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空間の“当たり前”をゆさぶる。LIXILのインスタレーション「無為に斑」が示す建築の未来

  • 文:吉田 けい
  • 写真:岩崎 高也
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従来のかたちへのリスペクトを込めながら、空間に“可能性”と“ゆらぎ”を与えるインスタレーション「無為に斑(MUINIMULA)」。手前から、床・天井・壁それぞれの本質に迫った展示風景。

日本最大級のデザインとアートの祭典「DESIGNART TOKYO 2025(デザイナート 東京 2025)」にて、LIXIL(リクシル)は“空間構成要素の再構築”をテーマに、空間の既成概念を解体し、新たな視点から床・天井・壁という空間構成要素の本質的価値を見つめなおすインスタレーションを発表。建築家・永山祐子を迎えたトークショーでは、建材のアップサイクルについても掘り下げ、これからの建築についてアイデアを提示した。未来の空間づくりに向けて、LIXILが示したのは既成概念を超えた新たなアプローチだった。

“無為”に“斑”を施し、空間の当たり前をゆさぶる

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LIXILが長年培ってきたアルミ押出成型技術によって実現した造形。業界トップクラスのアルミリサイクル技術を用い、製造時のCO₂排出量を大幅に削減する循環型低炭素アルミ「PremiAL(プレミアル)」によって表現された。

隆起する床、隙間だらけの天井――。そんな、おそらく誰も体験したことのないような空間構成要素を表現してみせた「無為に斑(MUINIMULA)」。「LIXIL GLOBAL DESIGN(リクシル グローバルデザイン)」のハウジングテクノロジー部門によるインスタレーションである。

無為(むい)とは、作為を排し、自然のままであること。斑(むら)とは、多様性やゆらぎ、個性の象徴を意味する。「空間に対するこれまで当たり前だと思っていた考え方に“斑”を施すことで、さまざまな可能性が生まれるのではないかと考えたんです」と、LIXIL Housing Technology(以下LHT)デザインセンター長の井上貴之は語った。

「私たちLHTが扱うのは窓やドアなどのインテリア、そしてフェンスなどのエクステリアをはじめとする、アルミの押出材でつくられたプロダクトが中心です。それらを思い浮かべると、直線的で四角いものばかりだと思いませんか。私たちも自然とそういうものだと思ってしまっている――、つまり“無為”になっているのではないかと考えました。直線的であることは、建築の構造や文化的背景を考えると必然なのですが、多様なライフスタイルや価値観のある現代では、もっと自由で、より本質的なものが求められているはずだと考え、このインスタレーションにたどり着きました」

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LHTデザインセンター長の井上貴之。

LIXILのインスタレーション展示「無為に斑(MUINIMULA)」の詳細を見る

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固定観念を超えて、空間の“本質”を見つめ直す

インスタレーションでは、おもな空間構成要素である床、壁、天井の3つにフォーカスし、それぞれの本質を見極めながら、デザインの視点から新たな可能性を探っていった。たとえば、床であれば、本質は「支える」ことだと捉え、人やものを支えられるだけの幅を保ちつつ高低差を表現。高さが異なることで、床をチェアやテーブルとしても使えるようになり、人やものの居場所に変化をもたらす余地が生まれた。

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燻炭や鉱石といった自然素材の風合いをそのままに、「textone」がもたらす穏やかなマット感と素朴な質感が、空間に静かな温もりを宿す“床”のインスタレーション。

壁の本質は「区切る」こと。しかし明確に分割するのではなく、境界を示しながらも“抜け”を設けたり、曲線でゆるやかに区切ったりして、やわらかで動きのある領域を生み出した。あちらとこちらの境界が曖昧になったことで、人やものの関係性は多様に広がっていく。

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「完全に遮断するもの」という既成概念を超えた、“壁”のインスタレーション。光や風を受け入れながら、自然とともにある新しい壁の価値を提示する。

そして、天井の本質は「覆う」ことだ。しかし、覆い方にもいろいろあるはずだとして、今回の展示では光や風を通しつつも、覆われている感覚を残した。室内には木漏れ日のようなまだらな光が落ち、人やものは優しく覆われながらも、自然との新たなつながりが感じられるようになる。

