空間づくりで創出する、情緒的な経営価値──躍進する「ギャルド」のビジョンと現在地を紐解く

  • 写真:斎藤誠一
  • 文:高野智弘
Share:

空間デザインを手掛けるクリエイティブカンパニー「ギャルド」が創業40周年を迎え、事業のグローバル化と多角化を急進させている。躍進を遂げる同社の現在地と、未来へのビジョンを紐解いた。 

B_外観1.jpgD.jpg
東京本社/東京・表参道
ギャルドの東京本社は、同社が手掛けたファッションブランドの旗艦店が立ち並ぶ南青山にある。社内にはこれまでに受賞したアワードの盾やトロフィーが無数に並び、併設のアートギャラリーでは、若手アーティストの展覧会も定期的に開催される。

名だたるラグジュアリーブランドの旗艦店をはじめ、外資系ホテルやオフィスなどの空間およびインテリアデザインを手掛ける「ギャルド」が創業40周年を迎えた。

「近年、事業の根幹であるデザイン事業では、百貨店、ショッピングモール、ホテルといった大型物件の受注が増えており、受注先も中国やASEAN各国へと拡大しています」と、ギャルド代表取締役社長の室賢治は語る。これに伴い、10年前は8カ所だった海外拠点も10カ所まで増やし、グローバル化を進めている。

メイン16-9.jpg
世界各地に広がり続ける、グローバルネットワーク──ギャルドでは、青山の東京本社を中心に建築士やデザイナーなどの設計スタッフをはじめ総勢98名が在籍。パリやミラノ、ドバイや香港、LAまで世界に広がる拠点同士が連携を取り合い情報交換を行うことで、日々技術の革新やトレンドのアップデートが行われている。

付加価値の高い提案で、早期からプロジェクトに参加する

H.jpg
The Observatory/フィリピン・マニラ
建物内には物販店舗を、レストランなどの飲食施設はアウトモールとして設計。飲食を楽しみながら、パシッグ河の雄大な流れを望むことができる。再来年から順次オープンし、全施設の完成予定は2030年以降だが、地元では既に大きな話題を呼んでいる。© 野村不動産 合弁会社 Federal Land NRE Global Inc.

室が「近年で特に成長した分野」と語るのが、コンサルティング事業。その象徴が、2030年以降にマニラで完成予定の、レジデンスと商業エリアの複合施設「ジ・オブザーヴァトリー」だ。

「4万㎡の大型モール低層部に巨大駐車場を配置し、眼前の幹線道路から動線を引き込むプランが、事業主から高く評価されました」

同社における躍進の理由を、室は「国内外のネットワークを駆使した情報収集力」と、「川上に立つ営業」にあると語る。

「付加価値の高い提案で早期にプロジェクトへと参画することで、構想段階から一貫性のあるプランニングが可能になります」

ギャルドは自社の戦略として「空間づくりから導かれる、情緒的な経営価値」というスローガンを発信している。

「訪れるお客様の感情に訴える空間づくりでブランド力を向上するなど、無形な価値を経営資産として創出する。これが弊社の使命であると考えています」

F.jpgE.jpg
寧波阪急/中国・寧波市
ギャルドが手掛けた阪急うめだ本店の倍以上となる、17万㎡の規模を持つ大型百貨店兼ショッピングモールの内外装を担当。日本式の“デパ地下”を取り入れた店舗として注目された。これらの実績が、アジア各国の注目を浴び、ギャルドのASEAN諸国進出への足がかりとなった。

---fadeinPager---

エコバディス シルバー認証と、未来へ向けての一手

G.jpg
Rasapura Masters/シンガポール・マリーナベイ
屋上にあるインフィニティプールで有名なリゾートホテル「マリーナ・ベイ サンズ」の、地下フードコートのデザインを担当。今年11月のリニューアルでは、3輪自転車を模した客席など、随所にシンガポールの原風景を思わせる演出を施し人気を博している。

また、国際的なサステナビリティ評価機関「エコバディス」では「シルバー」の認定を得たが、これは建築・デザインの分野では6%の企業にしか与えられていないきわめて高い評価だ。

