肖像作品が語る、アンディ・ウォーホルが見た時代の欲望と実像

  • 文:中島良平
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エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2025年)。ウォーホル作品の色彩とシンクロするセノグラフィも特徴的。© The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris photo: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton 

エスパス ルイ・ヴィトン東京で、アンディ・ウォーホルの肖像作品を集めた展覧会が開催中だ。初期のドローイングから代表作まで、虚像と実像の間でゆれた稀代のアーティストの輪郭が浮かび上がる。

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『SELF-PORTRAIT(セルフポートレート)』1978年 キャンバスにアクリル絵具とシルクスクリーンインク 203×203cm 受注する機会も増したポートレートだが、効率化しつつも作風の多様性を探求したことがうかがえる。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo : © Primae / Louis Bourjac

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肖像作品を集めた、貴重にしてユニークな展示

ポップアートを代表する巨匠のひとり、アンディ・ウォーホルによるポートレート作品を集めた『Andy Warhol – Serial Portraits』展が、ルイ・ヴィトン表参道 7階にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催されている。SNS時代を予見したかのようなバリエーション豊かな“自撮り”の数々や、オリジナルを追求するうえで「複製」に着目した視線など、ウォーホルの先見性を改めて感じさせる内容だ。

会場で最初に出迎えるのは、証明写真機で撮影された写真をベースとする緑がかった画面の1963〜64年の作品と、4画面を組み合わせた78年の『セルフポートレート』の2点。どちらもキャンバスにアクリル絵の具とシルクスクリーンインクで描かれた作品だ。

もともと広告イラストレーターとしてドローイングを多く手掛け、人気を集めていたウォーホルがシルクスクリーンで作品を制作するようになった理由は、大きくふたつ挙げることができる。ひとつは、私的なドローイングではニューヨークのアート界を勝ち抜く強度に欠けると判断したこと。もうひとつは、一点ものの作品のみが評価されていたマーケットに対し、版画技法により作品を量産することで、大量生産・消費社会におけるアートの新たな価値観の創出を狙ったこと。

やがて、「ファクトリー」でアシスタントたちと大量に手掛けた作品がポップアートを象徴する表現のひとつとなったように、その狙いは見事に的中する。

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『SELF-PORTRAITS IN DRAG(ドラァグ姿のセルフポートレート)』1980〜82年 ポラカラー 各10.8×8.5cm エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2025年)ジェンダー論や性的マイノリティの権利についてなど、社会的な問題に目を向けさせる作品のひとつ。
© The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025  Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris photo: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

肌も白く病弱であることにコンプレックスを感じていたウォーホルは、子どもの頃からハリウッド映画に魅了され、セレブリティに関する新聞の切り抜きを集めるなど、華やかな世界に憧れを抱き続けていた。そうした背景が映画スターや上流階級の著名人たちを作品の題材として選ぶことにつながり、蓄積された作品はやがて、時代そのものを映し出す集合的なポートレートとなった。

また、表現の波及にはメディアの力が有効だと考えた彼は、自身も音楽プロデューサーやショーデザイナー、テレビ司会者などを演じ分け、いくつもの顔をつくり上げて大衆の関心を引き寄せた。トレード・マークとなったフライト・ウィッグ(恐怖のかつら)にサングラスの姿をはじめ、さまざまな装いで撮影した『セルフポートレート』や、女装して撮影した『ドラァグ姿のセルフポートレート』など、証明写真機によるインスタント写真においても、演出された写真「ステージド・フォトグラフィ」の技法を徹底した。

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『TEN PORTRAITS OF JEWS OF THE TWENTIETH CENTURY (20世紀のユダヤ人10人の肖像)』1980年 べラム紙にシルクスクリーン10点(個別額装) エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2025年)著名人のアイコニックな写真を用い、工業的な手法を制作に取り入れる探究を続けた集大成とも呼べる作品。カフカ、アインシュタイン、フロイトなどが選ばれている。

