすゆんす」「ぱろんぱろん」「のつのつ」という架空のオノマトペから好きなものを1つ選び、10秒~15秒程度の短尺アニメーションを制作した。和田さんは「このオノマトペをどのような状況で使うのか、正解はありません。みなさんの想像力で、みなさんの正解を教えてください」と参加者に投げかけた。応募作品の中から選抜された5組は、ワークショップで和田さんからの講評を受け、作品をブラッシュアップ。完成版はPenのYouTubeチャンネルで公開中だ。
<最優秀賞>舩田彩加『チューブマン』
メンターコメント
新しい擬音語をアニメーションで表現するという、正解もなく全員にとって未知なお題に、それぞれが独自の解釈によるアイデアと説得力と表現力で応えてくれました。なかでも舩田さんの「ゆんすゆんす」は奇妙さ、かわいさ、胡散臭さなどの魅力的な要素を自身の世界観で表現し切った点が素晴らしく、正解はないはずなのに正解だなと思いました。みなさんこれに懲りずに変な作品をつくってほしいです。
受賞者コメント
誰も使ったことのないオノマトペは、形容しがたい空気感や状況に対面した時に使いたくなるのだと思います。ギラついたポスター、騒がしい店内、入り口にある奇妙な動きの人形……。パチンコはしませんが、人からの話、お店の前の様子など情報を得るうちに、どこか不思議でおかしみのある存在として捉えるようになりました。個人的な妄想に近いパチンコの空気感を、音・色彩・動き・間などで感覚的に表現しました。