「これは労働環境の改善を目指すウェルビーイング経営の一環であると同時に、顧客からの信用獲得にもつながります。近年では海外のトップブランドや外資系企業と仕事をするには、この評価の獲得が前提となることも多いのです」

今年になってギャルドは、さらなる一手を投じた。ニューヨーク随一のアートの発信地、チェルシー地区にアートギャラリー「GOCA」をオープンしたのだ。

A.jpg
GOCA/アメリカ・NY
約200ものギャラリーが集まるニューヨークきってのアートの発信地である、チェルシー地区にオープンしたギャラリー。「日本をはじめ、アジア各国の若手アーティストを、世界のアート市場へと発信する場所として機能させていきたい」と、室は語る。

「これまでも国内で若手アーティストを支援してきましたが、アジアのアーティストたちを世界に向けて発信するためのプラットフォームとして開設しました」

他にも地方創生に向けたプラットフォームや、メタバースでの仮想モデルルームやデジタル美術館の運営など、事業の範囲は拡大を続けている。グローバルに事業を展開しながら、この10年で大きな飛躍を遂げたギャルド。今後も世界の市場で、大きな存在感を示していくことは間違いない。

---fadeinPager---

相互的に連携する、多角的な事業展開

【大型デザイン事業】もてなしの心を具現化した、ハレの場を鮮やかに彩る悦楽の空間演出

I.jpgJ.jpg
カンデオホテルズ京都烏丸六角/京都市・中京区
町家の所有者、デベロッパー、ホテル運営会社の3社をマッチングしたプロジェクト。町家が登録有形文化財のため、さまざまな規制が障壁となったが、京都らしい和モダンなホテルへとリファインし、企業のマッチング例としても成功を収めた。これらの実績により、現在では複数のホテル案件を受注しており、10年前にはなかったホテル案件が、いまでは大型デザイン事業の柱となりつつある。

レジデンスにショッピングモール、そして百貨店にホテルと、近年は大型商業施設のデザイン案件が増加しているという。なかでもかねてから熱望していたホテルは、「川上からの営業」によって手掛けるようになった案件だ。

「『カンデオホテルズ京都烏丸六角』は、ファザードに京町家の佇まいを残しつつ10階建てのホテルとして建築されたのですが、京都市登録有形文化財でもあるため景観条例も関係するなど、デザイン的にも難しい案件でした」と振り返るのは、デザイン事業を統括する、常務取締役クリエイティブ統括本部本部長の太田勝也だ。

また、この10年で大型デザイン事業は国内のみならず、海外での案件も増加している。

「10年前は中国が中心でしたが、現在ではジャカルタやフィリピンなど、東南アジア各国での案件が増えてきています」と太田。

今後はデベロッパーなど協力会社の動向も踏まえ、現在10ある海外拠点のさらなる開設も視野に入れるなど、積極的にグローバル化を推進。ギャルドの視線は、これからも世界のマーケットに注がれている。

K.jpgL.jpg
ハイアット ハウス 東京 渋谷/東京都・渋谷区
「暮らすように泊まる」アパートスタイルを提案するハイアットグループのホテルブランド。
「渋谷駅周辺の喧騒と、松濤や代官山の住宅地における静寂。そんな渋谷の二面性をデザインで表現しました。ホテルまでの道のりは賑やかな雰囲気を感じられるが、施設に入った瞬間に静寂に包まれる。そんな空間を演出しています」と室社長。これもまた、ユーザーに“情緒的な価値”を抱かせる試みだ。
M.jpgN.jpg
西武池袋本店/東京都・豊島区
インクルージョンというテーマのもと、旧来の婦人と紳士で“デパートメント(区分)されたストア”から脱却し、あらゆる属性のユーザーが一緒にショッピングを楽しめる、自由で開かれ、統一された空間へとリニューアル。新しい店舗スタイルを提案している。「メゾン(家)」をコンセプトにデザインされた各フロアは、「クラス感」「洗練」「アート」という3要素が融合した空間へと生まれ変わる。