今回の展示では、50年代にボールペンで紙に若い男性を描いた、ほとんど公開されることのないドローイング作品『名のない男』が8点展示されている。ポートレートがウォーホルにとって、キャリアを通していかに重要であり続けたのかが伝わってくる。

ハイライトとなるのが、物理学者のアインシュタインや小説家のフランツ・カフカなどをモチーフとする『20世紀のユダヤ人10人の肖像』だ。複数の色のインクを同時に載せて刷ることでグラデーションを生み出すシルクスクリーンのこの手法は、ウォーホルのシグネチャーとなった。

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ドローイングから著名写真家によるものまで、多彩な肖像作品

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『UNIDENTIFIED MALE (名のない男)』1955〜57年 紙にボールペン 広告イラストレーターとして人気を集めたウォーホルの、高い描画力と余白使いのセンスを感じさせる。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo: © Primae / Louis Bourjac
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『THE SHADOW (シャドー)』1981年 ミュージアムボードにシルクスクリーン 102.5×102.5cm ピントが合っているのは、実像ではなく影。本当の自分とは。アイデンティティについて考えさせられる。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo: © Primae / Louis Bourjac
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『SELF-PORTRAIT(セルフポートレート)』1963〜64年 キャンバスにアクリル絵具とシルクスクリーンインク 52.8×43.3×3.4cm 証明写真機で撮影された写真をベースに、シルクスクリーンでプリントする手法を試みた初期の作品。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo : © Primae / Louis Bourjac
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『SELF-PORTRAIT IN FRIGHT WIG(「フライト・ウィッグ」をかぶったセルフポートレート)』1986年 ポラカラー 10.8×8.5cm トレードマークとなった「フライト・ウィッグ(恐怖のかつら)」をかぶったこの作品は、亡くなる前年に撮影。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo : © Primae / Louis Bourjac
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『SELF-PORTRAIT(セルフポートレート)』1977年 ポラカラー 10.8×8.5cm Tシャツ姿で、珍しく素に近い表情を収めたもの。いや、それも一種の演出なのかと勘ぐりたくなる。
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton, Paris © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2025 photo : © Primae / Louis Bourjac

展示はロバート・メイプルソープが撮影したウォーホルのポートレートで締めくくられる。常に取り巻きに囲まれ、自己演出を徹底した稀代のアーティストの素顔を撮影されることに対する戸惑いが、その表情と置きどころに困った手の様子から伝わってくる。

作品はフォンダシオン ルイ・ヴィトンのコレクションの一部であり、展示は東京、ミュンヘン、ヴェネツィア、北京、ソウル、大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにて、未公開作品を紹介する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として実施されている。2025年秋には期間限定でオープンしたエスパス ルイ・ヴィトン ニューヨークで、フランスの国宝に指定されたギュスターヴ・カイユボットの『船遊び』が特別公開されるなど、LVMHグループでは文化遺産の保護と振興への取り組みを世界的に行ってきた。東京と大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにどのような作品がやってくるのか、今後の展開にも期待が高まる。

エスパス ルイ・ヴィトンの詳細はこちら

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ブローニュの森にある、現代アートの施設

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© Fondation Louis Vuitton / Marc Domage

 現代アートとそのインスピレーション源となっている20世紀の重要な作品に特化した芸術機関であるフォンダシオン ルイ・ヴィトン。2025年12月に逝去した建築家、フランク・ゲーリーの設計によるパリのフォンダシオン ルイ・ヴィトン(上写真)では、史上最大規模のゲルハルト・リヒター展が26年3月2日まで開催されている。

ANDY WARHOL『SERIAL PORTRAITS - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION』

開館期間:〜2026/2/15
開館場所:エスパス ルイ·ヴィトン東京 
TEL:0120-00-1854
開館時間:12時〜20時
定休日:ルイ·ヴィトン 表参道店に準ずる 
入館料:無料
www.louisvuitton.com