床、壁、天井に対する固定観念を取り払い、「これも床なのでは?」と、こちらに問いかけてくるような展示。対峙しているうちに、「こんな床だったなら、どんなふうに暮らすか?」「これが床なら、どこまでが床と呼べるだろう?」などと想像を膨らませた人も多かっただろう。

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面ではなく、線で構成された“天井”のインスタレーション。空間を軽やかにし、光と陰影のリズムを生み出す。

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サステナブルな社会で、建築はどうあるべきか

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建築家・永山祐子が登壇し、「未来の建築」をテーマに語ったトークショーの様子。

DESIGNART TOKYO 2025でのインスタレーションの展示に合わせて、LIXILは建築家・永山祐子を迎えたトークショーも開催。未来の建築やLIXILの目指す姿と新たな挑戦について語る内容となった。

未来について語る際、いまや欠かせないキーワードが「サステナブル」。このトークセッションでも、リユースやアップサイクルの重要性が触れられた。永山による建築のリユースといえば、先の2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展された「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」が記憶に新しい。2020年ドバイ国際博覧会の日本館のファサード構造をリユースした館である。実は日本館を設計した当時から既にリユースを見越しており、ドバイ国際博覧会閉幕時には国ではなく自らのプロジェクトとして、施工会社の協力を得てていねいに解体し、物流会社の協力により輸送と保管を果たし、リユースを実現したのだという。そして大阪・関西万博が閉幕したいま、2027年国際園芸博覧会(GREEN × EXPO 2027)屋内出展施設(仮)にリユースが決まっているそうだ。

しかしながら、住宅など実際の建築をリユースするには障壁もあると永山は語る。

「たとえば、構造材を構造材としてリユースするのは建築法規上、安全性を確認できないなどの理由から難しいのです。しかし、万博であれば実証実験の場ですし、仮設建築だからということで実現できました。私は、こうして発表することが大事だと考えています。リユースできると示すことで、必要な技術が見えてきますし、課題も見えてくる。その課題を解決していきながら、やがて恒久的な建築にもリユースが採用されるように社会が変わっていくのではないでしょうか」

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技術とデザイン。LIXIL が描く“未来の建築”

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CACL、LIXI、永山祐子建築設計の3社による、共同プロジェクトから生まれた「textone NOTO-KAWARA」。令和6年能登半島地震で倒壊した家屋に使用されていた「黒瓦」を廃棄するのではなく、「創造的復興」のシンボルとみなし、建材へアップサイクルすることで、能登の想いや記憶を未来へとつなぐ。

SDGsの達成に向けて、世界中でさまざまな取り組みが進められる中、永山とLIXILが参画するプロジェクトが進行中である。2024年の能登半島地震により廃材となった黒瓦を、LIXILの技術によって建材へアップサイクルするというものだ。

実は、インスタレーション「無為に斑(MUINIMULA)」に使用された建材はすべて環境配慮素材。最も注目を集めたのは、LIXILが開発した循環型低炭素アルミのPremiAL(プレミアル)シリーズだ。アルミ製造時のCO₂排出量削減を目指し、30年近くかけて研究を重ね、世界屈指の技術により製品化に至った素材だという。

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展示会のノベルティとして制作された「箸置き」。LIXILのデザイン力、技術力、生産性を象徴する小さなプロダクトだ。無機質な素材を日常の器に落とし込み、暮らしの中に静かな美を添える。

 LIXIL常務役員 デザイン&ブランド ジャパン部門 リーダーの羽賀豊は、トークショーで「素材そのものを開発していくことで、ただ“環境にいい”という機能的な部分だけではなく、素材そのものが魅力的になり、ユーザーが使いたくなる。皆さまにどんどん使っていただくことで、本当の意味でのサーキュラーが始まると考えています」と語ったとおり、展示では環境配慮素材自体が、空間を彩る一つのエッセンスになっている。

環境配慮素材を用いながら、固定観念にとらわれずに、“斑”を加えて新たな空間のあり方を示す。今回の展示が製品化へと直接的には結び付かなくとも、その試みの連続の先に未来の建築があるはずだと期待せずに はいられない。

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LIXILは「豊かで快適な住まいの実現」というミッションのもと、独自の技術力に加え“発想のエクササイズ”を重ねながら、様々なプロダクトを生み出し、その姿勢が、日本のデザインを牽引している。(画像は開口部のハイエンドブランド、NODEA WINDOW G)

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株式会社LIXIL

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