夏に“効く”辛い麺。グリーンカレー、痺れる山椒、老舗の味を巡る3杯

  • 写真:伊藤菜々子、竹之内祐幸
  • 編集&文:石井 良、笹 元、石川博也
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冷たさで涼をとるか、辛さで目を覚ますか。はたまた、職人の手仕事に浸るか。今夏、注目したのは“スタイル”別の麺の楽しみ方。ここでは、辛い麺を紹介。スパイスや山椒、唐辛子が織りなす刺激はただ辛いだけでなく、旨味や香りも奥深い。“攻めの一杯”で、夏の身体に活を入れよう。

暑いからこそ、啜りたくなる一杯がある。本特集では、「この夏、啜るべき麺」の厳選リストに加え、食通やクリエイターのお薦め、瀬戸内のご当地麺旅、レシピ提案、ローカルチェーン、製麺所の現場までを紹介。冷たさに癒やされ、熱さ・辛さにととのう。この夏、麺が気分だ。

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朝挽きのトリプル山椒が導く、痺れと清涼感の余韻

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「担々麺」¥1,200。美しいビジュアルが食欲をそそる。辛さはハバネロとハラペーニョの粉末で出しており、痺れとともに5段階から選択が可能。

担々麺の醍醐味は、奥深い辛さと痺れにある。しかし「麺山椒」の一杯は、その概念を覆す。この店が誇るのは、石臼で毎朝挽くトリプル山椒。熟成度の異なる中国の花椒2種に加え、和歌山県の「きとら農園」から直接仕入れるぶどう山椒も使う。その香りがとにかくフルーティーで、担々麺としては別格の清涼感を与えるのだ。

店主の加々美達也は、横須賀の名店「麺屋 庄太」をはじめ、フレンチやイタリアンでの修業経験もある人物。経験を武器に、独創的な山椒の使い方に行き着いた。

スープは鶏の清湯。これを芝麻醤と一緒に注文ごとに手鍋で乳化させたのち、トリプル山椒、醤油だれ、黒酢などと丼で合わせる。

「ひと口目には、仕上げに振ったぶどう山椒と一緒にスープを味わってみてほしいです」と加々美。口に入れた瞬間、ふわっと香る清涼感。次第に追いかけてくる旨味、辛み、痺れ。多重奏で濃密な味覚体験に、担々麺の新境地を見た。

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麺は注文ごとにゆでる直前に手揉みする。揉む回数や圧を調整することで、麺の太さや長さをコントロール。スープの絡み具合を最適化している。
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左:その日に使う山椒を毎朝挽く。これだけでも香りが段違いだという。3種類の山椒をブレンドしている中でいちばん入っている量が多いのが「きとら農園」のぶどう山椒。清涼感はしっかりと感じられる。 右:店内はカウンターのみのシンプルなつくり。今年7月から営業時間が昼間の5時間のみになったため、早い時間の訪問がベスト。 
 

麺山椒
住所:神奈川県横須賀市追浜町2-64
TEL:080-2243-4990
営業時間:10時〜15時
定休日:水、日
Instagram:@menzanshou

昭和の担々麺は、サラリと辛い

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看板メニューの「だんだんめん」¥1,000。創業時に他店との差別化を図るために名付けられた。辛さは中辛、大辛など好みに応じて調整可能。

東京オリンピックが開催された1964年に創業した「支那麺 はしご本店」は、担々麺を看板に掲げ続けてきた老舗である。食すべきは名物「だんだんめん」。冬は身体を芯から温め、夏は辛味が食欲を呼び起こす。

スープは芝麻醤と醤油ベースに自家製の胡麻ペーストと紅油(ラー油)を加え、創業時から味を変えていない。サラリとした口当たりで、意外なほど軽やかに飲み干せる。胡麻の香りが程よく立ち、後を引く美味さがある。

麺も創業当時のまま。細めのストレート中太麺は、スープによく絡み、ひと口ごとにしっかりとした味が広がる。シャキシャキした青菜は箸休めにちょうどよく、大ぶりのチャーシューは長時間煮込まれたことで、口に入れるとほろほろとほどける。

昭和の醤油ラーメンに、四川のスパイスが重なったような味わいは、日本人の味覚に寄り添いながらも確かな刺激をもたらす。一度味わえば、もう一度食べたくなるはずだ。

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麺は程よいコシが感じられるゆで加減。無料のご飯を少しずつつまみながら麺を啜るのもよし。残ったスープの中に入れておじやにして締めるのも◎。
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右:レトロ建築の店内は、年季の入った長いカウンターが印象的。平日は朝5時まで営業しているので、飲みの締めにも最適。 左: 銀座に3店舗、そのほかに赤坂、日比谷、新小岩などに店がある。本店は、オープン前から行列ができ、常に数名の待ち客が控えるほどの人気ぶり。

支那麺 はしご 本店
住所:東京都中央区銀座6-3-5 第二ソワレ・ド ビル 
TEL:03-3571-1750
営業時間:11時〜早朝5時(月〜金) 11時〜21時(土、日、祝)
定休日:1/1

タイの香りに出汁の底力、たどり着いたグリーンカレーの新境地

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「グリーンカレーソバ」¥1,280。焼き目のついた鶏チャーシュー、穂先メンマをトッピング。残ったスープには「小ごはん」(¥150)を投入して雑炊風に。

「バサノバ」のルーツは、90年代に原宿にあった豚骨ラーメン店「ばさらか」にある。その味を受け継いだ同店のスタンダードは、豚骨と和風出汁を合わせた「豚濁和出汁ソバ」。しかし、店の名前を世に広めたのは、なにを隠そう「グリーンカレーソバ」だ。

味の決め手となるグリーンカレーペーストは、レモングラスや青唐辛子をはじめとするハーブやスパイスのベースに、魚粉やナンプラー、ココナツミルクなどを加えて煮詰めたもの。それを店の自慢である豚骨と和風出汁で伸ばしてやることでスープが完成する。「ピリッとした辛さのあとから、豚骨の甘み、出汁の旨味が追いかけてくる、日本人好みのバランスに調整しています」と、店主の青島亜良は自信をのぞかせる。

エスニックでありながら、出汁の奥行きを感じる味わいは、単なる創作ラーメンの枠を超えた完成度。ここにしかない、新しいグリーンカレーラーメンのかたちだ。

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合わせる麺は平打ちの中太麺。少し粘度のあるスープを持ち上げすぎないようにするため、縮れていないストレートの麺に行き着いたという。
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店を構えるのはラーメン激戦区の環七沿い。ビビッドなオレンジが店のトレードマークだ。現在は原宿と京都にも支店がある。

バサノバ
住所:東京都世田谷区羽根木1-4-18
TEL:03-3327-4649
営業時間:11時〜22時
無休
Instagram:@bassanovaramen

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