冷たさで涼をとるか、辛さで目を覚ますか。はたまた、職人の手仕事に浸るか。今夏、注目したのは“スタイル”別の麺の楽しみ方。ここでは、辛い麺を紹介。スパイスや山椒、唐辛子が織りなす刺激はただ辛いだけでなく、旨味や香りも奥深い。“攻めの一杯”で、夏の身体に活を入れよう。
暑いからこそ、啜りたくなる一杯がある。本特集では、「この夏、啜るべき麺」の厳選リストに加え、食通やクリエイターのお薦め、瀬戸内のご当地麺旅、レシピ提案、ローカルチェーン、製麺所の現場までを紹介。冷たさに癒やされ、熱さ・辛さにととのう。この夏、麺が気分だ。
『夏の麺を、食べつくす』
Pen 2025年9月号 ¥880(税込)
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朝挽きのトリプル山椒が導く、痺れと清涼感の余韻

担々麺の醍醐味は、奥深い辛さと痺れにある。しかし「麺山椒」の一杯は、その概念を覆す。この店が誇るのは、石臼で毎朝挽くトリプル山椒。熟成度の異なる中国の花椒2種に加え、和歌山県の「きとら農園」から直接仕入れるぶどう山椒も使う。その香りがとにかくフルーティーで、担々麺としては別格の清涼感を与えるのだ。
店主の加々美達也は、横須賀の名店「麺屋 庄太」をはじめ、フレンチやイタリアンでの修業経験もある人物。経験を武器に、独創的な山椒の使い方に行き着いた。
スープは鶏の清湯。これを芝麻醤と一緒に注文ごとに手鍋で乳化させたのち、トリプル山椒、醤油だれ、黒酢などと丼で合わせる。
「ひと口目には、仕上げに振ったぶどう山椒と一緒にスープを味わってみてほしいです」と加々美。口に入れた瞬間、ふわっと香る清涼感。次第に追いかけてくる旨味、辛み、痺れ。多重奏で濃密な味覚体験に、担々麺の新境地を見た。



麺山椒
住所:神奈川県横須賀市追浜町2-64
TEL:080-2243-4990
営業時間:10時〜15時
定休日:水、日
Instagram:@menzanshou
昭和の担々麺は、サラリと辛い

東京オリンピックが開催された1964年に創業した「支那麺 はしご本店」は、担々麺を看板に掲げ続けてきた老舗である。食すべきは名物「だんだんめん」。冬は身体を芯から温め、夏は辛味が食欲を呼び起こす。
スープは芝麻醤と醤油ベースに自家製の胡麻ペーストと紅油(ラー油)を加え、創業時から味を変えていない。サラリとした口当たりで、意外なほど軽やかに飲み干せる。胡麻の香りが程よく立ち、後を引く美味さがある。
麺も創業当時のまま。細めのストレート中太麺は、スープによく絡み、ひと口ごとにしっかりとした味が広がる。シャキシャキした青菜は箸休めにちょうどよく、大ぶりのチャーシューは長時間煮込まれたことで、口に入れるとほろほろとほどける。
昭和の醤油ラーメンに、四川のスパイスが重なったような味わいは、日本人の味覚に寄り添いながらも確かな刺激をもたらす。一度味わえば、もう一度食べたくなるはずだ。


支那麺 はしご 本店
住所:東京都中央区銀座6-3-5 第二ソワレ・ド ビル
TEL:03-3571-1750
営業時間:11時〜早朝5時(月〜金) 11時〜21時(土、日、祝)
定休日:1/1
タイの香りに出汁の底力、たどり着いたグリーンカレーの新境地

「バサノバ」のルーツは、90年代に原宿にあった豚骨ラーメン店「ばさらか」にある。その味を受け継いだ同店のスタンダードは、豚骨と和風出汁を合わせた「豚濁和出汁ソバ」。しかし、店の名前を世に広めたのは、なにを隠そう「グリーンカレーソバ」だ。
味の決め手となるグリーンカレーペーストは、レモングラスや青唐辛子をはじめとするハーブやスパイスのベースに、魚粉やナンプラー、ココナツミルクなどを加えて煮詰めたもの。それを店の自慢である豚骨と和風出汁で伸ばしてやることでスープが完成する。「ピリッとした辛さのあとから、豚骨の甘み、出汁の旨味が追いかけてくる、日本人好みのバランスに調整しています」と、店主の青島亜良は自信をのぞかせる。
エスニックでありながら、出汁の奥行きを感じる味わいは、単なる創作ラーメンの枠を超えた完成度。ここにしかない、新しいグリーンカレーラーメンのかたちだ。


バサノバ
住所:東京都世田谷区羽根木1-4-18
TEL:03-3327-4649
営業時間:11時〜22時
無休
Instagram:@bassanovaramen
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