1863年創業のベルナルドは、フランスを代表する磁器ブランド。職人による伝統技術を継承しながら革新を続け、多くのアーティストたちとのコラボレーションも行ってきた。そんなベルナルドの多彩なラインアップが揃う東京・表参道のフラグシップストアを、現代アーティストのAKI INOMATAが訪れた。
伝統を守りながら、挑戦を続ける磁器の魅力
今年2月から3月にかけてロンドンのデルフィナ財団でアーティスト・イン・レジデンスに参加したINOMATAは、「イギリスの美術館や博物館では、セラミックを使った作品を多く目にしました。この素材には多彩な可能性が秘められていると感じます」と話す。ベルナルドのブティックにはフランス王朝時代から受け継がれてきた伝統的な絵皿から、現代アーティストとのコラボ作品まで、ブランドの歴史を物語る幅広い製品が並ぶ。
「ジェフ・クーンズやJR、ソフィ・カルにマリーナ・アブラモヴィッチ……ベルナルドには、個性豊かなアーティストとコラボレーションできる度量の広さを感じますね。技術力があるからこそ、磁器の可能性を広げることができるのだと思います」
ベルナルドの製品はフランス磁器の一大産地、リモージュでつくられている。長石や珪石、カオリンといった天然の鉱物を原料とし、1,400℃もの高熱で焼きあげる磁器はなめらかで真っ白な質感が特徴だ。INOMATAはその素材や製法に興味を惹かれるという。
「私は生き物が持つクリエイティビティに着目してリサーチを行い、作品を制作しています。石をすりつぶしてつくる磁器、自然物を使って製品をつくり続けているベルナルドともいつかコラボレーションできると嬉しいです」
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生き物の「つくる力」をテーマにしたものづくり
人間以外の、生き物がつくり出す能力に着目するINOMATA。木の枝を集めて巣をつくるビーバーや、枯葉を重ねて蓑をつくるミノムシ、殻を利用して身を守るヤドカリなどのふるまいを観察し、コラボレーションする試みを重ねてきた。
「ヒト以外の生き物に目を向けることで、人間中心主義から脱却できないだろうか、と考えています。ヒトがヒトのことだけを考えるのではなく、さまざまな生き物が複雑にあやとりをするように共存する世界を感じたい」
そんなINOMATAが注目したのが、「オーゾワゾー(鳥)」シリーズ。秋色に染まった鳥が金色の枝に止まる姿を描いたコレクションだ。これはナポレオン時代につくられたテーブルウェア「ジャルダン・デュ・ロワ」を現代版にアレンジしたもの。鳥の絵は、18世紀に刊行された『博物誌』でその姿を克明に描いた博物学者ジョルジュ=ルイ・ルクレール・ド・ビュフォンの挿絵へのオマージュとなっている。
「昔の百科事典を思わせる、博物誌的なタッチが好きです。製作の経緯を聞くと、より愛着が湧きますね」
鳥のデッサンに歴史へのオマージュを込めながら、抽象化された木の枝がリズミカルでモダンな印象を与えるこのテーブルウェアは日本でも人気のシリーズだ。
アーティストとして、ものをつくることの意味を問い続けるINOMATAは、「現代は人間が自然をコントロールし続けてきた結果、自然からしっぺ返しを受けている」と言う。一方でベルナルドは1世紀半にわたり、サステイナブルな素材を使って人間のクリエイティビティを追求してきた。INOMATAとベルナルドの出合いは、「つくる」という行為を通じて未来へと響き合う。
ベルナルド