「クリエイティブ×テクノロジーで東京をより良い都市に変える」をステートメントとして掲げるシビック・クリエイティブ・ベース東京。2022年の開設以来、アートとデジタルテクノロジーを通して人々の創造性を社会に発揮するための拠点として数々の実験的な活動を行ってきた。2025年12月13日より拠点を渋谷から原宿に移し、新たなフェーズを迎えたCCBTのクリエイティブディレクター小川秀明が今後の展望を語った。
また、CCBTのパートナーとして活動する5組のアーティスト・フェローから、土井樹のワークショップを取材、フェローの活動の一端を紹介する。
---fadeinPager---
東京における「これからのコモンズ」を目指す
原宿竹下通りから脇道に入った場所で再始動したCCBTのB1スタジオ。奥にテックラボがある。3階にはワークショップなどのためのスペースも。
グローバル化の進展にともない、さまざまな課題に直面している現代において、市民やクリエイター、企業が集まり東京の未来をともに考えていくことを目指すCCBT。これまでさまざまなクリエイターと市民が東京の街を舞台に社会実験を行ってきた。クリエイティブディレクターを務める小川は、オーストリア・リンツ市が運営する文化機関、アルス・エレクトロニカでフューチャーラボの芸術監督としても活躍している。
「アルス・エレクトロニカは半世紀以上の歴史がありますが、市民に開かれた街の創造エンジンとして、未来に向けた教育の場も提供しています。CCBTではこの3年間、東京ならではの新しい文化機能としての可能性を模索してきました。特に核となる活動となる『アート・インキュベーション』では公募・選考によって選ばれる5組のクリエイターを『CCBTアーティスト・フェロー』とし、都市をより良く変える表現・探求・アクションの創造を行ってきました」
新生CCBTが掲げる今年度の活動テーマは「これからのコモンズ」だ。
「コモンズとは、“共有地”“みんなで育んでいくもの”という意味があります。そこにはデジタルコモンズやクリエイティブコモンズ、バーチャルコモンズなど時代やテクノロジーの変遷によって多様なフィールドがありますが、今後はそれらが混合した時代になっていくと思います。一方で東京という街はパブリック=公共の概念が成立しにくいという課題を抱えています。小さなコミュニティが地下に潜ったり、原宿のように小さな店の中に価値観を同じくするコモンズがあったりする。コミュニティが分散しながら存在するというユニークな生態系を活かして、東京の各地でCCBTの活動を網の目のように行うことも考えています」
これまでの活動で象徴的だったのが、和田永率いるエレクトロニコス・ファンタスティコスが行ったパフォーマンスだ。使い古された家電を改造して楽器をつくり、一般市民も参加してオーケストレーションを奏でながら街をジャックした。
「銀座を取り囲むように走る高架の自動車専用道路、KK線の撤廃にともなう計画地で彼らが行ったパフォーマンスは市民参加型の祭りとして成功を収めました。パブリックスペースをどのように利活用していくのか、CCBTが文化的なアプローチで関わることで、外部にインパクトを与えることができる。我々が目指すのはアート・フォー・ソサエティ。アートのためのアートではなく、社会のためのアートを志向しているのです」
アーティスト・フェローには上限1,000万円の制作費、様々な専門家からのアドバイスや技術支援の機会が提供される。必要に応じてプロジェクトチームを組み、アーティスト・フェローとしての活動が具体的に提案されており、市民や都市によりよい変化をもたらすことが見込まれるかが審査基準のひとつとなる。
「自分の部屋でコツコツと作品をつくっていたアーティストにとっては別の筋力を使うことになるかもしれません。CCBTのプロジェクトでは実際にラボに集まって、専門スタッフと一緒にテーマを深めて制作を進めていきます。その中で生まれたアイデアや道具が市民の共有財産となるように、未来の公共サービスのプロトタイプが生まれることを期待しています。将来的には近隣の小・中学校に出張授業を行ったり、公民館のようなハブとして使われたりするなど、イノベーティブな人材育成の場になれば理想的ですね」
