いま注目すべき腕時計をデザインの視点から切る、雑誌『Pen』で好評連載中の「並木教授の腕時計デザイン講義」。今回のテーマは「ミドルサイズのラベンダーダイヤル」。ここ数年腕時計のトレンドになっている淡い中間色やペールトーンの中で、今年は特にラベンダーカラーに注目!
淡い中間色やペールトーンがここ数年腕時計のトレンドになっている中で、今年は特にラベンダーカラーが注目と言えるかもしれない。ロレックスやオメガといった業界を牽引するブランドからこぞって新作が発表されたが、近年の小径化の流れとも呼応し、34〜38㎜前後のケース径が主流だ。もちろん男女問わずに選べるジェンダーフリーの傾向と見る向きもできるが、メンズラインに使われることがまれだった薄紫色は、男性にとってこれまでにない個性を添える新たな選択肢とも言える。
もともとは植物の名前であり、花の淡い紫を指すラベンダーカラーは、西洋ではお馴染みの人気色だ。日本でも、聖徳太子が制定した冠位十二階で紫が最高位の服の色に据えられたように、古来、高貴な色として用いられてきた。
パープルとピンクを掛け合わせたような薄紫色は、落ち着きと華やかさを両立させた中間色として、ファッションの世界で重宝されてきた。それが腕時計の世界に越境してきたのには、ダイヤルの仕上げの高度化と関連が深い。ラッカー仕上げやブラッシュ加工の巧拙によって奥行きのある表情を生み出し、高級時計のひとつの表現として各社が自信をもって世に送り出すようになったと言えるだろう。
淡く優しげな色合いと30㎜台中盤のミドルサイズは、決してこれみよがしではない、絶妙な個性をさりげなく映し出す。『時をかける少女』の主人公がラベンダーの香りを嗅いでタイムリープするように、その時計には未来への跳躍力が備わっている。
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1.ROLEX(ロレックス)
オイスター パーペチュアル 36

ラッカーにマット仕上げを施したラベンダーダイヤル採用の新作。日本の淡藤色を想わせるカラーは、ベースとなる真鍮のプレートに合計6層のラッカーを重ねて均一な表面を生み出したもの。最後の工程でニスを塗布し、さらに磨きをかけることで輝きと深い色みが引き出されている。「オイスター パーペチュアル」の王道かつシンプルなデザインに、これまでにないカラーリングでさりげない個性を発揮する。
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2.GRAND SEIKO(グランドセイコー)
ヘリテージコレクション SBGW323

上品な淡い紫のダイヤルは、「桐」から着想を得たものだ。「グランドセイコースタジオ 雫石」を構える岩手県の県花でもある桐は、春を飾る淡い紫色の花を咲かせる「南部の紫桐」として名高い。グランドセイコーを代表するダイヤルのひとつである、岩手山の山肌を表現した「岩手山パターン」とこの「南部の紫桐」を融合させた奥行きのある表情は、世界に誇る日本の美意識をまさに表現している。
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3.OMEGA(オメガ)
シーマスター アクアテラ シェード

真鍮製のラベンダーダイヤルは、中央から外に向かってサンブラッシュが施されたラッカー仕上げが特徴で、エレガントで華やかな雰囲気を光の筋で美しく表現する。150m防水を備えた「シーマスター アクアテラ」のスポーティな印象と、優しげな色合いが見事にマッチした一本だ。丸みを帯びたインデックスの34㎜サイズの他に、シャープな印象の楔形のインデックスを備えた38㎜サイズも用意。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。近著に『ロレックスが買えない。』。※この記事はPen 2025年9月号より再編集した記事です