【インタビュー】ミケーレ・デ・ルッキがNIIと描く“未来のオフィス”とは? AMDL CIRCLEが示す新しい働き方

  • 文:井上倫子
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エーエムディーエル・サークル(AMDL CIRCLE)は、ミケーレ・デ・ルッキ(左)によって設立されたスタジオ。ミラノを拠点に、ヒューマニスティックかつ学際的なアプローチで建築、インテリア、プロダクトなどを手掛け、建築の未来を見据えた、変化を認め刺激するリサーチを続けている。右のダヴィテ・アンジェリはエーエムディーエル・サークルのDeputy Managing Director。Photo: Ooki Jingu

10月31日、オフィス家具を手掛けるイトーキのショールーム・ラボである「ITOKI DESIGN HOUSE AOYAMA」がオープンした。ここでは現在、「The STAGE by NII」と題し、新しいオフィスファニチャーブランド「NII(ニー)」の家具が展示されている。 NIIの家具は国際色豊かなデザイナーたちが手掛けている。今回はそのデザイナーの一組である、ミケーレ・デ・ルッキが率いるエーエムディーエル・サークルが、デザインした新作「ピグナ(PIGNA)」について、デ・ルッキ自身が語ってくれた。

世界で活躍するデザイナーを起用した新ブランド「NII」

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トッド・ブレイチャー(Todd Bracher)によるBITMAP。ブロックのようなソファを組み合わせ、さまざまなかたちのソファをつくることができる。
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ロドルフォ・アグレラ(Rodolfo Agrella)によるCONNEXA。ガラス天板を支える骨のようなスチールの脚が特徴。複数組み合わせて拡張することも。 

 

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相崎準/クレムによるPARLAMENTOは、1970年代のラウンジシートの彫刻的なフォルムと快適な座り心地にインスパイアされ誕生。組み合わせ次第で、場所を区切る存在となる。

NIIのコンセプトは「Ingenious design—創意創発するデザイン」。​自宅やカフェなどでどこででも仕事ができるようになったいま、改めてオフィスの価値、さらに「働くこと」そのものを見つめ直すことから誕生した。オフィスを単なる働く場所から、働く人が“躍動する舞台”へと昇華することを目指している。
 
​ファーストコレクションでは、エーエムディーエル・サークルやトッド・ブレイチャーや相崎準/クレムなど、国内外の第一線で活躍するデザイナー4組を起用。使う人の想像力やコミュニケーションを喚起するプロダクトを展開している。 

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自宅で仕事をする際にソファでのパソコン作業が増えたように、デスク以外での仕事のスタイルも定着した。硬すぎずやわらかすぎない座り心地のソファ「PIGNA」は、来客時や休憩、ミーティングなどさまざまなシーンで活躍しそうだ。

なかでもエーエムディーエル・サークルがデザインした「PIGNA」は、パーティションとソファが合体したユニークなソファで、建築家ならではの視点が取り入れられている。
 
デ・ルッキは語る。 「壁というものは日常に溶け込みすぎていて、我々は壁がどういったものなのか考えることすらしないと思います。しかしよく考えてみると、壁というのは非常に哲学的な意味を持っています。内と外を分ける境界でありながら、実は同じ場所に異なる人たちを一緒に存在させるという機能もある。要するに繋げることもできるのです」

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「PIGNA」にはソファがないディバイダーもある。薄い木の板で構成され、板の一部には全体を支える部材が仕込まれている。

さらにエーエムディーエル・サークルのダヴィテ・アンジェリはこう語る。
 
「ここで言う壁とは、普通の壁とは少し違うんです。木の板と板が少しずつ重なって、屋根や壁になる。これを、イタリアでよく見られる瓦屋根(イタリア語でtegola、singolaz)が由来の「シングルス(Shingles)」と呼んでいます。シングルスは、私たちが手掛けたインテリアでも使われています。隙間があり完全に遮っていないので、外の気配を感じることができるのです」
 
PIGNAには2種の高さで1~3人掛けのディバイダー付ソファがある。オフィス内でこれらの配置によって、ちょっとした空間をつくることができるのだ。

高齢でも働く時代が到来。働くことに喜びを

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これまで、ポストモダンムーブメント「メンフィス」の中心メンバーとして活躍、世界的に有名な建築雑誌「ドムス」の編集長も務めてきたデ・ルッキ。 

当初、イトーキからエーエムディーエル・サークルへのリクエストは「未来のオフィスのありかたについて、一緒に考えてほしい」ということぐらいで、とても自由なプロジェクトだったとアンジェリは言う。これまでさまざまな建築、家具をデザインしてきたデ・ルッキに、改めて、数十年後の未来のオフィスはどんな場所なのだろうか、尋ねてみた。
 
「いま、人類が経験したことのないスピードで社会が変化していっています。それに伴い、環境問題などさまざまな問題も生まれています。オフィスもそういった問題や変化に適応していかなければいけないでしょう」 
 
彼は、その一つに高齢化社会があるという。働き手である若者が少なくなる影響で、会社組織を含めたあらゆる集団は再編を迫られるだろうと予想する。 
 
「日本と同じように、イタリアでもリタイアする年齢が上がっていって、いまは72歳と言われています。今後も上がっていくでしょう。だからオフィスも、バリアフリーだったり、高齢者に向けたものに変わっていくのではないでしょうか? これまでは、建築も家具も若い人に向けたデザインであるのが普通でした。これからは、より幅広い年齢で使えるものが増えるといいですね」 
 
デ・ルッキ自身も74歳と、リタイアしていてもおかしくない年齢だ。最後に引退は考えていますか? と尋ねると、「私はMichele de Lucchi(=Lucky)の名にちなみ、仕事を喜びと捉え、働き続けるラッキーな男だ」と笑顔で答えた。 
 

NII

https://www.nii-ingenious.com