デジタルテクノロジーが急速に私たちの生活に浸透しつつある現在、美術館や博物館とは異なる市民のための創造拠点を目指すCCBT。そこでは鑑賞者が参加者となり、やがて自ら活動するアクターとなる場所が提供されているのだ。
---fadeinPager---
アートをより身近に、「天気をつくる」ワークショップ
第2フェーズを迎えたCCBTでは今年度の5組のアーティスト・フェローが、原宿を中心に都内各所で展示やワークショップを開催している。その中から、2025年12月、東京都写真美術館内のスタジオでワークショップ「天気をつくる」を開催した土井樹の取組みを紹介する。
人工生命の研究を専門とする土井は音楽家、複雑系研究者の肩書も持つ。今回、CCBTアーティスト・フェローとして取り上げた「天気」は土井にとって初めて扱うテーマだ。「きっかけは大阪・関西万博の時報をサウンドアーティストのevalaさんと設計した時に、気象センサーを使ったことです。気象センサーを利用してもう少し拡張したプロジェクトができないかと思ったんです」と土井は言う。
参加者に1台ずつ手渡された独自開発の気象センサーのキット。センサーと基盤をつなぐことで、各地の天気をピンポイントで同時に計測する。
ワークショップでは1時間にわたって天気の定義や歴史について解説。古代ギリシャの「風の塔」や、安倍晴明に代表される陰陽師の存在が示すように、人間は古くから気象を予測するだけでなく、生活の中で読み取り、他者と共有してきた。今回の試みで土井は、そうした天気と人間の関係性を、現代のデジタル技術を通して改めて問い直そうとしている。今回の試みは現代のデジタルツールを使って日本各地でデータを集めようとするものだ。
---fadeinPager---
サイエンスとアートの垣根を超えた取組み
土井樹(どいいつき)●2025年度CCBTアーティストフェロー。社会性生物の群れの同期現象などをテーマに研究を行うとともに、人工システムを含む「他者」が持つ固有の経験や感じ方を、その存在自身の立場から理解するための手段をテーマにした作品制作を行う。
参加者に1台ずつ配られたセンサーは温度、湿度、大気圧、明るさ、風を計測する基盤が内蔵されていて、各人がそこに花と傘のモチーフがついたセンサーを装着する。あとは自宅に持ち帰ってベランダや玄関などの屋外に設置しスイッチを入れると、スマホに登録した画面でお互いの計測状況を確認することができるという仕組みだ。スマホ画面では各人が天気に関する印象的な思い出を記入し、その後定期的に日記を綴っていく。
「天気というのは公的なものでありながら、主観的な側面を持っています。人は多少なりとも天気によって左右されているので、日記はあえて天気と関係ないことを書いてもらいます。これまでも世の中には天気に関連したアートはありましたが、今回のプロジェクトでは日本独自の天気の捉え方が見えてくるのではないか。このように市民にアーティストが開発した道具を使ってもらい、パブリックに開かれた表現ができるのが、CCBTならではの強みだと感じています」
参加者が持ち帰ったセンサーがウェブサイトの画面に映し出される。センサーがゆれるのを目にすることで、他者の存在が身近に感じられる。
土井が編成したテックチームが、CCBTの支援のもと、土井の要望に応じてセンサーの制作を行った。オリジナルキットが今後どのように発展するのか。土井は未来に向けて期待をふくらませる。「色とりどりの花が各地で風にゆらめいている様子を想像するとワクワクします。今日この場所に集った初対面の人たちは今年度いっぱい、インターネット上でつながり続けます。それを想像しながらどんな表現に発展するのか、乞うご期待です」
遠く離れた人を思い、未来を予測するこのプロジェクトがどんな景色を見せてくれるのか、そして参加者の中でどんなクリエイティブの花が咲くのだろうか。
土井をはじめ、5組のアーティスト・フェローの活動成果発表が、1月末から3月にかけてCCBTをはじめ、都内各所で開催される。テーマ「これからのコモンズ」に対するそれぞれのアンサーがどのような形になるのか、ぜひ足を運んで確かめてもらいたい。
シビック・クリエイティブ・ベース東京
土井樹「Weather」プロジェクト
公式ウェブサイト:
https://w-e-a-t-h-e-r.jp
オリジナルウェブアプリケーション"Refuge":
https://refuge.w-e-a-t-h-e-r.jp
