食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」。その公式デジタルアンバサダー「TasteHunters」に、日本人として初めて名を連ねたKeisuiが選ぶ——運命の一皿 。
記念すべき第1回目は、舞台をイタリア・フィレンツェへ。

私が「TasteHunter」になった理由
少しだけ、私の話をさせてほしい。
(今回はまじめな語り口調よ)
『The World’s 50 Best Restaurants』は、単なるグルメランキングではない。それは、料理を通じていまという時代を切り取り、文化としての「食」を再定義する、世界的なアワードだ。
ミシュランとは異なる視座。評価するのは、世界中の1000名を超える「記憶のプロ」たち。
彼らは皿の上にある“おいしさ”だけでなく、その背後にあるストーリー、哲学、土地の空気までを感じ取り、投票する。
選ばれたレストランは、単なる「食べる場所」ではない。
空間、音、香り、そしてもてなし——。
すべてがひとつの体験として編み上げられた、“世界でいま、行くべき場所”なのだ。
その「世界」を、リアルな感性で届けるのがTasteHunterの役割。
旅して、感じて、発信する。
私はいま、その“世界のテーブル”を渡り歩いている。だからこそ、この連載では、心に残ったひと皿をご紹介していきたい。
今回は、街を歩くだけで美意識が研ぎ澄まされていくように感じさせてくれる街、イタリア・フィレンツェで出会った苦手なひと皿。

苦手が、美学に変わる夜
「好き」と「嫌い」は、時に紙一重だ。
そして、それを超える瞬間は、忘れられないストーリーになる。
イタリア・フィレンツェ。シニョリーア広場を臨むGucci Garden。その一角に佇むのが、「Gucci Osteria Florence」だ。
東京にも名を馳せるグッチ オステリアの本家とも言えるこの地で、厨房を預かるのは、メキシコ出身の才媛カリメ・ロペスと、そのパートナーであり、料理人としての矜持を貫く男、紺藤敬彦——通称チャンピオンタカ。
席に着き、最初に手を伸ばしたのはメニューだった。なぜなら、私は「好き嫌い」が多い。「食のプロ」がそんなことでいいのか?と問われれても苦手なものは仕方ない。
店内の華やかさに胸を躍らせながらも、ページをめくる手はどこか慎重だった。
その中に、あったのだ。
“Prosciutto e Melone”——生ハムメロン。
正直に言う。
生ハムもメロンも好きなのに、このクラシックな組み合わせの“よさ”が、私はいまだにわからなかった。
甘さと塩気。果実と熟成肉。理屈はわかる。だが、心が動かなかった。
そんな私に、タカさんが「これならどうですか」と、そっと小さなお皿を差し出してきた。
「実は、僕も生ハムメロンがあまり得意じゃなくて…。どうにかもっと美味しくできないかと考えて生まれたのが、このパスタなんです。」
それは、パスタで仕立てられた【生ハムメロン】だった。
生ハムの塩気はメロンの香りや甘みを引き立て、パスタはメロンのソースによく絡みつつ、緩やかな余韻を残す。
驚きではなく、納得。
ひと皿に籠った説得力がそこにはあった。

料理とは記憶の再構築であり、価値観への挑戦でもあることを、改めてめ思い知らせてくれたひと皿だった。
そのほかの皿も、香りを楽しむアミューズや、ティラミスとアフォガートを掛け合わせたデザートなど、想像力が軽やかに遊んでいた。
チャンピオンタカ——
世界最高峰の舞台で、私の“嫌い”を“忘れらない瞬間”に変えた姿はまさにチャンピンにふさわしい。
メキシコの感性と、日本の矜持が、イタリアという舞台で出会い、その交差点から生まれたひと皿には、国境も言語も超えたクリエイションが感じられた。
もしフィレンツェを訪れることがあれば、ぜひその静かな衝撃を、あなた自身の五感で確かめてほしい。

Gucci Osteria Florence
Piazza della Signoria, 10
50122 Firenze (Florence), Italy
https://www.gucciosteria.com/en/florence

おいしいものがあれば西へ東へ、世界中を駆けまわるFoodie、Keisui。ミシュランと並ぶ食のコンペティション「世界のベストレストラン 50」の公式デジタルアンバサダーで、世界で15人しかいない「TasteHunters」に唯一の日本人として就任。Instagram: @keisui