ギャルドの詳細はこちら

---fadeinPager---

【ブランド事業】ニーズへの確かな理解と技術力で、ラグジュアリーブランドの世界観を表現

O.jpg
B bar Marunouchi/東京都・千代田区
バカラを象徴する赤をアクセントに、ブランドを代表する燭台「ツァリーヌ」やグラスを“魅せるデザイン”として演出。シャンデリアはどの場所からでも見えるように配置。オリジナルのデザインを踏襲しながら、アトリエでの制作風景の写真とともに、バカラの歴史、文化、クラフツマンシップへの敬意を表現。

トップブランドの上質で優雅な空間は、常に我々に高揚感を抱かせる。しかし、完成までの過程は「地味で緻密な作業の繰り返しです」と、太田は苦笑する。

「基本的に、ブランドが表現したい世界観を実現させることがメインの業務ですが、法規的な面で要望どおりのデザインを実現することが不可能な場合も多いので、オリジナルに近しい別素材の提案や、細かい仕様の変更といった技術面のサポートに加え、工期や予算のマネージメントも包括的に行っています」 と太田。

ラグジュアリー市場におけるギャルドに対する信頼性の高さは、「表参道では、手掛けていないブランドを探すほうが難しい」という室の言葉からも見て取れる。

P.jpg
Polène/東京都・港区
パリ発レザーグッズブランドのフラグシップショップ。日本初進出をサポートした。東京店オリジナルの要素として、漆塗りの造作什器を設置して日本らしさを表現。また、レザーを用いた天井の照明器具や階段の手すり、落ち着いたカラーの砂漆喰で仕上げられた壁など、空間全体をポレーヌらしい空気感で演出した。

【オフィス事業】働き手の生産性向上を実現する、次世代のオフィスデザイン

ホテルとともに案件が増加しているのが、GAFAMといった大手外資系企業を中心としたオフィス事業。国内およびアジア各国のオフィスをギャルドが担当している。

「人感センサーで社員の動きを可視化し、そのデータを基にワークスペースなどの配置を決めていく。綿密かつロジカルに生産性の向上を目的としたデザインを提案し、高く評価されています」と、事業を統括するディレクターのクリストファー・ブルックスは語る。

無駄がなく効率的なオフィス空間が実現する、生産性の向上。ブランドやホテルに宿す情緒的な価値に加え、効率化の向上をデザインで実現できることもまた、ギャルドの強みなのだろう。

R.jpgQ.jpg
Anaplan Japan/東京都・千代田区
最先端の都市と豊かな自然が共存する東京。そんなバランスをオフィス空間に反映させ、癒やしと活力を両立した“都心のオアシス”を創出。自然要素を建築や空間に取り入れる「バイオフィリックデザイン」の導入により、ストレス軽減、リラックス効果、集中力や生産性の向上などを目指した。

【新規事業】メタバースや地方創生で切り拓く、手つかずのニューマーケット

S.png
COCO WARP(メタバース事業)
メタバース事業では、バーチャル美術館「COCO WARP」以外にも、これまでに手掛けた事例の画像や動画を活用した住宅販売ショールーム、小売業における新規販売チャンネル、そして、自社開発したバーチャル空間のレンタル事業などを展開。リアル空間の設計で得たデータとノウハウを、メタバース空間で有効活用していく。

「デジタルを活用した新規事業、その一翼を担うのがメタバースと地方創生です」と語るのは、専務取締役グローバル統括本部長の島田克哉だ。

「メタバースではバーチャル美術館『COCO WARP』を運営し、気鋭アーティストの作品を展示しています。デジタルを活用した地方創生事業では、知られざる日本の観光資源を紹介する観光案内ソフト『タビイコ』を運営し、現在、約200の自治体に参加いただいています」

これらは、既存事業のクライアントとのマッチングによって、新たな事業へと発展する可能性を持つ事業だ。

「タビイコは、全国の自治体という新たな市場を開拓するきっかけとなると考えています」

T.jpg
タビイコ(地方創生事業)
観光で地方創生をサポートすべく開発した、オンラインの全国観光案内ソフト。「日本には、まだ知られていない素晴らしい観光資源がたくさんあります。それらの発信を通して地方自治体の知名度を向上していくのと同時に、企画開発部門との連携によって、地域づくりにも貢献していきたいと考えています」と島田。

ギャルドの詳細はこちら

ギャルド

TEL:03-3407-0007