時を測るだけでなく、時を創造する。独自の世界観で「時間」を解釈するブランドが小さな腕時計に宿す、飽くなき創造性を探る。今回はハリー・ウィンストンの名作2本から紐解く。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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ダイヤモンドに通じる、複雑機構と前衛デザイン
「キング・オブ・ダイヤモンド」とたたえられるハリー・ウィンストンが本格的に時計に参入したのは1989年のことだ。ハイジュエラーならではの美的感性と優美なスタイルが高く支持され、ほどなく独自の複雑機構へと歩みを進める。
飽くなき人間の創造性と熟練の技から生まれる複雑機構は、稀少なダイヤモンドの輝きにも匹敵する価値があるという信念からだろう。数多くの独立時計師たちとコラボレーションした「オーパス」シリーズや、トゥールビヨンの限界に挑戦した「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」がその象徴だ。さらにジュエリーで培った素材探究は、先進素材ザリウムを採用した「プロジェクトZ」に結実し、ブランドを代表する人気コレクションへと成長した。
2013年にスウォッチグループ傘下に入ったことで、品質と信頼性がさらに向上した。こうしたリソースを活かして生み出される前衛的なデザインには、ニューヨークを発祥とする先進性と、パイオニアたる精神が息づいているのだ。
1. 「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10」
トゥールビヨン技術を革新する実験的なコレクションとして、多軸や複数のトゥールビヨンなど既成概念を超えた複雑機構を開発する。シリーズ誕生10周年を記念する第10弾は、コレクション史上初の4つのトゥールビヨンを搭載した。3つのディファレンシャルギアを介した等時性により、精度を大幅に向上している。
2.「ザリウム バリエーション」
1998年、ブランド初のスポーティウォッチとして登場した「HW オーシャン コレクション」に、軽量で高硬度、耐食性と低アレルギー性を併せ持つ先進素材ザリウムを採用。デザインは、オープンダイヤルにオフセットした時分針のインダイヤルとビッグデイトを装備。マンハッタン・ブリッジにインスピレーションを得たオープンワークが特徴だ。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカーの広告制作会社でコピーライターを経て独立。時計、ファッション、クルマ、デザインを中心に、広告制作や編集などで活動中。

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